いわゆる谷間世代への一律給付実現を求める会長声明(2023/3/6)


1.司法は、三権分立の一角を担い、法の支配を実現し国民の権利を守る重要な機関である。法曹は、司法の担い手として公共的使命を負っている(弁護士法第1条等)。
国は、戦前の反省を元に、司法修習制度を1947年(昭和22年)、日本国憲法施行と同時に発足させ、国が法曹を養成することとした。司法修習生は、裁判官・検察官・弁護士になる法律家の卵として、修習専念義務(兼職の禁止)、守秘義務等の職務上の義務を負いながら、法曹三者全ての法曹実務を実習し、法曹としての倫理と技術を習得してきた。
ところが、法曹養成制度を支える司法修習生に対する給費制は、2011年(平成23年)に廃止された。日本弁護士連合会及び当会を含む全国の弁護士会は、これに反対運動を起こし、2017年(平成29年)に裁判所法改正により、新たに修習給付金制度が創設された。
この結果、廃止から新制度創設までの狭間に当たる新65期から70期の司法修習生(以下「谷間世代」という。)の司法修習が無給となってしまい、旧65期修習生以前と71期修習生以降の修習修了者に比して、著しく不公平・不平等な立場に置かれる事態となってしまった。

2.そのため、日本弁護士連合会をはじめ、当会を含む全国の各弁護士会は、谷間世代の著しく不公平・不平等な状況を改善するため、谷間世代に対する一律給付を実現するよう活動を続けてきた。
そして、今般、谷間世代に対する一律給付に関し、国会議員からの賛同や応援のメッセージの総数が、衆参両院の合計議員数の過半数(357通)を超えるに至った。
メッセージを寄せていただいた国会議員の皆様に、心から感謝申し上げる。

3.谷間世代の法曹は、約1万1000人に達し、全法曹の約4分の1を占める。公共的使命を背負う法曹の約4分の1が、著しく不公平・不平等な司法修習制度の下で養成されてしまったことになる。この谷間世代の不公平・不平等な事態から目を背けることは、上記の公共的使命を歪ませることになりかねない。
この点、2019年(令和元年)5月30日、名古屋高等裁判所は、給費制廃止違憲訴訟判決において、「従前の司法修習制度の下で給費制が実現した役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については、決して軽視されてはならないものであって、いわゆる谷間世代の多くが、貸与制の下で経済的に厳しい立場で司法修習を行い、貸与金の返済も余儀なくされているなどの実情にあり、他の世代の司法修習生に比し、不公平感を抱くのは当然のことであると思料する。例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないか」と言及した。
高等裁判所がこのように踏み込んだ言及をすることは稀であり、谷間世代の救済は、単なる谷間世代の不公平・不平等の事後的軽減、解消にとどまらず、広く社会に対する悪影響の軽減、解消にも資することを示唆するものである。

4.多くの谷間世代の法曹が、困難を抱えた国民のために献身的に活動している。弁護士に関していえば、弁護士の使命である基本的人権の擁護と社会正義の実現のため、他の世代と同様に取り組んでいるのみならず、今後は中核を担っていく層として、存在感を増しつつある。
他方、多くの谷間世代は、給費制廃止によりやむなく貸与を受けたことから、貸与金の返還を行わなければならない経済的・精神的負担及びハンディを背負っている。このことが、公共的使命を遂行する上で悪影響を与えていることは間違いない。このような状況が解消されれば、法曹を志した当初の志を実現して活動範囲を広げることにも繋がる。
国による一律給付は、谷間世代が抱えるこのような経済的・精神的負担を解消し、法曹の中核となりつつある谷間世代の活躍を広げることになる。この司法機能の強化は、とくに近年、各地で発生している大規模自然災害や新型コロナウイルス禍等により、困難を抱えた人々がさらに増加していることも考えると、国民の利益に結び付くことになる。

5.谷間世代の著しく不公平・不平等な状況は、これ以上放置されてはならない。
当会は、政府(特に法務省、財務省)、最高裁判所及び国会に対し、新65期から70期の司法修習修了者に対する一律給付を実現するよう、強く求めるものである。


2023年(令和5年)3月6日

京都弁護士会          

会長  鈴  木  治  一  
  

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