特定商取引法平成28年改正における5年後見直し規定に基づく 同法の抜本的改正を求める意見書(2023年2月15日)(本イベントは終了しました。)


2023年(令和5年)2月15日


内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  河  野  太  郎  殿
経済産業大臣              西  村  康  稔  殿
消費者庁長官              新  井  ゆたか  殿
内閣府消費者委員会委員長  後  藤  巻  則  殿


京都弁護士会            

会長  鈴  木  治  一
  


特定商取引法平成28年改正における5年後見直し規定に基づく

同法の抜本的改正を求める意見書



第1  意見の趣旨
当会は、国に対し、特定商取引法平成28年改正における附則第6条に基づく「所要の措置」として、以下の内容を含む抜本的な法改正等を行うことを求める。
1  訪問販売・電話勧誘販売について
⑴  拒否者に対する訪問勧誘の規制
訪問販売につき、家の門戸に「訪問販売お断り」と記載された張り紙等を貼っておくなどの方法によりあらかじめ拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすること。
⑵ 拒否者に対する電話勧誘販売の規制
電話勧誘販売につき、特定商取引法第17条の規律に関し、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度を導入すること。
⑶  勧誘代行業者の規律
訪問販売及び電話勧誘販売につき、その契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特定商取引法上の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすること。
⑷  販売業者等の登録制
訪問販売及び電話勧誘販売を行う者は、国又は地方公共団体に登録をしなければならないものとすること。

2  通信販売について
⑴  インターネットを通じた勧誘等による申し込み・契約締結についての行政規制、クーリング・オフ及び取消権
通信販売業者がインターネットを通じて消費者を勧誘し、消費者が契約の申込を行い又は契約を締結した場合について、行政規制を設けること並びに消費者によるクーリング・オフ及び取消権を認めること。
⑵  インターネットを通じた通信販売における継続的契約の中途解約権
インターネットを通じた通信販売による継続的契約について、消費者に中途解約権を認めること及び中途解約の場合の損害賠償の額の上限を定めること。
⑶  解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備義務
通信販売業者がインターネットを通じて申込みを受けた通信販売契約について、契約申込みの方法と同様のウェブサイト上の手続による解約申出の方法を認めること及び迅速・適切に解約・返品に対応する体制を整備することを義務付けること。
⑷  インターネット広告画面等に関する規制の強化
インターネットの広告画面及び申込画面において、契約内容の有利条件や商品等の品質・効能の優良性を殊更に強調する一方、有利性や優良性が限定される旨の打消し表示が容易に認識できない表示をすることを特定商取引法第14条第1項第2号の指示対象行為として具体的に禁止すること。また、広告表示において事業者が網羅的で正確かつ分かりやすい広告を行わなければならないこと(広告表示における透明性の確保)を法令等で明確化すること。
⑸  インターネットの表示を中止した場合の行政処分
通信販売業者が不当なインターネット広告の表示を中止した場合であっても、行政処分(指示処分及び業務停止命令等)が可能であることを明示すること。
⑹  広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供義務
通信販売業者がインターネット上で契約の申込みを受けた場合、消費者が申込みの過程で閲覧した広告や勧誘過程の動画を一定期間保存する義務及び消費者に対して保存内容を提供する義務を負うものとすること。
⑺  連絡先が不明の通信販売業者及び当該業者の勧誘者等を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)
特定商取引法第11条第6号及び同法施行規則第8条第1号及び第2号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者等のプラットフォーム提供者その他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できることとすること。
⑻  適格消費者団体の差止請求権の拡充
適格消費者団体の差止請求権について、前記⑴から⑷の行政規制等に違反する行為等を請求権行使の対象に追加すること、及び⑸の場合に差止請求権行使の対象となる旨を明示することなど、その拡充を行うこと。

