「敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に反対する会長声明」(2023/2/15)


1  内閣は、2022年(令和4年)12月16日、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」(以下この3文書を「安保3文書」という。)を閣議決定した。安保3文書は、敵基地攻撃能力または反撃能力(以下「敵基地攻撃能力」という。)の保有を明記し、そのための費用を含む防衛費を、2023年度から2027年度までの5か年で総額43兆円に拡大する方針を示している。
  「国家安全保障戦略」は、敵基地攻撃能力を「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」と定義し、その保有を明記した。この方針に従い、「防衛力整備計画」は、12式地対艦誘導弾能力向上型(射程を1000km以上に延伸)、島嶼防衛用高速滑空弾及び極超音速誘導弾の開発・試作を実施・継続するとともに、防衛力の抜本的強化を早期に実現するため、米国製のトマホーク(射程約1600km)を始めとする外国製スタンド・オフ・ミサイルの着実な導入を実施するとしている。
  しかしながら、敵基地攻撃能力の保有は、次項以下の法的理由により、許されない。
2  日本国憲法第9条のもとでの専守防衛を大きく変容させるものであり、許されない。
  日本国憲法第9条の下、従来の政府解釈では、自衛権の発動について、①他国からの武力攻撃が発生した場合で、②他に適当な手段がないときに、③これを日本の領域外に排除するための必要最小限度の実力行使に限られるとし(自衛権発動の3要件)、他国に直接脅威を与えるICBM、中距離・長距離弾道弾、長距離核戦略爆撃機、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母などの攻撃的兵器は、自衛のための必要最小限度の範囲を超える「戦力」(第9条第2項)にあたるため保有しないとする、いわゆる専守防衛に徹する立場が繰り返し確認されてきた。個別的自衛権の行使としても他国への攻撃を可能とする敵基地攻撃能力を保有することは、歴代内閣による防衛方針を反故にするものである。
3  また、国際法に反する先制攻撃に繋がりかねないとともに、他国への攻撃範囲を際限なく拡大する危険がある。
  発射から飛来、着弾までの時間的間隔が短い弾道ミサイル等による攻撃を念頭におくと、「他国からの武力攻撃が発生した場合」の認定・判断は極めて困難であり、国際法上も違法な先制攻撃に繋がりかねない。しかも、安保3文書では、攻撃対象の範囲が何ら示されておらず、2022年(令和4年)4月26日、与党自由民主党が「国家安全保障戦略」の改定に向け内閣に示した提言において、「反撃」の対象を基地に限定せず相手国の指揮統制機能を含むとしていることに鑑みても、相手の領域における様々な拠点や施設が歯止めなく目標とされる危険性がある。
4  さらに、当会が一貫してその違憲性を指摘している安保法制が施行されている現状では、「我が国に対する武力攻撃が発生した」場合のみならず、「我が国と密接な関係のある他国に対する武力攻撃が発生し」、我が国に一定の危険があると判断された場合(存立危機事態)の行使もあり得る。そのため、集団的自衛権の行使の名のもとに、自国への直接攻撃以外の場合にまで敵基地攻撃能力が用いられ、同盟国と一体となった戦争に加担する危険性は、一層高まることになる。殊に、京丹後市経ヶ岬にアメリカ軍Xバンドレーダー基地を抱える当会も、強く懸念するところである。
5  「国家安全保障戦略」では、敵基地攻撃能力保有の目的について、他国に対する軍事的優位性を強調することによる抑止的効果(以下「抑止力」という。)に求める考え方も示されている。
  しかしながら、自国が抑止力を高めれば、相手もさらに軍備を増強し、とめどない軍拡競争に陥り、かえって軍事的な緊張を高め、その一方で、自国の軍事費の増大が国家財政をひっ迫させ、経済や市民生活に悪影響を及ぼす限界があることは、歴史の示すところである。
  また、万一、現実の戦闘に発展すれば、相手国の領域を直接攻撃することは、当然に相手国の反撃を招いて武力の応酬に直結し、その結果、多大な国民の犠牲と広範な国土の荒廃をもたらす。
  以上のような境遇に内外の国民・市民をおくことは、憲法前文に定める平和のうちに生存する権利を侵害し、日本国憲法前文及び第9条が掲げる恒久平和主義及び国際協調原理に反することである。
6  よって、当会は、敵基地攻撃能力の保有に反対し、安保3文書の撤回を強く求めるとともに、日本国憲法が目的とする国際平和実現のため、我が国があらゆる平和的な外交努力を尽くすことを強く求めるものである。

  2023年(令和5年)2月15日

京都弁護士会                

会長  鈴  木  治  一


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