廃棄物処理行政の積極的対応と使用済物品を屋外保管施設で保管する行為を規制する条例の制定を求める意見書


2024年(令和6年)1月25日

環境大臣    伊  藤  信太郎  殿
京都府知事    西  脇  隆  俊  殿
京都市長    門  川  大  作  殿
福知山市長    大  橋  一  夫  殿
舞鶴市長    鴨  田  秋  津  殿
綾部市長    山  崎  善  也  殿
宇治市長    松  村  淳  子  殿
宮津市長    城  﨑  雅  文  殿
亀岡市長    桂  川  孝  裕  殿
城陽市長    奥  田  敏  晴  殿
向日市長    安  田      守  殿
長岡京市長    中小路  健  吾  殿
八幡市長    川  田  翔  子  殿
京田辺市長    上  村      崇  殿
京丹後市長    中  山      泰  殿
南丹市長    西  村  良  平  殿
木津川市長    谷  口  雄  一  殿
大山崎町長    前  川      光  殿
久御山町長    信  貴  康  孝  殿
井手町長    西  島  寛  道  殿
宇治田原町長    西  谷  信  夫  殿
笠置町長    中      淳  志  殿
和束町長    馬  場  正  実  殿
精華町長    杉  浦  正  省  殿
南山城村長    平  沼  和  彦  殿
京丹波町長    畠  中  源  一  殿
伊根町長    吉  本  秀  樹  殿
与謝野町長    山  添  藤  真  殿

京都弁護士会                

会長  吉  田  誠  司
  


廃棄物処理行政の積極的対応と使用済物品を屋外保管施設で保管する行為を

規制する条例の制定を求める意見書



意見の趣旨
1  京都府知事、京都市長及び京都府内各市町村長は、廃棄物処理行政につき、環境省の2021年(令和3年)4月14日付け指針等をふまえて、不適正処理事業者に対して、改善命令・措置命令などの行政処分を含む実効性ある措置を速やかに取ることなどの積極的な対応と、捜査機関を含めた行政相互間の緊密な連携をすべきである。

2  京都府知事、京都市長及び京都府内各市町村長は、使用済物品を不適切に保管し、近隣住民の生活の安全に支障を来している事例について、当該使用物品がたとえ「有価物」であるとしても適切かつ迅速に対処するために、使用済物品を屋外保管施設で保管する行為を規制・規律するための条例の制定を検討すべきである。

意見の理由
第1  意見の趣旨第1項について
1  廃棄物問題に対し、これまでにも当会が意見書によって行政に対し改善を求めてきたこと
  当会は、2002年(平成14年)1月24日付けで、京都市に対して、①京都市伏見区大岩街道沿い産廃処理施設周辺区域の大気・土壌・水質等の環境と周辺住民の健康状態について、住民参加のもとに、科学的で綿密な調査を実施すること、②同地域の産廃処理業者に対して、不適正処理の事実を確認した場合には、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)に基づく権限を最大限に活用して、口頭指導だけにとどまらない改善・措置命令などの行政処分を含む実効性ある措置を取ることを求める意見書を発出した。
  さらに、同年12月26日付けで、京都府及び京都市に対して、京都市北区雲ケ畑地域から同市左京区静市市原町付近に至る府道61号沿線地域(鴨川河川区域に接している)における産業廃棄物処理施設に関連する大気・土壌・水質等の環境汚染問題に関して、①住民参加のもとに、科学的で綿密な調査を実施すること、②産廃処理業者に対して、不適正処理の事案を確認した場合には、廃棄物処理法等に基づく権限を最大限に活用して、口頭指導だけにとどまらない改善・措置命令などの行政処分を含む実効性ある措置を取ることを求める意見書を発出した。また、同意見書において、鴨川の河川管理者である京都府に対して、鴨川河川区域に対して清潔を汚すおそれのある行為を行っていると確認した場合には、その禁止または制限の措置並びに違反者に対しその費用負担のもとに原状回復命令等の厳しい措置を取ることを求めた。
  このように、当会は、かねてから、京都府、京都府内の自治体に対し、生活環境の保全上の支障の発生又はその拡大を防止するため、産業廃棄物不適正処理事案に対する積極的かつ厳正な対応を求めてきた。