3  連鎖販売取引等について
⑴  連鎖販売業に対する開業規制の導入
連鎖販売取引について、国による登録・確認等の事前審査を経なければ、連鎖販売業を営んではならないものとする開業規制を導入すること。
⑵  後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加
特定利益収受の契約条件を設けている事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し特定利益を収受し得る取引に誘引する場合は、特定商取引法の連鎖販売取引の拡張類型として規制が及ぶことを条文上明確にすること。
⑶  不適合者に対する紹介利益提供契約の勧誘等の禁止
物品販売又は役務提供による対価の負担を伴う契約をした者が次のいずれかに該当する場合は、その者との間において、新規契約者を獲得することにより利益が得られることを内容とする契約の勧誘及び締結を禁止すること。
① 22歳以下の者
② 先行する契約として投資等の利益収受型取引の契約を締結した者
③ 先行する契約の対価に係る債務(その支払のための借入金、クレジット等の債務を含む)を負担している者
⑷  連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設
連鎖販売取引について、収受し得る特定利益の計算方法等を特定負担に関する契約を締結しようとする者に説明しなければならないものとすること。
⑸  連鎖販売取引における業務・財務等の情報提供義務の新設
連鎖販売取引について、業務・財産の状況等に関する情報を特定負担に関する契約を締結しようとする者や加入者に開示しなければならないものとすること。

第2  意見の理由
1  はじめに
⑴  2016年(平成28年)、特定商取引法が改正され(以下「平成28年改正」という。)、その附則第6条において、「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の特定商取引に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」と定められた。
そして、同改正法は2017年(平成29年)12月1日に施行され、2022年(令和4年)12月をもって、施行後5年が経過した。
⑵  我が国の高齢化が進む中、高齢者の被害がますます増加することや、2022年(令和4年)4月の成年年齢引き下げにより18歳、19歳の若年者のマルチ商法被害が増加することが懸念されるため、新たな被害防止のための規制が必要となる。
また、インターネット通販によるトラブルは増加しているが、既存の通信販売に関する規制は被害の発生を十分に防止できず、被害救済の点からも不十分である。
⑶  そこで、さらなる特定商取引法の見直しが必要である。

