低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために、最低賃金額の引上げと地域間格差の是正、実効的な中小企業支援を求める会長声明(2023年6月14日)(本イベントは終了しました。)


低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために、最低賃金額の引上げと地域間格差の是正、実効的な中小企業支援を求める会長声明


1  長期に及ぶ新型コロナウイルスの感染状況の継続とロシアのウクライナ侵攻の中で、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している。総務省が公表する消費者物価指数によれば、2020年(令和2年)を100としたときの2023年(令和5年)4月の消費者物価指数(総合)は105.1であり、前年同月比でも3.5%増とされている。また、「食料費」の指数は111.6、前年同月比で8.4%増を示している。すなわち、2020年と同じ水準の生活を維持する場合の費用は、平均で5%増加しているのである。また家計における食料費の比重の大きい低所得世帯の家計に対しては、相対的に大きな物価上昇の影響があると考えられる。
このような物価上昇の影響により、実質賃金は、厚生労働省から発表されている本年4月分(速報値)までで13か月連続で低下し、2022年度(令和4年度)の実質賃金も前年度比1.8%減と、2014年度(平成26年度)以来の落ち込みとなっており、家計の苦しさを表している。
京都地方最低賃金審議会は、2022年(令和4年)8月に、当時の最低賃金額937円から31円引き上げて968円に改正することが適当であるとの答申を行い、同年10月から最低賃金は968円に引き上げられた。上記引上げ額は過去最大であり、評価できるものの、消費者物価指数の上昇を加味すれば、最低賃金水準で働く労働者の生活が豊かになったと評価することはできない。近年稀な消費者物価指数の上昇を記録し、実質賃金が低下し続けている今日において、最低賃金もこれに対応して増額されなければならない。

2  また、最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正されていないことも、重大な問題である。2022年(令和4年)の最低賃金は、最も高い東京都で時給1072円であるのに対し、最も低い10県では時給853円であり、その間には219円もの開きがある。その地域の最低賃金の高低と人口の増減には強い相関関係があり、最低賃金の格差は、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因ともなっている。都市部への労働力の集中を緩和し、他の地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部への一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも、極めて有効である。
地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差がないという分析がなされている。これは、都市部以外の地域では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限され、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。

3  最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は、「業務改善助成金」制度による支援を実施している。しかし、その支援は未だ十分とは言い難く、日本の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減すること、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法規制することなどの支援策も有効であると考えられる。

4  最低賃金の引上げには、地域経済を活性化させる効果がある。当会は、引き続き国に対し中小企業への十分な支援策を求めるとともに、京都地方最低賃金審議会において最低賃金額の引上げを図り、労働者の健康で文化的な生活を確保し、地域経済の健全な発展を促すためにも、中央最低賃金審議会が、本年度、地域間格差を縮小しながら全国全ての地域において最低賃金を大幅に引き上げるよう答申すべきこと、及び全国一律最低賃金制度の実施に向けた提言をなすことを求めるものである。


2023年(令和5年)6月14日

京都弁護士会                  

会長  吉  田  誠  司  
  

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