「袴田事件」の速やかな再審公判開始と袴田巖氏の雪冤を求める会長声明(2023年5月25日)


「袴田事件」の速やかな再審公判開始と袴田巖氏の雪冤を求める会長声明



1  本年3月13日、東京高等裁判所は、いわゆる「袴田事件」第2次再審請求差戻後即時抗告審において、静岡地方裁判所の2014年(平成26年)3月27日付再審開始決定(以下「原決定」という。)を支持して、検察官の即時抗告を棄却する決定(以下「本決定」という。)をし、検察官が特別抗告を断念したことにより再審開始決定が確定した。当会においても、本年3月15日、「袴田事件第二次再審請求差戻後即時抗告審決定に関し、検察官に対し特別抗告を行わないことを求める会長声明」を発出し、速やかに再審公判を開始するよう求めていたが、改めて、速やかに再審公判が開始され、一刻も早く、無罪判決により袴田巖氏の雪冤が果たされることを強く求める。
2  1966年(昭和41年)8月18日に逮捕された袴田巖氏は、原決定と併せて死刑の執行・拘置の停止の決定がなされるまで、約48年の長きにわたり、死と隣り合わせの恐怖の中、身体拘束を受け続けてきた。そして、原決定に対する検察官の即時抗告により再審開始決定が取り消されてから、最高裁判所第三小法廷における特別抗告審を経て、差戻後即時抗告審において本決定により再審開始確定に至るまで、さらに9年もの年月がいたずらに費やされた。それにもかかわらず、報道によれば、検察官は、本年4月10日に開かれた三者協議の場において、再審公判における立証方針を決定するため3か月を要するとして、再審公判の日程は具体的に定まっていない状況である。
3  本件においては、いわゆる「5点の衣類」が本件の犯行着衣であり、袴田巖氏のものであるとの確定判決の認定につき、第一次再審請求の即時抗告審以降激しく争われてきた。そのうち、「5点の衣類」に付着した血痕の色調に関しては、既に最高裁判所の判断を経て、差戻審において審理すべき点が具体的に示され、本決定も、その判断を踏まえて実施した事実取調べの結果に基づき、原決定を支持したものである。
一般に、再審請求手続は、無辜の救済を目的として、再審公判を開始すべきか否かを判断する場であるから、再審開始決定に対する不服申立ては許されるべきではなく、仮に検察官が有罪の主張立証をするのであれば再審公判において行うべきである。しかし、本件においては、再審開始決定に対する検察官の不服申立てにより上記のとおり再審開始決定の確定が妨げられ、しかも、極めて長期間に及んだ再審請求審の各段階において、検察官は有罪方向の主張立証に注力してきた。かかる審理経過に照らせば、本件の争点についての実質的な審理は再審請求手続の段階で既に尽くされているというほかなく、本件では、検察官が再審公判において有罪の主張立証を行うことはもはや許されない。
4  袴田巖氏が87歳と高齢であることや、長期間にわたり死刑確定者として身体を拘束されたことによる拘禁反応の症状が見られること、第2次再審請求の再審請求人である袴田巖氏の姉も現在90歳となっていることなどに鑑みれば、検察官がこれ以上、いたずらに再審公判の審理を遅延させることは、著しく正義に反するものと断ぜざるを得ない。
よって、当会は、袴田巖氏及びその姉らが一日も早く雪冤を果たすことができるよう、速やかに再審公判を開始し、無罪判決を出すことを強く求める。

    2023年(令和5年)5月25日
京都弁護士会              

会長  吉  田  誠  司    
  


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