2  訪問販売・電話勧誘販売について
⑴  拒否者に対する訪問勧誘の規制
消費者庁の調査(「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査」(2015年3月))において、訪問販売・電話勧誘販売につき、「必要ない・来てほしくない」とする消費者の割合はいずれも96%を超えている。これが現実の市民の感覚である。
また、本来、自宅は取引を行う場ではない。消費者が要請していない訪問販売は、多くの消費者にとって迷惑であるばかりか、不意打ち的な勧誘により、消費者が不本意な契約をしてしまうことも少なくない。令和4年版消費者白書では、「認知症等の高齢者は、本人が十分に判断できない状態にあるため、『訪問販売』や『電話勧誘販売』による被害に遭いやすく、事業者に勧められるままに契約したり、買い物を重ねる場合があ」ると指摘されている。さらに、消費者庁による「障がい者の消費行動と消費者トラブル事例集」(2019年(令和元年)5月)によれば、障がい者が被害に遭いやすいトラブルの1つとして訪問販売(羽毛布団)が挙げられている。
このように、消費者の9割以上が訪問販売を望んでいないという状況にあることや、判断力の低下等により勧誘を断ることが十分に期待できない消費者の存在等を考えると、訪問販売については、消費者が要請・同意をした場合にのみこれを許容することが合理的であると考えられる。少なくとも、消費者が勧誘を拒絶したにもかかわらず、訪問販売を行うことは、許されるべきではない。
この点、特定商取引法第3条の2第2項は、消費者が契約を締結しない旨の意思を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止している。
しかし、消費者庁は、「訪問販売お断り」と記載された張り紙等(以下「ステッカー」という。)を家の門戸に貼付することについて、意思表示の対象や内容、表示の主体や表示時期等が必ずしも明瞭でないとして、同項の「契約を締結しない旨の意思」の表示には該当しないとの解釈を示している。
このような解釈を採用すると、消費者があえてステッカーを貼付しているにもかかわらず結局は販売業者の勧誘に個別に対応することを強いられることになる。また、対応した結果、不本意に勧誘を受け入れることを応諾させられてしまう危険性もある。加えて、販売業者ごとに個別に拒絶しなければならない点で不便である。
そもそも、同規定は、意思の表示方法として、文書その他の表示によるものを排斥していない。また、多くの自治体が消費生活条例等においてステッカーに効力を認めており、京都府においても、京都府消費生活安全条例及び同施行規則の逐条解説において、訪問販売お断りステッカーの貼付が勧誘拒絶の意思表示に当たることを認めている。
消費者庁も、これら条例上の効力については認めており、その解釈は一貫性を欠くものとなっている。
これらの点に鑑み、現在の消費者庁の解釈は直ちに改められるべきであり、解釈上の疑義を残さないために、ステッカーにより拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすべきである。
⑵  拒否者に対する電話勧誘販売の規制
電話勧誘販売についても、訪問販売と同様に、少なくとも、消費者が勧誘を拒絶したにもかかわらず、電話勧誘販売を行うことは、許されるべきではない。消費者の中には自宅電話番号を知られており、無碍に勧誘を断ることができないまま、必要のない契約をしてしまう者もおり、電話勧誘販売においても勧誘を事前に拒絶できる制度が、消費者の生活の平穏を守るために必要である。
特定商取引法第17条は、消費者が契約を締結しない旨の意思を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止している。電話機の応答機能(留守番応答機能)や迷惑電話対応装置により、拒絶の意思を伝えることは可能ではあるものの、装置設置のための経済的負担や、事業者以外からの電話に対しても応答メッセージを流すことになってしまう不便さ等から、勧誘拒否の意思を表示する方法として必ずしも広まっているとは言えない。そのため、多くの消費者は、迷惑な電話をいったんは受信しなければならないという負担を解消できず、応答した結果、不本意に勧誘を受け入れることを応諾させられてしまう危険も生じている。また、販売業者ごとに拒絶しなければならなくなるという不便もある。
そこで、消費者が販売業者に電話応対することなく、事前に勧誘拒否の意思を表示するために、Do-Not-Call制度、すなわち、電話勧誘を受けたくない人が電話番号を登録機関に登録することとし、登録された番号には事業者が電話勧誘することを禁止する制度を導入すべきである。
以上より、特定商取引法第17条の規律を更に一歩進め、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度を導入すべきである。
なお、Do-Not-Call制度を採用するといわゆる「カモリスト」として悪用されるのではないかとの懸念の声も存在するが、登録電話番号を登録機関が事業者に開示する方式(リスト開示方式)でなく、登録機関の保有する電話番号を事業者側が照会する方式(リスト洗浄方式)を採用すれば、悪用されることは相当程度防止することができる。
⑶  勧誘代行業者の規律
特定商取引法における訪問販売及び電話勧誘販売についての行為規制は、「販売業者」及び「役務提供事業者」(以下「販売業者等」という。)であるが(同法第2条第1項参照)、近年、訪問販売や電話勧誘販売にあっても、営業活動それ自体のアウトソーシング化が進み、勧誘行為を他の業者に委託する例が増えている。勧誘行為の媒介・代理を受託したいわゆる勧誘代行業者に行為規制が及ぶかについては、「販売業者等」の意義との関係で、議論の有り得るところである。
訪問販売及び電話勧誘販売において、その規制の核心は、その販売方法である訪問・電話による勧誘行為にあるのであって、その勧誘行為そのものを直接行っている事業者を行為規制の埒外とすることは妥当ではない。契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特定商取引法上の訪問販売及び電話勧誘販売の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすべきである。
なお、連鎖販売取引と業務提供誘引販売取引に関しては、現行法においても、「物品の販売(そのあっせんを含む)又は役務の提供(そのあっせんを含む)」(特定商取引法第33条、第51条)と規定しており、訪問販売及び電話勧誘販売においても、勧誘代行業者を利用することによる脱法行為が許されないことを条文上明らかにすべきである。
⑷  販売業者等の登録制
訪問販売や電話勧誘販売は、店舗販売と比較して、店舗を持つことなく営業を行うことが可能であることから、信用力の低い事業者の参入も容易である。また、不正な行為を行いながらその所在を変えて事業を繰り返すことも可能である。そのため、訪問販売や電話勧誘販売においても、店舗販売に準ずる信頼を確保するため事業者の登録制を採用すべきである。
登録制の採用については、行政コストを懸念する見解もあるが、食品衛生法上の営業許可、建設業法、宅地建物取引業法等において、登録制や許可制を採用する事業は相応にあり、その登録数、許可数も決して少なくはない。また、登録を課すという開業規制により被害事例を減少させることができれば、結果的にはコストも含めた行政負担の軽減につながるとも考えられる。
地方自治体においては、野洲市(滋賀県)が条例によって訪問販売事業者登録制度を実施しており、国によって同様の制度を実施することは困難ではない。
そして、登録制の実効性を担保するため、無登録で事業を行った場合には、刑事罰を設けるべきである。

