子どもの権利条約に基づく子どもの権利保障の推進を求める会長声明(2024年11月20日)
1 今年は、子どもの権利条約が採択されてから35周年、また、日本がこの条約に批准してから30周年に、それぞれあたります。
子どもの権利条約は、それまで保護の客体としてのみ扱われていた子どもを、一人の人間として、おとなと同じく様々な権利を持ち、その権利を自ら行使することができる主体として子どもに対する観点の転換を求めました。また、成長発達の過程にある子どもにはおとなの保護、支援が必要であることから、子どもにおとなの保護、支援を求める権利を定めており、4つの基本原則として、①差別の禁止、②子どもの最善の利益、③生命・生存及び発達に対する権利、④子どもの意見の尊重を掲げ、これらを指針として、子どもの権利の実現を求めています。
そして、子どもの権利条約は、これらの権利を実現させていくことを、国の義務としています。
2 日本政府は、条約の内容を推進するために子どもの権利の包括的な基本法を始めとする新しい法律や政策の整備・見直しを行う責務を負っています。それにもかかわらず、日本では、条約によって定められた子どもの権利は十分に保障されているとして、これらの整備・見直しは長年、行われませんでした。国連子どもの権利委員会からは、子どもの権利の包括的基本法を制定すること及び子どもの意見を尊重することについて、繰り返し勧告を受けてきました。
こども基本法は、2022年6月に成立し、2023年4月に施行されました。この法律は、こどもの施策に関する基本理念を定めています。こどもの施策を遂行する機関として、こども家庭庁も同月、設置されました。そして、政府の施策の基本方針を定めたこども大綱が同年12月、決定されました。日本も、条約批准から30年を経て、子どもの権利が保障される社会への第一歩を踏み出しました。
しかしながら、現在でも、家庭や学校において、子どもの権利が十分に保障されている状況ではありません。子どもたちを取り巻く状況は非常に厳しく、子どもの自殺、児童虐待、いじめ及び不登校などの問題は増加しています。また、子どもの7、8人に1人が貧困状態にあるという状況は、ここ20年大きく変わっておらず、子どもの貧困は長年、放置されています。
3 前述のとおり、私たちおとなは、子どもをおとなと同じ対等な価値を持つ一人の人間として尊重しなければなりません。そのために、子どもに関わるすべてのことについて、子どもの権利を基盤にして、子どもの最善の利益を考える必要があります。また、子どもの意見の尊重を実現するためには、子どもが関係する事項について、子どもが自由に意見を表明し、子どもの意見が年齢及び発達に応じて正当に重視される文化、制度を社会に根付かせることが必要です。
子どもの権利を保障するためには、その義務を負うおとなが、子どもの権利を学び、理解しなければなりません。特に、国連子どもの権利委員会の一般的意見及び日本政府への勧告にあるように、教員、裁判官、弁護士、家庭裁判所調査官、ソーシャルワーカー及び公務員など子どもに関わる職業にある者に対して、子どもの権利に関する体系的で反復した研修体制が求められます。これらの子どもに関わる職業にある者や機関の間における実効的な連携も求められます。
さらに、子どもに関わる制度が子どもの権利保障のために機能しているかどうかを調査し、子どもの権利が侵害された場合に救済する機関として、国から独立した人権機関及び地方公共団体における子どもの相談救済機関の設置がいずれも必要です。
4 以上のとおり、政府や地方公共団体そして、子どもに関わるすべてのおとなが、子どもの権利条約の内容を推進し、子どもの権利が尊重される社会作りにより一層努める必要があります。そのために、子どもに関わる職業にある者への研修体制、そして、国の人権機関や地方公共団体の相談救済機関の設置などあらゆる手段を講じ、子どもの権利保障を推進することを強く求めます。
当会は、今年1月に開催した「憲法と人権を考える集い」において、子どもの貧困をテーマとしました。この集いでは、子ども食堂や子どもの居場所作りをするNPO団体と共に学び、連携・協力しあうことを確認しました。今後も、子どもの権利の普及啓発、子どもの権利相談、少年事件における付添人、家事事件における子どもの手続代理人、子どもの貧困への取組、学校におけるいじめ授業などの法教育及びスクールロイヤー制度の推進などの活動を通じて、子どもの権利の保障に係わる方々と連携・協力し、子どもの権利が保障される社会の実現に向けて尽力していきます。
2024年(令和6年)11月20日
ダウンロードはこちらから→[ダウンロード](.pdf 形式)