出入国管理及び難民認定法の改悪に反対する会長声明(2023年5月22日)


出入国管理及び難民認定法の改悪に反対する会長声明



1  現在、2023年(令和5年)3月7日に国会に提出された出入国管理及び難民認定法を改定する法案(以下「本改定案」という。)が参議院において審議されている。

2  現行法や本改定案の元となった法務大臣の私的懇談会の提言が抱える問題点について、当会は、「法務大臣の私的懇談会による『送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言』の問題点を指摘し、国際公約に則り国際人権条約と難民条約に基礎をおく入管法制及び難民認定制度の創設を求める意見書」(2020年(令和2年)10月22日。以下「2020年意見書」という。)及び「仮放免者に対する生活支援や医療支援など人としての生存を支援し可能にする施策の推進を求める意見書」(2022年(令和4年)3月29日。以下、2020年意見書と合わせて「前記意見書」という。)で厳しく指摘し、抜本的な解決を求めてきた。
しかし、本改定案は、入管収容は司法審査を経ずに行われること、収容を原則としており収容期間に上限がないこと、仮放免者らの就労や健康保険加入を可能にするなどの生存権を保障する制度が欠如していることなど、前記意見書で当会が指摘する人権侵害の原因となってきた問題点を解消するものになっていない。それどころか、本改定案は、2020年意見書で批判をした送還忌避罪や難民認定申請中の者を送還可能とする制度など、日本を離れることのできない事情を抱えた人たちを強制的に日本から排除するための制度を新たに設けようとしている。特に、3回目以降の難民認定申請者等について原則として送還停止効を解除して送還を可能とする点は、迫害の危険のある国に送還してはならないというノン・ルフールマン原則(難民条約33条1項、拷問等禁止条約3条1項)に反するおそれがある。日本の難民認定率が国際的に見て極めて低く、複数回の申請や訴訟によって初めて難民として認定されるケースもあることからすれば、なおさら許されない。また、入管収容の代替措置として新設される監理措置制度は、私的領域に監視・被監視の関係を持ち込み新たな人権問題を生むものである。
このように、本改定案は、人権侵害を解消するのではなく拡大し深刻化させる改悪案であるというほかない。
なお、本改定案については衆議院で採決される際には難民調査官の育成に努めるなどの修正が行われたが、前記の問題点は、修正によっても何ら解消されていない。

3  そもそも今回の法改定作業は、先の見えない長期収容に絶望したナイジェリア人男性の入管施設内での餓死(2019年(令和元年))という痛ましくもおぞましい事件の再発防止を目指し、長期収容の解消を目指して始まったはずであった。ところが、政府は、同事件やスリランカ人女性死亡事件(2021年(令和3年))等について第三者機関による調査を実施せず、出入国管理庁の責任を問うことも権限を見直すこともしないまま本改定案を上程しており、入管収容中に現に失われてしまった命をあまりにも軽視している。原点に立ち戻って、本来あるべき改善方策を真摯に検討すべきである。

4  2023年(令和5年)4月18日、国連の「移住者の人権に関する特別報告者、恣意的拘禁作業部会、及び、宗教または信条の自由に関する特別報告者」が本改定案の問題点について指摘する書簡を日本政府に宛てて発出するなど、国際社会からも懸念する声が上がっている。
今取り組むべきは、人権保障を基軸とした入管難民認定法制の構築であって、人権侵害を拡大し深刻化させる法改悪ではない。

5  したがって、当会は、本改定案について強く反対するものである。

2023年(令和5年)5月22日


京都弁護士会

会長  吉  田  誠  司
  

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