3  通信販売について
⑴  インターネットを通じた勧誘、アクティブ広告の誘引による申込み、契約の行政規制、クーリング・オフ及び取消権の新設
従来、通信販売として想定されていた形態は、不意打ち性、密室性、攻撃性といった要素がないという理由から、他の特定商取引法の取引類型と異なり、氏名等の明示、再勧誘の禁止等の行為規制が設けられていない。また、返品制度はある(ただし、特約により排除・変更が可能)ものの、クーリング・オフ制度や不実告知による取消権といった民事上の規定も設けられていない。
しかし、近年、通信販売において急増している消費者のトラブルは、SNSを通じて消費者にメッセージが送られてきたり、SNS上の広告を見たことをきっかけにインターネットを通じて事業者や関係者から勧誘されたりして、申込みに誘導される例が多い。
これらの手段による勧誘は、消費者に突然一方的にされる点で不意打ち性がある。スマートフォン、タブレット、パソコン等を利用した事業者と消費者の一対一のやりとりであり、密室性が高い。さらに、SNSや動画の視聴による繰り返しの勧誘は、断られても勧誘を続ける訪問販売における不招請勧誘と同様の攻撃性もある。また、SNS等での勧誘は匿名性が高く、事業者や勧誘者の素性が不明であることが多い。SNS上やWEB上でのやりとり、無料通話アプリによる通話により契約は、契約内容が不明確となりやすい。これらの点は、従来想定されていた通信販売と異なり、訪問販売や電話勧誘販売との類似性が強く、これらの販売類型と同じ問題点があり、同様の規制が必要である。
また、アクティブ広告の中でも、特にターゲティング広告には、以下のような問題がある。ターゲティング広告は、検索・閲覧履歴やGPS情報等を利用して、趣味嗜好や行動範囲によってターゲットとする消費者を絞り込んだ上で当該広告によって即座に申込みをさせる意図のもとで提供される。その広告の内容は、「商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得る」ものであり(最高裁判所平成29年1月24日判決・民集71巻1号1頁)、広告から表示されたリンクから誘導された申込画面によって申込みをする場合、広告と申込みの意思表示との因果関係も明白である。したがって、ターゲティング広告による誘引は、消費者の契約締結の自主性を阻害するものであり、「勧誘」そのものである。また、ターゲティング広告は、消費者が別の目的でスマートフォンの画面を見ている際に、消費者の意図によらず、突然割り込んで表示されるため、消費者は他の選択肢との比較検討をしないまま購入に至る点で、訪問販売等と同様の不意打ち性がある。さらに、ターゲティング広告は、「今だけ」「初回無料」等の購買意欲をそそる表現を繰り返し掲載することが可能であり、契約締結するか否かの冷静な判断を困難にするという点で、訪問販売等と同様の攻撃性がある。
以上のような通信販売の問題点に鑑み、通信販売にも、行為規制として、訪問販売等と同様の氏名等の明示、再勧誘の禁止、不実告知の禁止、故意の事実不告知の禁止、威迫困惑行為の禁止、債務の履行拒否・不当な遅延の禁止、過量販売の禁止、顧客の知識・経験・財産状況に照らし不当な勧誘の禁止、契約書面に虚偽記載をさせる行為の禁止、金銭を得るための契約を締結させるための行為の禁止、消耗品の誘導開封の禁止等を設けるべきである。また、民事上の規定としても、訪問販売等と同様のクーリング・オフ、不実告知及び重要事実の不告知の場合の取消権を設けるべきである。
⑵  インターネットを通じた通信販売における継続的契約の中途解約権の新設
継続的契約の解約について、民法上明確な規定は存在せず、特定商取引法においても、特定継続的役務提供契約における指定役務に該当しない継続的契約には中途解約の規定が存在しない。また、近年トラブルの多い定期購入契約についても、中途解約を認める規定が存在しない。
しかし、通信販売により継続的な役務提供契約を締結する場合、消費者が契約内容を十分に理解しないまま契約を締結することも少なくない。そのため、消費者が想定していた役務内容と実際の役務内容とが異なっていたり、消費者の事情が変わり契約が不要となったりするなど、中途解約が必要となる場合がある。そうであるにもかかわらず、消費者が容易に解約できないため、高額な代金を負担しなければならなくなったり、解約のため高額な違約金を請求されたりするという問題がある。
