最高裁判所大法廷判決を踏まえて旧優生保護法による被害の即時・全面的・完全な救済と差別のない社会の実現を求める会長声明(2024年7月24日)
本年7月3日、旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関して、国家賠償を求める一連の裁判のうち5件について、最高裁判所が大法廷判決を下し、同法が憲法13条及び14条1項に違反する違憲なものであり、同法にかかる国会議員の立法行為は国家賠償法1条1項の適用上違法であること、この点について国が改正前民法724条後段に基づく除斥期間の主張をすることは信義則に反し、権利の濫用として許されないことを、15人の裁判官全員一致で判示しました。
被害の本質を正面から見据えた画期的な判決であり、その後、強制不妊手術を受けた方々へ岸田首相が謝罪しましたが、謝罪だけにとどまらず全面的で完全な賠償が速やかに実施されるとともに、尊厳の回復に向けたあらゆる措置が講じられなければなりません。そして、差別を完全になくしていくために社会全体としても取り組んでいかなければなりません。
最高裁判所は、旧優生保護法の立法目的そのものを、「特定の障害等を有する者が不良であり、そのような者の出生を防止する必要があるとする点において、立法当時の社会状況をいかに勘案したとしても、正当とはいえないものであることが明らか」と断言するとともに、「そのような立法目的の下で特定の個人に対して生殖能力の喪失という重大な犠牲を求める点において、個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」ものであって、さらに、特定の障害等を有する者等を「不妊手術の対象者と定めてそれ以外の者と区別することは、合理的根拠に基づかない差別的取扱いに当たる」と述べて、憲法13条及び14条1項に違反する違憲なものであり、国会議員の立法行為そのものが違法であるとしています。
その上で、除斥期間について、「国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害することが明白であるものによって国民が重大な被害を受けた本件においては、法律関係を安定させることによって関係者の利益を保護すべき要請は大きく後退せざるを得ない」こと、「昭和23年から平成8年までの約48年もの長期間にわたり、国家の政策として、正当な理由に基づかずに特定の障害等を有する者等を差別してこれらの者に重大な犠牲を求める施策を実施してきた」こと、国が「優生手術を行うことを積極的に推進していた」こと、その結果「少なくとも約2万5000人もの多数の者が本件規定に基づいて不妊手術を受け、これにより生殖能力を喪失するという重大な被害を受けるに至った」こと、国が「本件規定により行われた不妊手術は適法であるという立場をとり続けてきたこと」から被害者による請求権行使を期待することは一貫して困難であったこと、「憲法17条の趣旨をも踏まえれば、本件規定の問題性が認識されて平成8年に本件規定が削除された後、国会において、適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講ずることが強く期待される状況にあった」にもかかわらず怠り続けたことなどから、国が「損害賠償責任を免れることは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない」としてその適用を認めませんでした。
いずれも被害の本質に対する深い洞察に基づいた正当な判示であり、当会としても高く評価するものです。
最高裁判所は国会議員の立法行為とその後の国会や行政の対応を厳しく糾弾しました。この判決を受け、岸田首相は、本年7月17日に、判決を重く受け止めた上で、謝罪を行い、新たな補償について国会と調整しながら検討すると述べています。こうした首相の発言のとおり、国は、旧優生保護法の被害者全員に対し、被害に見合った適切な賠償を行うなど、全面的かつ完全な被害救済と解決に向けて一刻も早く動き出すべきです。
もっとも、被害に対する責任は国会議員や行政にのみあるのでしょうか。「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使・・・する」(憲法前文)ものです。国が救済を怠ってきた背景に、この問題に対する私たち国民の無関心・無責任もあることは否定できないのではないでしょうか。
そうであるからこそ、今回の判決を、被害の即時・全面的・完全な救済と差別のない社会を実現するための契機とすべき責任が私たちにはあります。最高裁判所が述べるように、国は1998年(平成10年)以降、被害救済に取り組むべきとの指摘に対して耳を傾けようとしてきませんでした。同じ過ちを繰り返すことは決して許されません。今度こそ、私たち全員で大きく一歩を踏み出しましょう。そうしなければ、今回の画期的な最高裁判決の価値も、極めて困難な状況の中で勇気を振り絞って声をあげた被害者の方々の想いも、それを支援したたくさんの人の願いも、すべて失われてしまいます。
当会も、旧優生保護法によって被害を受けた方々の救済と尊厳の真の回復をはじめ、一人一人が大切にされるあらゆる差別のない社会の実現を目指し、先頭に立って真摯に取り組んでいく決意です。
京都弁護士会
会長 岡 田 一 毅
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