地方自治法改正案に反対する会長声明(2024年6月13日)


地方自治法改正案に反対する会長声明



1  2024年(令和6年)3月1日に閣議決定された、地方自治法の一部を改正する法律案(以下「法案」という。)が、5月30日衆議院本会議で可決され、現在参議院で審議されている。
法案は、現行地方自治法に「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例」という章を新設し、大規模な災害や感染症のまん延など、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生した場合、個別の法律上の根拠がなくても、閣議決定で国が地方自治体に対して、その事務処理について国民の生命等の保護を的確かつ迅速に実施するため、講ずべき措置に関し必要な指示を行うことができることなどを定めている(法案第14章)。
しかしながら、以下に述べるとおり、法案は、地方公共団体の自治事務に対して国の指示権を過大に広汎に認め、団体自治を侵害する危険があるから、当会はこれに反対する。

2  日本国憲法と地方分権一括法に基づく国と地方の対等な関係
日本国憲法は、地方自治について独自の章を設け、地方自治の本旨(第92条)として、地方自治が住民の意思に基づき(住民自治)、国から独立した地方公共団体自らの意思と責任において行われること(団体自治)を制度として保障している。
また、2000年(平成12年)施行のいわゆる地方分権一括法により、地方公共団体を国の下部機関と位置付ける機関委任事務、及び国に地方公共団体に対する包括的指揮監督権を認める制度が廃止され、現行地方自治法では、国と地方公共団体の「対等協力」関係が明確化された(現行地方自治法第1条の2、第2条第8項~同条第13項等)。国の地方公共団体への関与については、①法律による根拠なしにはなしえず(関与法定主義、同法第245条の2)、②法が定める関与のあり方に従わなければならず(一般法主義、同第245条の3)、③必要最小限度にとどめなければならない(必要最小限度の原則、同条)ことなどの一般原則が定められた。
そして、自治事務に対する国の指示については、地方公共団体の自主性尊重の見地から、「国民の生命、身体又は財産の保護のため緊急に自治事務の的確な処理を確保する必要がある場合等特に必要と認められる場合」(同第245条の3第6項)という極めて例外的な場合に限定し、かつ個別法の規定を必要とするとされた(同第245条の2)。

3  法案の問題点
(1)地方と国の対等な関係を崩すこと
      法案は、個別の根拠規定なしに、一般法である地方自治法を改正して、自治事務についても国の普通地方公共団体に対する指示権を認めており、自主性を尊重すべき自治事務について国が指示を行うことができることになりかねず、国と地方公共団体の対等な協力関係という地方分権改革の目的や理念そのものを後退・変容させる危険がある。
(2)恣意的運用の危険をはらむ要件であること
      改正案による指示権行使の要件は、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」が「発生するおそれがある場合」という文言が漠然としているうえ、「緊急に自治事務の的確な処理を確保する必要がある場合等」という緊急性要件(現行法第245条の3第6項)が外されている。また、各大臣の権限行使につき、「地域の状況その他の当該事態に関する状況を勘案」として、広範な裁量が肯定されかねない文言のため、恣意的な運用のおそれも否定できない。
(3)立法事実が見出しがたいこと
      政府は、コロナ禍の下で、感染症対策について国と地方公共団体との間で調整が難航するなどの課題が表面化したことなどを改正案の立法事実としている。しかし、感染症法には、厚生労働大臣が都道府県知事に対し必要な指示を行うことができる旨の規定があるし(第63条の2)、コロナ禍に適用された新型インフルエンザ等特別措置法に規定された地方公共団体の事務は、法定受託事務とされ、国に指示権が認められていた。このように、コロナ禍の下で対応の調整が難航したことの原因が、指示権のなかったことにあるとは必ずしもいえず、立法事実の存在は疑わしい。
そもそも、自然災害や感染症への対応については、現場の状況に応じて対策を迅速に検討実施することが求められるところ、最も必要な情報を有しているのは、国ではなく、むしろ現場で事態に直面している地方公共団体である。これらの事情に鑑みれば、大規模な自然災害や広範囲に及ぶ感染症のまん延の際に、国に求められるのは、地方公共団体から寄せられる多数の現場情報の収集及び整理・共有、及び対応にあたる地方公共団体への支援などである。国の一般的指示権を認めることは、むしろ災害や感染症等に対する現場対応の混乱を招くおそれもある。

よって、当会は、法案に反対するとともに、今国会での廃案を求める次第である。

2024年(令和6年)6月13日

京都弁護士会
会長  岡  田  一  毅
      

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