2  新たな廃棄物違法堆積事案の発覚と行政の対応
(1)京都府久御山町所在の土地(以下「本件土地」という。)の所有者が事業者に本件土地を賃貸したところ、当該事業者が廃棄物を違法に集積させたため、当事者間での紛争を経て、京都府が2018年(平成30年)8月22日及び2020年(令和2年)12月24日に改善命令を行うという事態が生じた。
  しかしながら、京都府及び久御山町は、遅くとも2016年(平成28年)10月14日の時点で、本件土地の上に、依然として大量の物が堆積していることを認識し、さらに、2017年(平成29年)3月14日の時点では、当該物が廃棄物であるとの認識に至っていた。
  すなわち、久御山町は、2016年(平成28年)8月の時点で20件ほどの苦情を受けており、同年10月14日当時、本件土地上にプラスチック類や金属類の物が置かれており、悪臭も発生していたこと、当該事業者による町道の不法占有といった事態が発生していたことを認識していた。
  そして、2017年(平成29年)3月14日当時、久御山町職員と京都府職員の間で行われた会議においては、本件土地に存在する物は、産業廃棄物と表現されていた。
  なお、当該事業者は、本件土地に存在する堆積物は「廃棄物」ではなく「有価物」と主張していた。
(2)上記各行政処分がなされるまでの間に、京都府及び久御山町に対しては、付近住民から廃棄物に関して苦情が寄せられており、また、本件土地所有者兼賃貸人の代理人から再三にわたって行政処分を求める申入れや、廃棄物の違法集積に対する刑事告発の申入れがなされていた。
  にもかかわらず、京都府及び久御山町は、行政指導を繰り返すのみであり、その結果、廃棄物の収集・運搬・保管が継続したことで、大量の廃棄物の堆積という事態が生じるに至ったことに鑑みると、京都府及び久御山町の本件土地に存在する廃棄物の問題に対する対応は、迅速性・積極性を欠くもので、十分なものではなかったと言わざるを得ない。
(3)当該事業者が本件土地に存在する堆積物は「廃棄物」でなく「有価物」であると主張していたとしても、京都府においては、本件土地に存在する堆積物に関して、内訳や、有価物性を根拠付ける事実及びその根拠となる資料報告を求め(法第18条第1項)、立入検査をすべきであった(法第19条)。
  そして、違法行為又はその疑いが確認されてからも、速やかに京都府警や京都地方検察庁に対して刑事告発(刑事訴訟法239条1項)し、改善命令(法第19条の3)・措置命令(法第19条の4)等の行政処分といった実効的な措置を行うべきであった。
  また、久御山町においても、町道の不法占有につき、道路法に基づく立入検査(同法第72条の2)や監督処分(同法第71条)を行うなどして、関係行政機関との連携をとるべきであった。しかし、これらの措置は適切になされなかったのである。

3  廃棄物処理行政について積極的対応を求める環境省の指針
  産廃不適正処理事案に対し自治体が行うべきであった対応について検討する場合、この問題について環境省が各都道府県・各政令市産業廃棄物行政主管部(局)長に対して通知しているガイドライン・指針の内容を踏まえることが重要である。そして、本件土地上に廃棄物が堆積されていた当時の指針(環廃産発第1303299号(以下「平成25年指針」という。)、平成25年3月29日付けで各都道府県・各政令市産業廃棄物行政主管部(局)長あてに通知)は、具体的に、次の点を指摘していた。
(1)行政処分の迅速化(平成25年指針2頁)
  違反行為を把握した場合は、生活環境の保全上の支障の発生又はその拡大を防止するため速やかに行政処分を行うこと。特に廃棄物が不法投棄された場合は、速やかに処分者等を確知し、措置命令により原状回復措置を講ずるよう命ずること。
  この場合、不法投棄として(刑事)告発を行うほか、処分者等が命令に従わない場合には、命令違反として積極的に告発を行うこと。また、捜査機関と連携しつつ、産業廃棄物処理業等の許可を速やかに取り消すこと。
(2)行政指導について(平成25年指針2頁~3頁)
  「行政指導」は、相手方が従わなくても、法的効果を生じない。従って、生活環境保全上の支障の拡大を招く事態は回避し、緊急・必要な場合は躊躇することなく行政処分をするなど、違反行為に対しては厳正に対処すること。犯罪行為に該当する場合には、捜査機関とも十分連携をはかること。
(3)事実認定のありかた(平成25年指針3頁~5頁)
  行政処分を行うにあたっては、問題となる物について、有償譲渡という事実があるという主張や自己で利用する物であるなどの、「問題となる物について廃棄物・不要物性を否定する主張」がされる場合もあるが、行政庁としては、平成25年指針に記載されている判断基準を踏まえて総合的に廃棄物性を認定すべきこと。
(4)刑事処分との関係(平成25年指針3頁)
  違反行為が客観的に明らかであるにもかかわらず、公訴が提起されていることを理由に行政処分を留保する事例が見受けられるが、行政処分は将来にわたる行政目的の確保を主な目的とするものであって、過去の行為を評価する刑事処分とは、その目的が異なるものであるから、それを理由に処分を留保することは、不適当であること。
  むしろ、違反行為に対して公訴が提起されているにもかかわらず、廃棄物の適正処理について指導、監督を行うべき行政が何ら処分を行わないとすることは、法の趣旨に反し、廃棄物行政に対する国民の不信を招きかねないものであることから、行政庁としては違反行為の事実を把握することに最大限努め、それを把握した場合には、いたずらに刑事処分を待つことなく、速やかに行政処分を行うこと。
  平成25年指針において、上記(1)ないし(4)の指摘がなされていたにもかかわらず、履践されず、被害が発生し、拡大した事実は問題であると言わざるを得ない。