以上のような問題点から、インターネット通信販売における継続的契約については、特定継続的役務提供と同様の中途解約権(理由を問わず将来に向かって契約を解消する解除の趣旨)を新設し、中途解約の場合に消費者が負担する損害賠償額の上限を定めるべきである。
⑶  解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備義務
インターネット上の通信販売において、事業者がウェブサイト上で購入申込みを受け付けていながら、ウェブサイト上での解約を受付けていない場合や、解約受付に際し、契約申込時に提供したもの以外の個人情報の証明資料等を要求する場合、解約の申し出を電話に限定しながら消費者が架電しても電話がつながらず解約ができない場合、ウェブサイト上での解約に複雑な手順を要求する場合等、解約・返品が困難な事例が散見される。
そこで、契約申込と同様の方法(ウェブサイト上での手続)による解約申出を認めることを義務付けるべきである。また、解約・返品にあたって、消費者に新たな個人情報の証明資料を要求することを禁止し、消費者からの解約申出に対する受付体制の整備義務、及び解約申出に対して迅速かつ適切に対応する体制の整備を義務付けるべきである。
さらに、電話による解約を認める場合において、消費者が解約期間内に架電したにもかかわらずつながらなかったことにより同期間が経過した場合は、当該事業者が「正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたとき」にあたるものとして、同期間内に解約の申出があったものとみなすこと(民法第97条第2項)を確認する規定を設けるべきである。
⑷  インターネット広告画面に関する規制の強化
特定商取引法2021年(令和3年)改正において、特定申込における申込画面での表示義務と、表示義務のある事項について人を誤認させるような表示が禁止されるとともに(同法第12条の6)、取消権(同法第15条の4)が新たに規定されたが、広告画面の表示については同様の改正規定は設けられなかった。
インターネット広告画面の中には消費者の誤認を招く不公正な表示がなされている事例が少なくない。しかし、特定商取引法第11条の広告表示義務においては、所要事項が広告のどこかに表示されていれば、広告自体に「著しい虚偽」又は「誇大」な表示がない限りは、同条の表示義務には違反していないと解される可能性がある。特に健康食品や化粧品については、商品の品質・効能につき「著しく優良であると誤認させるような広告」によるトラブルが多発しているが、誇大広告等の禁止に該当するための要件(同法第12条)が抽象的かつ不明確であり、規制が不十分である。
以上のような問題点から、インターネット広告画面について、契約内容の有利条件と不利益条件、商品等の品質等が優良であることとその打消し表示を、分離せず一体的に記載する義務を新設し、それに違反する表示を特定商取引法第14条第1項第2号の指示対象行為(顧客の意思に反して申込みをさせようとする行為)に追加するとともに、禁止される表示例をガイドライン等で明確化すべきである。
また、消費者に商品・役務について自主的合理的な選択の機会を確保するため、商品・役務に関して事業者が網羅的で正確かつ分かりやすい広告表示を行わなければならないことを法令等で明確化すべきである。
⑸  インターネットの表示を中止した場合の行政処分
通信事業者が、広告表示義務(同法第11条)、誇大広告の禁止(同法第12条)、特定申込を受ける際の表示義務(同法第12条の6)等に違反した場合、主務大臣は指示等の行政処分を行うことができる。
しかし、インターネット上の表示は事業者が容易に中止・削除を行えるため、事業者が表示を中止・削除することで、「通信販売に係る取引の公正及び購入者又は役務提供を受ける者の利益が害されるおそれ」(同法第14条第1項柱書、同法第15条第1項柱書)が消滅したと反論することがある。また、いったん中止・削除した表示を事業者が再度表示することも容易であるから、表示を中止した場合に行政処分ができないとすれば、不当な広告表示等を抑止して消費者の利益を保護しようとする法の趣旨が没却される。
