司法権の独立・裁判官の職権の独立を侵害する重大な疑惑について、最高裁判所による調査を求める会長声明(2023年10月18日)(本イベントは終了しました。)


司法権の独立・裁判官の職権の独立を侵害する重大な疑惑について、

最高裁判所による調査を求める会長声明



「この種の介入は怪しからぬことだ」
本年4月19日、刑法学の第一人者であり、東京大学教授や最高裁判所裁判官を務めた団藤重光氏の直筆ノートの一部が、保管先の龍谷大学(京都市伏見区)により公表された。同ノートには、「大阪空港公害訴訟事件」に関し、冒頭の記載があった。
同事件は、同空港の周辺住民が、1969年12月、国を被告として飛行差止めと損害賠償を求めて提訴した事件である。
これらの請求を認容した大阪地裁・高裁判決に対し国が上告し、団藤氏が所属する最高裁判所第一小法廷に配点された。1978年7月、同法廷での審理が終結していたにもかかわらず、国は突如、本件を大法廷に回付するよう求める上申書を提出した。この上申書提出の翌日に、本上告事件の裁判長であった岸上康夫最高裁判事は、岡原昌男最高裁判所長官に呼ばれて長官室に出向いた。この時の状況について、団藤氏のノートには、「たまたま村上元長官から長官室に電話があり、岡原氏が岸上氏に受話器を渡したところ、法務省側の意を受けた村上氏が大法廷回付の要望をされた由(この種の介入は怪しからぬことだ)」と記載されていた。その後、同事件は、国の要望どおりに大法廷に回付され、最高裁判所大法廷は、それから3年半もたった1981年12月、一部の損害賠償のみを認め、差止請求については、国の航空行政権は民事訴訟の対象にならない等と述べて、却下する判決を下した。
同ノートに記載されている「村上元長官」とは、最高裁判所元長官の村上朝一氏のことであるが、同氏は、法務省民事局長等を歴任した人物でもある。このような立場にある人物が、国の意向に沿って事件を小法廷から大法廷に回付するよう担当裁判官に要望したことは、看過できない。
改めて言うまでもなく、日本国憲法第76条第3項は、「裁判官は、その良心に従い独立して職権を行い、この憲法及び法律のみに拘束される。」と定め、司法権の独立・裁判官の職権の独立を保障し、当該裁判体以外の裁判官等の介入をも許さないことを明記している。
最高裁判所元長官が「法務省側の意を受け」、同事件を担当する裁判長裁判官に対し、大法廷への回付を求め、その結果、上記の判決に至ったことが事実であるとすれば、司法権の独立を害するのみでなく、裁判官の職権の独立をも侵害し、裁判の公正に対する市民の信頼をこの上なく損ねる大問題であると言わざるを得ない。
当会は、今般発覚したこの大問題について、世に問いかけるとともに、最高裁判所自身が、かかる疑惑の真偽を明らかにするための調査委員会を設置して調査を行い、結果を公表することを通じて、裁判の公正に対する市民の信頼と、何よりも最高裁判所に対する市民の信頼を回復されるよう、強く求める。



2023年(令和5年)10月18日


京都弁護士会

会長  吉  田  誠  司
  

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