10月26日付当会開催のシンポジウム「ほんとに大丈夫?マイナ保険証~なくしたらあかんやろ健康保険証」における、京都府保険医協会、京都府歯科保険医協会、当会三者の共同アピール(2024年10月26日)


【趣旨】
一、市民の命と健康、そして権利擁護の見地から、現行の健康保険証の存続を強く求める。
一、個人番号カード(以下「マイナンバーカード」と言う)に保険証機能を付する、いわゆるマイナ保険証への移行はカード所持者の任意によるべきである。
【理由】
1.政府は、2023年(令和5年)12月22日に、2024年(令和6年)12月2日に現行の健康保険証を廃止することを閣議決定した。これに伴い、厚生労働省は、健康保険法などの省令から、「被保険者証を被保険者に交付しなければならない」とする規定を削除するための省令の「改正案」を作成し、2024年(令和6年)6月22日までパブリックコメントを募集した。約1か月の募集期間中、5万件以上のパブリックコメントが寄せられ、健康保険証の存続を望む意見が多く寄せられた。
他方、政府は、マイナ保険証の利用者数の増加に応じて医療機関に一時金を支給するなど、2024年(令和6年)5月から7月にマイナ保険証「利用促進集中月間」を設けた。しかし、その後のマイナンバーカード自体の保有率(人口に対する保有枚数率)は74.5%もありながら、マイナ保険証の利用率はわずか11.13%にとどまっている(2024年(令和6年)7月末現在、集中月間は1か月延長された)。
これらを考慮すれば、マイナ保険証に対する信頼の低さが露呈しており、2024年(令和6年)12月2日から最長1 年間という健康保険証の有効期間が経過した場合、保険証を持たない被保険者が多数生じることが予想される。
2.マイナンバーカード発足後、マイナンバーカードに関連した不具合が続発したことは周知の事実であり、マイナ保険証についても、他人の情報との紐づけや負担割合誤りなどシステム不具合が起きている。
また、災害による停電、通信の切断が生じると途端に資格確認ができなくなってしまう。同様の事態は、マイナ保険証の紛失や盗難に見舞われた場合にも言える。
かような弊害に備え、政府は、保険者が職権で資格確認書を発行できるとして弊害の解消に努めようとする。
しかし、資格確認書は、その発行を待たねば利用ができないし、記載内容は現行の保険証と相違がないことから、多大な費用をかけて導入する必要はなく、現行の保険証を存続させ、併用すれば済むことである。
3.マイナ保険証は、その取得手続きや5年ごとの更新手続きが必要であり、煩瑣である。高齢・障がい等の事情により、自分でこれらの手続きを経ることが困難な方が相当数見込まれるだろうし、また、医療機関や介護従事者がかような方をフォローすべき場面もかなり増えるであろう。しかし、これらの負担を軽減する具体的な解決策を政府は未だ示せていない。このように、マイナ保険証の取得や更新手続きの際に手続き未了の被保険者が生じる可能性があるため、現行保険証の存続により、かような被保険者の保険医療を受ける機会を確保する必要がある。
4.マイナ保険証は、2023年(令和5年)4月以降、健康保険証機能だけでなく、被保険者の診療・薬剤情報・特定検診情報等の結合が当然の前提とされている。
被保険者は、マイナ保険証を利用する際、過去に受けた診療と投薬の情報、あるいは特定検診の情報それぞれにつき、包括的に同意するよう求められる。
したがって、被保険者が、ある特定の情報(例えば、病気で受診する際のこれと全く無関係のケガの治療歴)を除外したいと望んだとしても、それはできない。
しかし、これは利用者の自己情報コントロール権を著しく制限するものである。
5.現行法上、国民皆保険制度のもと、国民健康保険は強制加入とされており、よって国民の誰もが健康保険証を持つこととなっている。
そのため、健康保険証を廃止し、マイナ保険証へ原則的に一本化すれば、マイナ保険証の取得を事実上強制するに等しいこととなる。
しかし、それはマイナンバーカードの取得が、あくまで利用者の申請に基づくものとされていること、すなわち、任意取得が原則とされていること(「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)第17条第1項」)に反する。
マイナンバーカードによる資格確認ができない事態が生じうることや、自己情報コントロール権が制限されること等を考慮して、あえてマイナンバーカードの取得を見送るという市民の自由な選択が著しく制限され、よってマイナンバーカードを持つか持たないかを自身で決定する自由が侵害されるようなことがあってはならない。
6.よって、我々は、2024年(令和6年)12月2日のマイナ保険証原則一本化は見送り、現行保険証制度を継続することで、市民がマイナ保険証の安全性、利便性を判断して、マイナ保険証への移行につき、その自由な選択にゆだねるのが最良であると考え、本アピールに至ったものである。

2024年(令和6年)10月26日

京都府保険医協会                    

理事長 鈴 木 卓

京都府歯科保険医協会                

理事長 佐 藤 晋

京都弁護士会                        

会 長 岡 田 一 毅


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