そこで、通信販売事業者が、インターネット広告や特定申込における申込画面の表示を中止した場合でも行政処分が可能であることを、法令上明確化すべきである。
⑹  インターネット上の広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存、開示、提供義務の新設
現在、通信販売事業者に対して、広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存、開示、提供義務を定めた規定はない。
しかし、インターネット通信販売における定期購入契約のトラブルにおいては、広告画面及び申込画面の表示が問題となることが多い。また、インターネット上の動画を用いて広告・勧誘が行われるケースがある。ところが、事業者とトラブルになることを想定して、消費者が広告・申込画面、広告・勧誘動画を保存しておくことは多くはないうえ、インターネット上の広告・申込画面は変更・削除が極めて容易であるため、トラブルとなった時点で申込時の画面から変更されていて、消費者が見た広告画面等を再び表示することが困難となる場合が多い。他方で、事業者からは、申込時に適切に表示をしていたなどと反論がなされることがある。
そこで、取消権等の実効性を確保するために、事業者に対して、広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供義務を新設すべきである。同義務を認めても、事業者が義務を履行することは容易であり過度な負担とはならない。また、インターネット通信販売においてはアフィリエイト広告等、事業者から委託を受けた者による広告・動画を見て購入に至る場合も多く、アフィリエイト広告・動画についても上記義務を課すべきである。
⑺  連絡先不明の通販事業者及び当該事業者の勧誘者等を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)
民事訴訟を提起するには、訴状に「当事者の氏名又は名称及び住所並びに代理人の氏名及び住所」を記載しなければならない(民事訴訟法第133条、民事訴訟規則第2条第1項第1号)。
しかし、インターネット上で行われる勧誘ではSNS等を利用して匿名で行われることが少なくない。
通信販売における特定商取引法上の事業者の氏名・名称・住所・電話番号の表示義務は、「広告をするとき」に限られているため、個別の勧誘時に同義務が及ぶかは文言上明らかではない。また、表示義務違反の行政処分の対象となるのは販売業者又は役務提供事業者に限られ、広告又は勧誘を行ったものが販売業者又は役務提供事業者から独立している場合は行政処分の対象にならない。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律における発信者情報開示制度も、発信者情報開示の対象となる権利侵害行為が「特定電子通信」(同法第2条第1項)によるものに限定されており、詐欺的な広告、勧誘を経た通信販売による財産被害にはできない。そのため、匿名の事業者について、氏名・名称等を特定できないことがほとんどである。
そこで、特定商取引法第11条第6号及び同法施行規則第8条第1号又は第2号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者等のプラットフォーム提供者その他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できることとする立法措置を講ずるべきである。
⑻  適格消費者団体の差止請求権の拡充
以上の点についての実効性を確保するために、適格消費者団体の差止請求権の対象として、通信販売業者による前記⑴において提案する取消権の対象となる行為、同⑴において提案するクーリング・オフや同⑵において提案する中途解約権を制限する特約や妨害行為、同⑶の解約等への受付体制整備義務に違反する行為、同⑷の広告規制等に違反する行為を追加すべきである。
また、事業者が違反行為を中止した場合であっても、同種行為の再開のおそれがあるときは、前記⑸の行政処分のみならず、適格消費者団体による差止請求が可能であることを特定商取引法に明示すべきである。

