オンライン接見の法制度化を求める会長声明(2023年7月20日)(本イベントは終了しました。)


オンライン接見の法制度化を求める会長声明


1  法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「本部会」という。)では、刑事手続のIT化の議論が進んでいる。本部会では、被疑者・被告人との「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(電子データ化された書類の授受を含む。以下「オンライン接見」という。)を刑事訴訟法第39条第1項の接見として位置付けることが検討されている。
当会においても、2022年(令和4年)1月19日、「オンラインを活用した接見交通の実現を求める会長声明」を発出し、オンラインを活用した接見交通の早期実現を求めた。
2  身体の拘束を受けている被疑者・被告人にとって、刑事施設・留置施設が弁護人等の法律事務所から遠く離れている場合等を含め、身体拘束の当初から、弁護人等の援助を継続的に受けることは重要な権利である。憲法第34条前段は、弁護人の援助を受ける権利を定め、これを受け刑事訴訟法第39条第1項は、弁護人が被疑者・被告人と立会人なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めている。
現代のIT化社会では、弁護人が被疑者・被告人とビデオ会議システムを用いて対面し、また電子データ化された書類の授受を行うことも現実的な手段である。
したがって、かかる現代の状況下では、オンライン接見も、刑事訴訟法第39条第1項の接見交通権の行使に含まれるものと解するべきである。ゆえに、オンライン接見は、権利性を有する法律上の制度として、法制審議会を経て制定され、国家予算を投じて運営されなければならない。
3  特に、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。
現在、日本では逮捕段階における公的弁護制度が整備されていない。そのため、被疑者は、身体を拘束された直後の重要な時期に、弁護人の助言を受けられないままに取調べを受け、虚偽自白や冤罪の危険に曝されるという、重大な防御上の不利益を被っている。公的弁護制度の不備を補うために弁護士会が当番弁護士を派遣しているが、留置場所から遠隔地の弁護士を派遣せざるを得ないことも多く、派遣を要請しても、速やかに弁護士と接見して黙秘権告知等の助言を受けることができないこともある。地理的条件を問題としないオンライン接見は、身体拘束直後の弁護人の助言を実現する制度として極めて重要な意義を有する。
また、被告人が起訴後に遠隔地所在の刑事施設に移動することもあり、こうした場合、地理的な要因によって起訴後の接見が困難になることがある。そのため、公判前整理手続や公判手続の遅延を招いたり、起訴後に十分な接見が受けられなかったりする事態が生じる。裁判員裁判や法定合議事件等の重大事件における起訴後の遠距離移送などがその例である。こうした場合も、オンライン接見を用いて、被疑者・被告人が継続的に弁護人の援助を受けられるようにする必要が高い。
このように、現行の捜査段階の接見や公判段階の接見は、いずれも全国的な課題を抱えており、相互の問題解決のためには、遠隔地に所在する留置施設等と本庁の刑事施設等を、相互に管轄の別なく接続する必要が極めて高い。
4  現に、当会においても、京丹後警察署、宮津警察署などの京都府北部地域の刑事収容施設に、京都市内に事務所を置く弁護士が接見しようとすれば、片道2時間以上かけて移動しなければならず、北部地域における弁護人選任が課題となっている。また、京都府北部地域の警察署が管轄する事件については京都府北部地域に事務所を置く弁護士が弁護人についている場合が多いが、裁判員裁判対象事件については京都地方裁判所本庁の管轄となり、被告人は京都市内の京都拘置所に移送されるところ、その場合、北部地域の事務所から京都拘置所での接見に片道2時間以上の移動時間を要し、充実した弁護活動に支障が生じる状況にある。
5  本部会においては、捜査機関側から、オンライン接見について、実施設備に伴う人的・経済的コストの負担や、なりすまし等の危険がある等の問題が指摘されている。
しかし、新たな設備の整備等に伴い人的・経済的コストが増えるのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することであり、捜査機関側の制度では克服されるのに、被疑者・被告人側の防御上の制度の局面では克服できない、というのはおかしい。本部会では、取調べ、弁解録取、勾留質問等をオンラインで行うことが具体的に検討されているが、それが可能であれば、オンライン接見も可能なはずである。捜査機関の利便性のみでなく、被疑者・被告人の人権保障を最大限に拡充する観点でも、人的物的対応体制・予算措置の拡充の議論が尽くされなければならない。
また、アクセスポイント方式を採用した現行の電話連絡制度や電話による外部交通制度において、例えば弁護人が第三者になりすました、あるいは罪証隠滅を図ったという事例は報告されていない。現代のITの進歩は目覚ましく、こうした弊害を除去するための現実的な措置は、アクセスポイント方式を例として、十分に存在しているといえる。
6  刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者・被告人の人権保障を拡充する観点で進められるべきである。弁護人の援助を受ける権利は、被疑者・被告人の基本的人権であり、設備や予算などの理由で十分な保障をしないのは、本末転倒というほかない。
当会は、法制審議会でさらに具体的な議論が尽くされ、オンライン接見が法制化されることを、強く要望する。

2023年(令和5年)7月20日


京都弁護士会            

会長  吉  田  誠  司


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