京都国際高校に対するヘイトスピーチを非難するとともに 国・京都府・京都市に対しヘイトスピーチ解消への積極的取組みを求める会長声明(2024年9月27日)
1 2024年(令和6年)8月23日、京都国際高等学校(以下「京都国際高校」という。)が第106回全国高校野球選手権大会で初優勝を果たした。京都国際高校は、1947年(昭和22年)に設立され、2003年(平成15年)に学校教育法第1条に定める学校となるまでは、各種学校として、主に在日コリアンが通う外国人学校であった。このような歴史的経緯等から、現在もハングルで作られた校歌が用いられており、同大会中も、京都国際高校が勝利した際は、同校歌が試合会場である甲子園球場で流れ、世間の注目を集めた。
全国大会での初優勝という出来事は、本来であれば素直に称えられるべきものである。しかし、この間、京都国際高校に対しては、前述のような歴史的経緯やハングルの校歌等を契機として、SNSでの投稿や学校への匿名の電話で、「学校認可を取り消すべきだ」、「日本の大会では日本語を使うべきで、嫌なら韓国の大会に出るべきだ」などの誹謗中傷、ヘイトスピーチが相次いでいる。これらの発言は、在日コリアンへの差別を扇動し、社会的排除を促進するものであり、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(以下「差別的言動解消法」という。)第2条が規定する不当な差別的言動に該当し、断じて許されない。特に、インターネット上でのヘイトスピーチは、他の民族への差別意識を無限定に拡散・助長する重大な問題である。
2 これに対し、京都府の西脇隆俊知事は、インターネット上に投稿された特に悪質な民族差別的コメント4件の削除を京都地方法務局とサイト運営者に要請し、「差別的な投稿や誹謗中傷が散見される。あってはならず、許さない行為だ。」と述べた。このことは、民族差別を許さないという京都府の姿勢を明確に示すものとして評価できる。
他方、個別の投稿の削除要請のみでは、いたちごっこであり、問題の根本的な解決には至らない。当会の「ヘイトスピーチへの対処に関する条例の制定を求める意見書」(2017年(平成29年)3月23日。以下「当会意見書」という。)でも述べているとおり、差別的言動解消法及び同法の衆議院・参議院の附帯決議によれば、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動が地域社会に深刻な亀裂を生じさせている地方公共団体」においては、「その解消に向けた取組に関する施策を着実に実施すること」が求められている。そして、この「本邦外出身者に対する不当な差別的言動が地域社会に深刻な亀裂を生じさせている地方公共団体」には、同法制定の契機の一つとなった「京都朝鮮第一初級学校事件」(2009年(平成21年))や、在日コリアンへの差別意識がヘイトクライムにまで発展した「ウトロ放火事件」(2021年(令和3年))が発生した京都府・京都市も当然に念頭に置かれていると考えられ、京都府・京都市は、差別的言動解消に向けた取組みを、より一層、積極的かつ迅速に実施することが求められている。
すでに国内には、ヘイトスピーチを行った者の氏名公表等の措置を定める「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」や、ヘイトスピーチに対する罰則を定める「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」のように独自の条例を制定した自治体もある。上記のような深刻な事件が発生した京都府・京都市においては、同様の条例制定の必要性が極めて高いというべきである。
3 国連自由権規約委員会の日本政府に対する2022年(令和4年)の総括所見は、「中国人、部落民、琉球人及びその他の少数民族及び先住民族、特に、コリアン及びコリア系日本人を標的とする少数民族及び外国人に対する広範かつ継続的な人種差別的言説がオンライン及びオフラインの双方で行われていること」などに懸念を表明するとともに、国に対し、①あらゆる理由による差別を禁止する包括的な差別禁止法の制定のほか、②差別的言動解消法についてはその適用範囲を拡大し、出自に関係なく全ての人に対する差別的な言動及び行動を対象とすること、③ヘイトクライムの個別の定義及び禁止の導入、④規約上の全ての禁止理由に基づくオンライン及びオフラインのヘイトスピーチ行為を明示的に犯罪化するために刑法を改正することなどを検討するよう勧告している。今回の京都国際高校に対するヘイトスピーチは、同委員会の懸念が未だ払しょくからほど遠いことを示しており、このままでは、日本社会におけるヘイトスピーチの蔓延や差別の拡散を防ぐことはできない。
4 以上を踏まえ、当会は、京都国際高校に対するヘイトスピーチを強く非難するとともに、ヘイトスピーチをなくし、誰もが尊厳をもって暮らすことのできる自由で平和な社会を実現するため、国に対し、包括的な差別禁止法の制定や差別的言動解消法の適用範囲の拡大、法改正によるヘイトスピーチに関する罰則の制定の検討など自由権規約委員会の勧告の沿った措置を速やかに実現することを求め、京都府及び京都市に対して、当会意見書において制定を求めた条例すなわち、解消されるべき不当な差別的言動に人種、皮膚の色、生まれ、民族的若しくは種族的出身、国民的出自、国籍、信仰する宗教、在留資格、性自認や性的指向等を理由とする言動も含まれるとしたうえで不当な差別的言動の防止措置や拡散防止措置をとることや不当な差別的言動についての相談体制を整備すること等を内容とする府・市独自の条例を制定することを求め、さらに国及び京都府・京都市に対して、教育・啓蒙活動の充実(差別的言動解消法第6条・第7条)等の取組みを、今後より積極的に実施することを求める。
当会も、国籍や民族の異なる人々に対する差別を含むあらゆる差別の解消に向けて、より積極的に取り組むことを表明する。
2024年(令和6年)9月27日
ダウンロードはこちらから→[ダウンロード](.pdf 形式)