「福井女子中学生殺人事件」の再審開始決定確定に関する会長声明(2024年11月29日)


「福井女子中学生殺人事件」の再審開始決定確定に関する会長声明



1  2024年(令和6年)10月23日、名古屋高等裁判所金沢支部は、いわゆる「福井女子中学生殺人事件」第2次再審請求事件(請求人:前川彰司氏)について、再審開始決定をした。抗告に代わる異議申立期限である同月28日、検察は本件再審開始決定に対し異議を申し立てないことを公表し、同日の経過をもって再審開始が確定した。
2  本件は、1986年(昭和61年)3月19日、福井市内で女子中学生が殺害された事件である。前川氏は、事件発生2週間後に事情聴取を受けたが、被害者との接点が見当たらず、アリバイについても母親と供述が一致したため容疑対象から外された。しかし、同年10月頃、別件で勾留されていた暴力団員が前川氏の犯行をほのめかす供述を始めたことにより、犯人性を基礎付ける客観的な証拠もないまま、1987年(昭和62年)3月29日に前川氏は逮捕された。
前川氏は逮捕以来一貫して無実を主張し、確定審第一審(福井地方裁判所)は、変遷を重ねる関係者供述の信用性を否定して、1990年(平成2年)9月26日に無罪判決を言い渡した。ところが、確定審控訴審は、控訴審において関係者らの供述がさらに変遷したにもかかわらず、「大筋で一致」するなどとしてその信用性を認め、1995年(平成7年)2月9日、逆転有罪判決(懲役7年)を言い渡した。1997年(平成9年)11月21日、最高裁で有罪判決が確定し、前川氏は服役して2003年(平成15年)3月6日に満期出所となった。
3  前川氏は、出所後の2004年(平成16年)7月15日、第1次再審請求を申し立てた。再審請求審(名古屋高裁金沢支部)において関係者らの供述調書の一部などが開示された結果、関係者らの供述の著しい変遷がより一層明らかになったため、再びその信用性が否定され、2011年(平成23年)11月30日、再審開始決定がなされた。ところが、検察官が異議申立を行い、異議審(名古屋高裁)は、新証拠はいずれも旧証拠の証明力を減殺しないとして、2013年(平成25年)3月6日、再審開始決定を取り消し、特別抗告審(最高裁)もこれを是認して確定した。
前川氏は、2022年(令和4年)10月14日、名古屋高裁金沢支部に第2次再審請求を申し立てた。裁判所の積極的な訴訟指揮により、警察保管の捜査報告メモを含む287点もの証拠が新たに開示された結果、捜査機関も関係者の供述に疑義を抱いていたことや、関係者が供述する関与の日付が事件日と異なっていたことなどが明らかになった。さらに、裁判所は、確定審の第一審と控訴審とで供述を変遷させた関係者の証人尋問を実施し、供述変遷の理由が覚醒剤取引を握り潰すという捜査機関との闇取引にあったことも明らかとなった。これらの事情を踏まえ、第1次再審請求審から13年の歳月を経て、2度目の再審開始決定に至った。
4  本件再審開始決定は、事件関係者に対する利益誘導や、迎合を招く違法な取調べが行われたことを詳細に指摘し、警察の捜査のあり方について強く批判した。さらに、検察に対しても、確定審検察官が、関係者供述の裏付けとされたテレビ番組が実際には放送されていなかった事実を隠したまま「動かし難い客観的事実として扱い続けた」ことについて、「不利益な事実を隠そうとする不公正な意図があったことを推認されても仕方がないところが」あり、「(その)訴訟活動は、公益を代表する検察官としてあるまじき、不誠実で罪深い不正の所為といわざるを得ず、適正手続確保の観点からして、到底容認することはできない」とまで厳しく批判した。以上の経過からすれば、これから開かれる再審公判において、検察官が有罪立証をすることはもはや許されない。よって、当会は、名古屋高検金沢支部及び名古屋高検、ひいては最高検に対し、再審公判では有罪立証を行わず、速やかに再審無罪を確定させて前川氏をえん罪被害から救済するよう求める。
  さらに、本件は、検察官の不服申立による再審手続の長期化や、再審請求審における証拠開示の制度化等、当会が、2023年(令和5年)3月23日総会決議(再審法の改正を求める決議)によって求めてきた再審法改正の必要性を、再確認させる特徴を有している。よって、当会は、政府及び国会に対し、あらためて、再審請求手続において十分な証拠開示がなされるよう制度化すること、再審開始決定に対する検察官の上訴を禁止すること、実効的なえん罪救済制度としての機能を果たすために必要な手続規定を整備することを骨子とする再審法の改正を早急に行うことを強く求めるとともに、引き続き、同法改正に向けた活動を含む、えん罪の根絶とえん罪からの救済のための活動に注力することを表明する。

      2024年(令和6年)11月29日

京都弁護士会                      

会長  岡  田  一  毅
      


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