商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)における代表取締役等住所非表示措置に関し、弁護士による職務上請求の措置等を求める意見書(2024年6月13日)


2024年(令和6年)6月13日


法務大臣                                          小  泉  龍  司  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  自  見  英  子  殿
消費者庁長官                                      新  井  ゆたか  殿


京都弁護士会          

会長  岡  田  一  毅
  


商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)における
代表取締役等住所非表示措置に関し、弁護士による職務上請求の措置等を
求める意見書



1  意見の趣旨
商業登記における代表取締役等住所非表示措置(商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)(以下「本省令」という。)第31条の2第1項に関し、弁護士による職務上請求制度を創設すべきである。

2  意見の理由
(1)2024年(令和6年)4月16日に公布された本省令は、一定の要件を満たした場合は、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」という。)の住所の一部について、申出により、登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないという措置を定めた(以下「代表取締役等住所非表示措置」という。)。
(2)職務上請求制度の必要性
ア  商業登記における代表取締役等の住所は、①会社に事務所や営業所がない場合の普通裁判籍を決する基準としたり、本店所在地への送達が不能となった場合の送達場所としたりすることを可能とするものであるほか、以下に述べるとおり、②消費者被害等を救済する調査等のため、一定の場合に公開されることが必要であるところ、本省令案では、②の点について特段の手当てがなされていない。
イ  消費者被害の救済に当たる弁護士は、商業登記における代表取締役等の住所等を手掛かりとして、不当勧誘等を行った法人のみならず、その代表者を共同被告として訴訟提起することにより、既に法人が解散していた場合や、法人に資力がない場合にも一定の被害回復を図ってきた。特に、近年は、SNS等を利用して本名や住所を明かさないまま不当勧誘等を行う事業者が増加しており、商業登記における代表取締役等の住所等の情報は、被害回復のための貴重な手がかりである。本省令の代表取締役等住所非表示措置は、こうした手がかりの入手を困難にするものであり、ひいては消費者被害の回復を困難にするものである。
2022年(令和4年)の消費者生活相談は年間87万件、消費者被害・トラブル推計額(既払額)は約6.5兆円にのぼる(「令和5年版消費者白書」本文19頁、36頁)。消費者被害が高止まりする現状において、従前よりも被害回復を困難にする代表取締役等住所非表示措置には、一定の手当てをする必要がある。
具体的には、弁護士が、その職務として行う請求により、迅速に代表取締役等の住所情報等を開示する仕組みを創設すべきである。
ウ  そして、このような仕組みを創設する必要性は、消費者被害の回復以外の面でも存在する。例えば労働事件においても、商業登記における代表取締役等の住所等を手掛かりとして、既に法人が解散していた場合や法人に資力がない場合に一定の被害回復を図るべく代表者を共同被告とすることが行われているし、それ以外の目的でも行われることがある(例えば「日本海庄や」過労死事件では、過労死を生み出す社内体制を構築した経営陣の責任を明らかにし、過労死を防止する社内体制を構築させるためとして、会社に加えて役員の個人責任が追及され、認定されている。大阪高裁平成23年5月25日判決)。
本省令の代表取締役等住所非表示措置は、このような労働分野における被害回復等にも悪影響を及ぼすおそれがあり、この観点からも上記の仕組みの創設は必要不可欠である。
(3)プライバシー保護との関係
仮に、弁護士に限定して代表取締役等の住所の開示を求める制度を創設したとしても、懲戒手続(弁護士法第8章)に裏付けられた法制度上の倫理規律に服する弁護士が、その職務として行う場合に限定した制度とすれば、プライバシーの保護との調整を図ることが可能である。現行制度上も、商業登記よりもプライバシー情報の量が多い戸籍や住民票について、弁護士による職務上請求が認められている(戸籍法第10条の2及び住民台帳基本法第12条の3)。
この点、本省令のパブリックコメントの結果では、「士業のみ無条件に閲覧可能とするようなことは困難と考えますが、今後の参考とさせていただきます。」との回答がなされているが(「『商業登記規則等の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」No10)、開示請求にあたり戸籍や住民票の職務上請求手続きと同様に、使途の特定等、一定の要件を課すことにより、濫用的な開示請求を防止することは可能である。

  以上により、弁護士による職務上請求制度を速やかに創設すべきである。

以上



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