「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び 技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案」の見直しを求める会長声明(2024年4月26日)


「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び
技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案」の見直しを求める会長声明



1  2024年(令和6年)3月15日に政府が閣議決定した「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」という。)は、同年2月9日に外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議が発出した「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議最終報告書を踏まえた政府対応について」(以下「本方針」という。)を踏まえたものであり、「技能実習制度を実態に即して発展的に解消し」、これに替わる制度として「人手不足分野における人材確保及び人材育成を目的とする育成就労制度を創設する」ことを目的とするものである。
外国人の権利・利益の保障という観点からは、従前の技能実習制度を廃止して新たな制度を創設すること自体は歓迎されるものの、当該新制度はそれらの観点からして十分な内容であるとは到底言えず、しかも本方針の前提となった有識者会議最終報告書では言及のなかった「永住許可制度の適正化」方針によって、かえって外国人の権利・利益の保障が後退する可能性さえ孕んでいる。

2  従前の技能実習制度では外国人労働者の転籍を厳しく制限していたところ、改正法案はこれを緩和するとしており、このことは歓迎すべきである。
もっとも、その内実は、「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大・明確化するとともに、一定の場合(①同一機関での就労が1~2年(分野ごとに設定)を超えていること、②技能等の水準については、技能検定試験基礎級等及び分野ごとに設定するA1~A2相当の日本語能力に係る試験への合格、③転籍先が適切と認められる一定の要件を満たすこと)には同一業務区分内での本人意向による転籍を認めるというものであるところ、「やむを得ない事情がある場合」の定め方によっては有名無実となるおそれがあるし、「やむを得ない事情」を誰が判断するかによっても結局のところ転籍が困難となるおそれがある。また、転籍が可能となる期間を分野ごとに設定するとの点も、その設定の仕方によっては、本方針が「人材育成の観点を踏まえた上で1年とすることを目指し」ていることと矛盾し、原則と例外が逆転するおそれがある。技能等の水準についても、入国時ないし入国後一定期間後に求められる日本語能力よりもさらに高い能力を条件とすることを容認しており、いたずらに転籍を困難ならしめるものである。
これらの点を直視し、本来の方針に立ち戻って、より転籍を柔軟に行い得る内容へと見直しを行うべきである。

3  改正法案は、「育成就労制度を通じて、永住に繋がる特定技能制度による外国人の受入れ数が増加することが予想されることから、永住許可制度の適正化を図る」とした本方針を踏まえ、在留カードの常時携帯など入管難民法上の義務を遵守しない場合や、公租公課(税金や社会保険料など)を故意に滞納した場合、あるいは一定の犯罪を犯して1年以下の拘禁刑に処された場合に法務大臣が永住資格を取り消すことのできる制度を設けることとしている。
しかし、現行法制度でも、これらの事由がある場合に差押えや刑罰等の制裁を課すことは可能であるから、これに加えて在留基盤を奪うおそれのある制度とする必要はない。合理的理由なく日本国籍者に比べて過度な負担を課すものと言わざるを得ず、公平性の観点からも問題がある上、有識者会議最終報告書では言及のなかった事柄を突然持ち出したものであり、手続上も問題がある。
よって、このような問題のある制度の提案は、撤回されるべきである。

4  海外から見た「働きたい国」として、日本は、対象33か国中32位だったという調査結果(2019年(令和元年) HSBCホールディングス調べ)や、ワースト6位だったという調査結果(2021年(令和3年)インターネーションズ(InterNations)調べ)がある。賃金の高さやワークライフバランスなど多様な要因が考えられるが、技能実習制度もその要因であろう。同制度を抜本的に改めるのでなければ、本方針の掲げる「日本が魅力ある働き先として選ばれる国になるという観点」は達成されないし、それどころか「永住許可制度の適正化」はこれに相反する方針である。
当会は、外国人の権利・利益の保障の観点から、改正法案について、一部の撤回を含めて内容を抜本的に見直し、労働者や生活者として、安心・安定した就労・生活を送ることができる内容とすることを求めるものである。

2024年(令和6年)4月26日

京都弁護士会
会長  岡  田  一  毅


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