4  連鎖販売取引について
⑴  連鎖販売業における開業規制の新設
ア  開業規制の必要性
全国消費生活情報ネットワークシステム(PI0-NET)によるマルチ取引に 関する消費生活相談の件数は、2008年の割賦販売法改正後も毎年1万件以上あり、現状の規制では悪質なマルチ取引を抑止できていない。また、2020年度(令和2年度)の相談件数のうち49%を29歳以下が占めており、若年者がトラブルに遭う割合が増加している。そして、近時は、各種の投資取引、アフィリエイト等の副業、暗号資産(仮想通貨)等の利益収受型の物品又は役務を対象に販売を拡大する手法としてマルチ取引を用いる、いわゆる「モノなしマルチ商法」のトラブルが増加している。勧誘方法も、若年者を対象に、メールやSNS(コミュニケーションアプリ、マッチングアプリ)等インターネット上の匿名性の高いツールを利用したものが増加しており、組織の実態、中心人物や自分を勧誘した相手方の特定もできない等、被害回復が困難なケースが増えている。
従前から、金融商品取引業に該当する行為を無登録で行う金融商品取引法に違反するものや、実態が無限連鎖講の防止に関する法律に違反する金品配当組織であるようなものが、連鎖販売取引の手法を用いて被害を拡大させるケースも繰り返されている。
また、連鎖販売取引においては、特定利益の収受を目的として、一定期間にわたり、取引が継続することが想定されることから、連鎖販売取引業者においては、組織、責任者、連絡先等を明確化し、取引商品・役務の内容・価額、特定利益の仕組み、収支・資産の適正管理体制、トラブルを生じた場合の苦情処理体制や責任負担体制の明確化が求められる。
上記のような被害を防止し、連鎖販売業者における適切な体制整備を担保するため、事業者が行おうとする連鎖販売取引業の適法性、適正性等を行政庁が事前に審査する手続を経た場合にのみ取引を行うことができるものとする開業規制を新設すべきである。
連鎖販売取引の開業規制を導入する際の法制度としては、登録や事前確認制度等が考えられる。そして、集団投資スキーム等の金融商品取引業に該当する行為を無登録で行うといった金融商品取引法違反など取扱商品・役務の取引が違法であるおそれがあるときや、そもそも適正なリスク告知がなされることが想定困難で取引が適正に行われないおそれがあるときは、登録等を拒否するものとすべきである。
イ  開業規制の内容
開業審査は、統括者がその連鎖販売業について申請する義務を負い、開業審査を経た連鎖販売業についてのみ広告、勧誘、契約の締結をできるものとすべきである。
連鎖販売業の適法性、適正性を確保するため、事前審査の内容には、取り扱う物品又は役務の内容及び価額、特定利益の計算方法等を含めるべきである。また、取り扱う物品又は役務の内容及び価額、特定利益の計算方法等を変更するときは、事前に審査を要するものとするとともに、連鎖販売業を継続することについて一定期間ごとに更新審査を要するものとすべきである。
ウ  開業規制事務の主務官庁
連鎖販売取引は、加入者が新規加入者を次々と勧誘し組織を拡大する性質があり、インターネットを利用した勧誘により、加入者が全国的に広がることが予想される。したがって、連鎖販売取引に関する開業規制の事務を担う行政機関は国とするのが相当である。
エ  開業規制の実効性確保
開業規制の実効性確保及び被害救済のため、開業規制に違反して連鎖販売取引を行った事業者は、刑事罰の対象とするとともに、当該取引の相手方は当該契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができるものとすべきである。
⑵  後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加
近時、物品販売等の契約(以下「先行する契約」という。)を締結した後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む事例、つまり特定利益の収受に関する説明を後出しするマルチ取引(以下「後出しマルチ」という。)のトラブルが増えている。後出しマルチでは、大学生等の若者に対し、投資に関する情報商材やセミナー、自動売買ソフト、副業のコンサルタントサポートなどの利益収受型の物品又は役務の契約が先行してなされることが多い。契約者は、容易に利益が得られるかのような勧誘によって、借入れをしてまで契約を締結したものの、勧誘時の説明と異なって利益が得られず、借入金の返済に窮した状態で、他の者を勧誘して契約を獲得すれば特定利益を得られると勧誘されてマルチ取引に参加し、新規契約者の勧誘をして、被害が拡大するという不当勧誘行為を連鎖させる構造にある。