4  指針の度重なる改定
  環境省は、平成25年指針を発した後も、2018年(平成30年)3月30日付けで、環循規発第18033028号を、2021年(令和3年)4月14日付けで、環循規発第2104141号(以下「令和3年指針」という。)を都道府県・各政令市産業廃棄物行政主管部(局)長あてに発している。
  各指針においては、繰り返し、(1)行政処分の迅速化を実施すること、(2)行政指導を繰り返すべきではないこと、(3)事実認定のありかたについては廃棄物との疑いがある物を占有・所有している事業者の主観や主張によって廃棄物性を判断するべきではなく、客観的、総合的に判断すべきであること、(4)刑事処分との関係については、行政処分と刑事処分では目的を異にするのであり、後者の存在をもって前者を控える理由にはならないことが指摘されている。
  特に、令和3年指針においては、法に違反する行為が「疑われる事案」が生じた場合には、速やかに当該行為を把握し事実認定を行うことが指摘されており(令和3年指針2頁)、より迅速な事実認定を行うことなど、廃棄物処理行政の積極的対応が必要とされていることは明らかである。

5  小括
  当会は、2002年1月24日付けで京都市あてに「大岩街道産廃処理施設問題に関する意見書」を、また同年12月26日付けで京都市及び京都府あてに「雲ケ畑産業廃棄物処理施設問題に関する意見書」を提出した。このように2回にわたり産廃問題に関する意見書を提出し、さらに環境省の「指針」が発表されていた。それにもかかわらず、こうした「意見書」や「指針」が廃棄物行政の現場に充分には生かされず、上記本件土地のような事案が京都府下において発生したのは、極めて遺憾である。
  したがって、意見の趣旨第1項のとおりの意見を述べるものである。

第2  意見の趣旨第2項について
1  屋外保管施設の増加と弊害について
  京都府内においても、上記「第1  意見の趣旨第1項について」の「2  新たな廃棄物違法堆積事案の発覚と行政の対応」において述べているように、屋外保管施設による弊害が生じている。
  そして、近年、全国各地で、使用済みの木材、ゴム、金属、ガラス、コンクリート片、陶磁器、プラスチック類など(以下「使用済物品」という。)を屋外で保管する施設(以下「屋外保管施設」という。)が増加している。使用済物品が不要物・廃棄物であれば、法の適用を受け、規制を加えることが可能となる。しかしながら、廃棄物であるとの疑いがある使用済物品について、廃棄物であるとの判断をしきれずに指導・処分が遅れてしまい、その結果、大量の使用済物品が堆積するという事態が生じている。こうしたなか、千葉市では、屋外保管施設で保管していた使用済物品が自然発火し、当該施設の付近に居住していた住民が避難をするといった事例が発生しており、また、鳥取県では、使用済物品(ファンヒーター)から油が流れ出たといった問題も発生している。さらに、屋外保管施設内でネズミやハエ・蚊などの害虫が大量に発生したり、使用済物品を積み上げ過ぎた結果、倒壊する危険性が生じたり、騒音や悪臭が発生するなどの問題も生じている。

