法制度における性的指向及び性自認を理由とする差別を早急に解消するとともに 性的指向及び性自認を理由とする差別を禁止する法律の早急な制定を求める意見書


2024年(令和6年)1月25日

内閣総理大臣 岸  田  文  雄  殿
法務大臣 小  泉  龍  司  殿
衆議院議長 額  賀  福志郎  殿
参議院議長 尾  辻  秀  久  殿

京都弁護士会                

会長  吉  田  誠  司
    


法制度における性的指向及び性自認を理由とする差別を早急に解消するとともに

性的指向及び性自認を理由とする差別を禁止する法律の早急な制定を求める意見書



第1  意見の趣旨
  既存の法制度における性的指向及び性自認を理由とする差別の早急な解消と、性的指向及び性自認を理由とする差別を禁止する法律の早急な制定を要請する。

第2  意見の理由
1  立法事実
  性的少数者は、日常生活の中で、性的指向及び性自認(SOGI)に基づく様々な差別に直面させられており、それらの差別が法制度によってもたらされている場合が少なくない。たとえば、同性間での婚姻を認めない法制度が、相続に関する差別や公営住宅入居可能性に関する差別、就業先での福利厚生制度の利用に関する差別、犯罪被害者給付金の受給資格に関する差別などを生んでいる。
  ヘイトスピーチやヘイトクライムが、性的指向及び性自認を理由になされることも少なくない。2023年(令和5年)2月には、岸田首相の秘書官が、性的少数者について「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」と発言し、更迭された。同年6月には性的指向およびジェンダーアイデンティティに関する国民の理解増進に関する法律(以下「理解増進法」という。)が成立したが、差別を禁止する規定は設けられておらず、その審議過程では、トランス女性に対する差別発言が政治家から繰り返しなされた。同年6月にはトランスジェンダーの弁護士に対する殺害予告がなされ、当会も殺害予告に対する非難声明を発出した。
  性的少数者に対する差別的な法制度とそれを支える性的少数者に対する社会に根強い偏見が、性的少数者が自分らしく生きることの障壁となっている。2019年(平成31年)に国立社会保障・人口問題研究所が実施した調査で、LGBTの人は、自身の性別に違和感がない人及び異性愛者に比べて、希死念慮・自殺念慮・自殺未遂経験の割合が統計的に有意に高いことが報告された。
  個人の性的指向や性自認は、人の生き方そのものに関わる個人の尊厳の根幹部分であり、これを理由に差別することは許されない。性的少数者に対する差別的取扱いは、個人の尊重(憲法第13条)と法の下の平等(憲法第14条)に反するのであり、差別を禁止し、性的少数者の命と権利を守る施策は憲法の要請である。
  性的指向及び性自認に基づく差別を解消していくことは、日本政府の国際的な責務でもある。自由権規約委員会(2008年、2014年、2022年総括所見)、社会権規約委員会(2013年総括所見)、女性差別撤廃委員会(2016年総括所見)、そして子どもの権利委員会(2019年総括所見)は、日本政府に対し性的指向及び性自認に基づく差別の解消を繰り返し求めてきた。また、自由権規約委員会は、日本政府に対し、性的指向及び性自認に基づく差別を禁止する法律の制定も、求めてきた。しかし、2023年(令和5年)6月に成立した理解増進法は、性的指向及び性自認が多様であり得ることについて国民の理解の増進を図ろうとするものであるにとどまり、性的指向及び性自認を理由とする差別の禁止には踏み込んでいない。
  いま日本政府に求められているのは、多様性への理解を深めるとともに、性的少数者から基本的人権を奪っているさまざまな障壁を、差別禁止というルールで取り払い、すべての人の平等を実現することである。具体的には、現行法制度に存在する性的指向及び性自認を理由とする差別を解消する施策を推進するとともに、性的指向及び性自認を理由とする差別を禁止する法律を、一刻も早く成立させるべきである。

2  求める施策と立法の内容
(1) 制度的な差別の解消
  すべての法令について性的指向及び性自認を理由とする差別の解消という観点から見直しを行い、差別的な規定および差別を生じさせる規定を改廃すべきである。とくに、婚姻平等を実現する民法改正を行うほか、性別変更に関して性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律が定める手術要件の撤廃を早急に実現すべきである。
(2) 差別禁止法の制定
  性的指向及び性自認を理由とする差別を禁止する法律を制定すべきである。差別禁止法の形態としては、包括的な差別禁止法を制定しその中で性的指向及び性自認に基づく差別を禁止するものと、性的指向及び性自認に基づく差別に特化した禁止法を制定するものがありうるが、いずれの形態を選択するとしても、下記を骨子とすべきである。
ア  目的
  性自認及び性的指向を理由とする差別を禁止し、性的指向や性自認に関係なくすべての人が尊厳を有する存在として等しく尊重される社会を実現することを目的として明示する。
イ  禁止対象
  社会生活のすべての領域における差別を禁止する。直接差別(性的指向または性自認を理由とする差別)、間接差別(性的指向及び性自認を理由としないが特定の性的指向や性自認の者に不利な結果となるもの)ともに禁止する(領域の例示:雇用、教育、商品・サービス・住宅等、健康・医療ケア・社会サービス等、社会保険システム・失業保険・学習支援等)。
アウティング(本人の意思に反して第三者が性的指向又は性自認を公表すること)やカミングアウト(自らの性的指向又は性自認を公表すること)の強制も禁止する。(アウティング等の禁止は、2023年(令和5年)10月1日時点で26自治体の条例が定めている。)
ウ  救済制度
  性的指向や性自認を理由とする差別を受けた者が、迅速で確実な救済を得ることができるよう、スウェーデンの差別オンブズマン制度及び差別委員会制度等の諸外国の例を参考にして、差別に特化した行政による救済制度を創設する。
以上



[添付資料]  性的少数者に対する差別に関する状況(京都弁護士会作成)

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