現行の特定商取引法における連鎖販売取引の要件は、「特定利益を収受し得ることをもって誘引し、特定負担を伴う取引をすること」と規定されている(同法第33条第1項)ため、後出しマルチに対して、連鎖販売取引の規制は及ばないが、このような脱法的な後出しマルチは規制すべきである。
そこで、特定商取引法第33条第1項を改正して、後出しマルチを連鎖販売取引として規制すべきである。すなわち、特定利益を収受し得る契約条件と特定負担を伴う契約を組み合わせた仕組みを設定している事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的としながら、特定負担に係る契約を締結することを明確に連鎖販売取引の一類型とすべきである。
⑶  不適合者に対する紹介利益提供の勧誘の禁止
次に掲げる者に対する紹介利益提供の勧誘を禁止すべきである。
ア  先行する契約の相手方が22歳以下の者である場合
22歳以下の者は、成人であっても学生であったり、就労していてもその年数が浅いなど社会的経験が乏しかったりする。そのため、かかる者との間のマルチ取引は、適合性原則に違反する。
イ  先行する契約の相手方が投資等の利益収受型の取引契約を締結した者である場合
後出し型連鎖販売取引の項(前記4⑵ア)において述べたとおり、利益収受型取引の相手方に対して後出しで紹介利益の収受を勧誘することは、不当勧誘行為を連鎖させる構造にあり、不適正な勧誘が繰り返されていくことにつながるおそれが大きい。
ウ  先行する契約の相手方が当該契約の対価に係る債務(その支払いのための借入金、クレジット等の返済)を負担している者である場合
先行する物品販売等の契約に基づく債務を負担している者は、その支払いを行わなければならない状況にあるため、勧誘するにあたり、不実告知や断定的判断の提供、強引な勧誘をする等の不適正な販売方法を引き起こすおそれが大きい。
⑷  連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設
連鎖販売取引は、これに加入することで当該加入者及び他の構成員の販売活動により利益を得ることを目的とした投資取引の一種であるといえる。また、新規加入者が後続の加入者を順次勧誘するという特性から、「必ず儲かる」等の不実告知や断定的判断の提供といった不当な勧誘が行われやすく、誤認による契約を招くおそれがある。
そこで、特定負担についての契約を締結しようとする連鎖販売を行う者には、その相手方に対し、①収受し得る特定利益の計算方法、②特定利益の全部又は一部が支払われないことになる場合があるときはその条件、③最近3事業年度において加入者が収受した特定利益(年収)の平均額、④連鎖販売を行う者その他の者の業務又は財産状況や特定利益の支払の条件が満たされない場合等により、特定負担の額を超える特定利益を得られないおそれがある旨の説明を義務付けるべきである。さらに、これらの概要書面及び契約書面への記載も義務付けるべきである。
⑸  連鎖販売取引における業務・財務等の情報開示義務の新設
同様の理由から、①統括者がその連鎖販売業を開始した年月、②直近3事業年度における契約者数・解除者数・各事業年度末の連鎖販売加入者数、③直近3事業年度における連鎖販売契約についての商品又は権利の種類ごとの契約の件数・数量・金額、又は役務の種類ごとの件数・金額、④直近3事業年度において連鎖販売加入者が収受した特定利益(年収)の平均額を概要書面及び契約書面に記載することを義務付けるとともに、統括者には、これらの事項並びにその連鎖販売業に係る直近の事業年度における業務及び財産の状況を連鎖販売加入者に開示することを義務付けるべきである。

以 上



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