2  全国の各自治体の対応について
  こうした問題に対応するために、たとえ問題となる使用済物品が有価物であっても、基準に適合した保管等を事業者に遵守させるなどし、屋外保管施設を適切に管理するための条例を制定する自治体が増えてきており、例えば、神奈川県綾瀬市制定の綾瀬市再生資源物の屋外保管に関する条例(以下「綾瀬市条例」という。)、千葉市の千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例(以下「千葉市条例」という。)、茨城県境町の境町再生資源物の屋外保管に関する条例(以下「境町条例」という。)、千葉県袖ケ浦市の袖ケ浦市再生資源物の屋外保管に関する条例(以下「袖ケ浦市条例」という。)、千葉県の千葉県特定再生資源屋外保管業の規制に関する条例(以下「千葉県条例」という。)などが制定されている。
  例えば、綾瀬市条例は、第2条第1号において、「使用を終了し、収集された木材、ゴム、金属、ガラス、コンクリート、陶磁器又はプラスチックを原材料とするもの(分解、破砕、圧縮等の処理がされたものを含む。)をいう。ただし、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「法」という。)第2条第1項に規定する廃棄物(使用済自動車の再資源化等に関する法律(平成14年法律第87号)第121条の規定により当該廃棄物とみなすものを含む。)、法第17条の2第1項に規定する有害使用済機器に該当するものその他適正な保管ができる者が取り扱うものとして市長が規則で定めるものを除く。」として、再生資源物として定義している。そのうえで、屋外保管業者に対して、届出義務(第5条)や保管基準遵守義務(第8条)などを課すとともに、市長に対して、報告徴収権限(第10条)、立入調査権限(第11条)や、改善命令の権限(第13条)を付与し、また、命令等に従わない業者については、市長が、当該業者の名称や代表者の氏名等を公表することができる(第14条)という内容となっている。
  他方で、千葉市条例においては、再生資源物などについて定義したうえで、屋外でこれらを保管する場合には、市長の許可を必要とするとしており(第5条第1項)、許可制を採用している。このように、屋外保管事業に関して許可制を採用するという内容は、境町条例や袖ケ浦市条例においても同様である。
  また、無許可で屋外保管事業が行われたときの対応として、行政処分のみならず、刑事責任も科している条例がある。例えば、千葉市条例においては、屋外保管場の無許可設置に対して、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科すという規定があるところ、条例の内容として刑事責任を規定している条例としては、袖ケ浦市条例や千葉県条例がある。
  なお、保管基準に関して、屋外保管事業場において騒音又は振動が発生する場合にあっては、当該騒音又は振動によって生活環境の保全上支障が生じないように必要な措置を講ずることとする内容は、千葉市条例、綾瀬市条例、袖ケ浦市条例、千葉県条例においてもみられる。

3  早期に条例を制定すべき必要性について
  現行法上、有価物を屋外で保管するケースを規制する法律はなく、各自治体が条例を制定し、規制をしている状況にある。そして、規制を逃れようとする事業者は、規制条例が制定された自治体から、規制条例が制定されていない自治体に屋外保管施設を移していくであろうことは容易に想定できるし、一旦、屋外保管施設が稼働してしまうと、操業に伴う騒音・振動や不適切な保管による火災の発生など、地域住民の生活の安全に支障をきたす状況が発生する虞がある。

4  小括
  府民の生活の安全に支障をきたすような事態が発生することを未然に防止するためにも、京都府及び京都府内の各自治体においては、有価物であっても、屋外保管施設で保管する場合には、適切な規制をするための条例を速やかに制定すべきである。
  したがって、意見の趣旨第2項のとおりの意見を述べるものである。

第3  結語
  京都府知事、京都市長及び京都府内各市町村長は、使用済物品を堆積して近隣住民の生活の安全に支障を来している事例に関して、当該使用済物品が廃棄物である場合には、環境省の令和3年指針等をふまえて、改善命令・措置命令などの行政処分を含む実効性ある措置を取ることなどの積極的な対応と、捜査機関も含めて行政相互間の緊密な連携をすべきであるし、当該使用物品が有価物である場合でも対処できるようにするためにも、使用済物品を屋外保管施設で保管する行為を規制・規律するための条例を速やかに制定すべきである。
  したがって、意見の趣旨第1項及び第2項の意見を述べるものである。
以上



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