詐欺的な定期購入商法について、特定商取引に関する法律の改正を含む、 抜本的な対応を求める意見書(2023年8月24日)(本イベントは終了しました。)


2023年(令和5年)8月24日


内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  河  野  太  郎  殿
消費者庁長官                              新  井  ゆたか  殿


京都弁護士会              

会長  吉  田  誠  司
  


詐欺的な定期購入商法について、特定商取引に関する法律の改正を含む、

抜本的な対応を求める意見書



第1  意見の趣旨
1  特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)を改正し、いわゆる詐欺的な定期購入商法 に対する規制の実効性を確保すべきである。
2  詐欺的な定期購入商法を行う事業者に対して、特商法12条(誇大広告表示)又は同法14条1項2号(顧客の意に反して申込みをさせようとする行為)違反等を理由とした行政処分を、徹底して行うべきである。


第2  意見の理由
1  はじめに-法改正後の被害の激増
近年、インターネット上の通信販売において、実際には一定回数以上の商品を購入する定期購入契約であるにもかかわらず、インターネット広告画面上において、「初回〇〇円」、「お試し〇〇円」といった表示がなされ、これを見た消費者が、初回分のみの購入契約であると誤認して定期購入契約を締結してしまうというトラブルが急増している。PIO-NETに寄せられた相談件数は、2019年(令和元年)に44,756件、2020年(令和2年)に59,172件にのぼった 。

図表は、2021年(令和3年)消費者白書から抜粋 。

こうした被害を防止するため、2021年(令和3年)に特商法が改正され、いわゆる詐欺的定期購入商法に対応するための規定が設けられた(同法12条の6以下)。同規定は、2022年(令和4年)6月1日から施行され(以下「改正特商法」という。)、これにより、詐欺的な定期購入商法の被害が減少することが期待されていた。
ところが、改正特商法施行後も、同商法による相談件数は増加し続け、2021年度(令和3年度)に58,526件であった相談件数は、2022年度(令和4年度)の途中の時点で74,146件となり、前年度の同時期(47,617件)と比較して、約1.6倍の件数となった。特に2022年(令和4年)12月には、わずか1か月間で相談件数が10,000件を超過するなど、前例のない規模で被害が激増している 。


図表は、国民生活センター報道発表資料から抜粋 。

図表は、国民生活センター報道発表資料から抜粋 。

2  意見の趣旨1について
法改正後に、詐欺的な定期購入商法の被害が増加した背景には、改正特商法12条の6等による規制が極めて限定的である点が挙げられる。
(1)「初回の1回分のみで購入可能であるかのような表示」を禁止すべきであること
詐欺的な定期購入商法の本質は、初回の1回分のみで購入可能であるかのように表示しておきながら、実際には、定期購入が条件となっているため、表示どおりの「初回の1回分のみでの購入」が不可能である点にある。これにより、消費者は、初回1回分のみ、あるいは有利な条件で購入可能と誤認することにより、望まぬ契約をすることとなる。
この点、詐欺的な定期購入商法を行う事業者は、定期購入という条件を表示していることから表示等に問題がない旨主張する。しかし、「初回無料」「初回〇〇円」等の詐欺的なお試し価格表示によって、消費者は既に「初回のみの契約」と誤信していることが多く、仮に、その後の最終確認画面等で2回目分以降の購入が必要となる旨の記載が注意的にあったとしても、誤信を容易に払拭できるものではない。実際に多くの事例において、「定期コースであることも、解約手数料がかかることも知らなかった。」という相談が寄せられている 。
したがって、法改正により、「初回無料」「初回〇〇円」等のように、初回の1回分のみで購入可能であるかのように表示しておきながら、実際には定期購入の条件付である等、詐欺的なお試し価格表示自体を禁止すべきである。
(2)ランディングページ も規制の対象とすべきであること
特商法12条の6等は、最終確認画面に法定表示事項の表示を義務付けているが、ランディングページは規制対象としていない。ランディングページは、消費者が最初に目にする表示であり消費者に対する影響が最も大きい。そして、消費者がいったんランディングページを見て「初回のみの契約」と誤信してしまうと、その後に誤信を払拭することは困難である。したがって、被害防止のためには、ランディングページを規制対象とすべきである。
(3)近時の新たな手口に対して全く機能していないこと
近時は、次のような手法が報告されている。
①  公式サイトの申込画面では、初回分代金を囲みで強調し、2回目以降の契約条件は欄外で、従来よりも活字をやや大きくし、初回分に近い場所に記載することにより、事業者がガイドラインに違反していないと主張するケース。
②  アフィリエイト広告には「回数縛りなし」「いつでも解約可能」との記載があり、販売業者は、自社の広告ではないと主張して解約を認めないケース。なお、ターゲティング広告・ポップアップ広告は再度アクセスできず、事実確認が困難なケースも多い。
③  広告画面も申込画面でも「いつでも電話で解約できる」と明示しながら、消費者が解約の電話をかけてもほとんどつながらない。そのうち次回商品発送日を経過して、販売業者が解約条件(次回商品発送日前の解約告知を条件としている)を満たさないと主張するケース。
④  広告画面も申込画面も「回数縛りなし」と明示して、申込確認画面で注文を確定すると、「特別割引クーポン1000円」との表示が出て、これをクリックすると、1000円値引きした申込確認画面が表示されるが、欄外の注意書きが「5か月分の定期購入が条件である」等と変更されているケース(当初の申込確認画面とほぼ共通の表示方法で、欄外の注意書きがすり替わっているため一般消費者は気づかない)。
このように、消費者に不利な条件を、認識しづらい形で表示するケースや、解約条件を満たすことが極めて困難な仕組みを採用しているケースが増加している。
特商法12条の6等の規制は、こうした近時の新たな手法に対して全く機能していないため、規制前と比較して、かえって被害が激増するという結果を招いている。
(4)必要な対応
以上の状況に対応するためには、定期購入等の条件を付しながら、「初回の1回分のみで購入可能であるかのよう表示」を禁止すべきである。また、最終確認画面のみならず、ランディングページも規制の対象とすることが必須である。
さらに、次々に現れる新たな手法に対応するためには、場当たり的な規制を設けるのではなく、詐欺的な定期購入商法に対応するための抜本的な法改正が必要である。

3  意見の趣旨2について
詐欺的な定期購入商法を行う業者は、消費者が誤認しやすい表示や仕組みを積極的に用いることにより、不当な利益を上げている。こうした事業者が、消費者からの正当な解約申入れに応じないケースが散見される。抜本的な法改正を実施することにより、規制の実効性を確保することは必須であるが、それだけでは違法な商法を故意に行う事業者に対応できず、被害を根絶することができない。
そこで、詐欺的な定期購入商法を行う事業者に対しては、特商法12条(誇大広告表示)又は同法14条1項2号(顧客の意に反して申込みをさせようとする行為)違反等を理由とした行政処分を、徹底して行うべきである。
以 上



ダウンロードはこちら→[ダウンロード](.pdf 形式)

関連情報