重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案に反対する会長声明(2024年4月26日)


重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案に反対する会長声明


1  重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案の内容と問題
    重要経済安保情報保護及び活用に関する法律案(以下「本法案」という。)は、本年4月9日の衆議院本会議で、賛成多数により可決された。
    しかし、本法案には、以下のとおり重大な問題が存在する。
(1)本法案は、重要経済基盤(重要なインフラや物資のサプライチェーン)に関する一定の情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿する必要があるものを、重要経済安保情報=秘密として指定する。
そして、重要経済安保情報を漏らした人及び取得した人への罰則として、5年以下の拘禁刑か500万円以下の罰金又はその両方を科すとしている。過失による漏えい並びに漏えい又は取得行為について、共謀すること、教唆及び煽動することも、罰則の対象となる。さらに、より機密性が高く、漏えいで安全保障に著しい支障の恐れがある情報については特定秘密保護法の運用拡大により10年以下の拘禁刑を科せられる。
しかし、罰則が科せられるにもかかわらず、漏えいの対象たる重要経済安保情報の範囲が不明確であり、具体的な指定対象は今後策定する運用基準により範囲を明確化するとされている。これでは、いかなる行為が犯罪となり、それに対してどのような刑罰が科されるかについて、あらかじめ成文の法律をもって明確に規定しておかなければならないという罪刑法定主義に反する。政府により恣意的な秘密指定が行われるとの懸念により、ジャーナリストや市民が重要な経済関連情報を取得しようとする場合に萎縮が生じ、表現の自由及び知る権利を害することになる。
(2)本法案は、政府が民間人を身辺調査し、資格を与えた人のみが情報を扱う「セキュリティ・クリアランス(適性評価)」制度を導入する。
      身辺調査の対象は、重要なインフラや物資のサプライチェーンに関与する民間事業者や先端重要技術の研究開発に関与する大学・研究機関に所属する研究者、技術者、実務担当者など、極めて広範囲な民間人にわたる。
      特定秘密保護法における身辺調査の対象が主に公務員であることと大きく異なる。
      身辺調査の内容は、適性評価対象となる者だけでなく、その家族の国籍、犯罪歴、精神疾患、飲酒の程度、借金にまでいたる。具体的な調査の内容や判断基準は不明確で、思想良心の自由、プライバシー権が侵害されるおそれがある。
身辺調査を行うに際して、本人から同意を得るとされているものの、これを拒めば、所属している民間事業者などの方針に反するものとして、研究開発や情報保全の部署から外されるなど、不当な配置転換、解雇、給与査定など不利益な取扱いを受けることも懸念される。数多くの大学及びエレクトロニクス企業が存在する京都において、極めて深刻な問題である。
(3)本法案は、恣意的な運用に歯止めをかけるため、毎年、国会に運用状況を報告することとしている。しかし、国会による監視の仕組みが恣意的運用の歯止めになるかどうか疑わしい。
政府による恣意的な運用に歯止めをかけるための実効的な手段として、政府から独立した第三者機関の設置が必要不可欠であるものの、本法案にはこれは盛り込まれていない。

2  秘密保護法制をめぐる当会の立場
    当会は、2013年11月28日、「特定秘密保護法案の衆議院での採決に抗議し、廃案を求める会長声明」、同年12月6日、「特定秘密保護法の拙速な採決に抗議する会長声明」、2014年12月10日、「特定秘密保護法の施行に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」、2019年11月27日、「特定秘密保護法施行5年にあたり、改めて同法の早期廃止を求める会長声明」を、それぞれ発した。
特定秘密保護法の制定に強く反対し、同法の制定後も、同法には表現の自由、知る権利及びプライバシー権などの面から重大な問題があることを指摘して、市民向けのシンポジウムや毎月1回、街頭宣伝を行うことにより、廃止を求めてきた。
3  結語
秘密保護法制は、本法案及び特定秘密保護法の二段構えで強化される。
    本法案が漏えいを禁止する重要経済安保情報より機密性が高く、漏えいで安全保障に著しい支障の恐れがある情報は、特定秘密保護法における「秘密」の対象を運用拡大することにより対応される。特定秘密保護法の運用拡大は、同法を改正することなく、その処罰範囲を広げるという看過しがたい問題である。
    また、本法案は、表現の自由、知る権利及びプライバシー権の侵害の面から重大な問題があることは、特定秘密保護法と同様である。
    仮に、経済安全保障分野について、十分な議論を経たうえで限定的な秘密保護法制が必要とされる場合があったとしても、上記の各問題点を払拭するための抜本的な修正をし、基本的人権が侵害されることのないよう制度的な保障が明文化されなければならない。そのような制度的な保障のないまま、経済安全保障分野にセキュリティ・クリアランス(適性評価)制度を導入し、特定秘密保護法と同種の罰則を伴う秘密保護法制を拡大することは認められるべきではない。
    よって、当会は、本法案の成立に強く反対するものであり、今後、本法案に反対する様々な取り組みを行う決意である。

2024年(令和6年)4月26日

京都弁護士会  
会長  岡  田  一  毅


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