地方消費者行政の拡充・強化のための対策を求める意見書(2025年2月19日)
2025年(令和7年)2月19日
内閣総理大臣 石 破 茂 殿
衆議院議長 額 賀 福志郎 殿
参議院議長 関 口 昌 一 殿
財務大臣 加 藤 勝 信 殿
総務大臣 村 上 誠一郎 殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全) 伊 東 良 孝 殿
消費者庁長官 新 井 ゆたか 殿
京都弁護士会
会長 岡 田 一 毅
地方消費者行政の拡充・強化のための対策を求める意見書
第1 意見の趣旨
1 国は、地方消費者行政推進事業に対する地方消費者行政強化交付金の交付期限を延長すべきであり、消費生活相談員の人件費にも充てることができるような財政支援を早急に行うべきである。
2 全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)の刷新及び消費生活相談のデジタル化の構築・運営のための経費は、国が全額ないし相当額について費用負担すべきである。
3 国は、PIО-NET登録事務など国の事務の性質を有する消費者行政費用について、恒常的に財政負担をすべきであり、地方財政法第10条をしかるべく改正すべきである。
4 適格消費者団体の活動支援及び消費者団体の育成・支援・連携のために地方公共団体が行う事務に対し、国は財政支援を行うべきである。
第2 意見の理由
1 消費者被害の状況
消費者庁の令和6年版消費者白書によれば、令和5年度の全国の消費生活相談件数は約90.9万件であって前年度よりも3万件以上増加した。同白書による消費者被害・トラブル額の推計値は約10.6兆円であり、前年度よりも2兆円以上増加している。京都府が発表した「令和5年度消費生活相談の概要」によれば、市町村を含めた京都府内の消費生活相談窓口で受け付けた相談件数は20,047件(前年度比94.4%)であり、約2万件で高止まりしている。消費者トラブルの形態も多様化・高度化し続け、「定期購入」に関する相談件数は1,852件と、引き続き最も多い相談となっている。また、京都市の「令和5年度消費生活相談の概況」によると、相談件数は9,389件と令和4年度と比較してもほぼ横ばいであり、65歳以上の高齢者からの相談割合は、過去5年間で最高(28.7%)となっている。
このように消費生活相談件数は高止まりのまま消費者トラブルが多様化・高度化していることから、消費者トラブル防止・救済の施策は国を挙げて取り組むべき課題であり、かつ、消費者にとって身近な地方公共団体(以下「自治体」という。)における相談体制の整備・充実が不可欠である。
2 地方消費者行政の予算状況
国は、自治体の消費者行政、特に消費生活相談の充実強化に向け、2009年度から地方消費者行政活性化交付金、2012年度から地方消費者行政推進交付金(以下「推進交付金」という。)を設け、2018年度から現行の地方消費者行政強化交付金(以下「強化交付金」という。)に移行し、財政支援を続けてきた。2018年度以降、地方消費者行政予算について、自治体の自主財源が少しずつ増加しているものの、未だ不十分であり、特に小規模自治体の多くは交付金に依存しているところが多い。京都府内においても自主財源が十分確保できない自治体があり、自治体の財政力によって、消費者行政の体制や施策に格差が生じ、今後交付金が活用できなくなると、この格差がさらに広がっていくことが想定される。
3 相談員の高齢化・人材不足
近年問題となっているのが、相談員の高齢化、及び新規人員を募集しても適任者が確保できない、若い人材が確保できないという担い手不足の深刻化である。背景には専門性が高い業種に見合う処遇が確保されていないことがある。消費生活相談員の人材確保ができなければ、相談体制自体が維持できなくなるおそれがある。
4 国の財政支援の必要性(意見の趣旨1について)
推進交付金と現行の推進事業に対する強化交付金は、国の補助率が100%であり、消費生活相談員の人件費にも充てることができるため、同制度が、相談体制を下支えしてきたといえる。しかし、現行の推進事業に対する強化交付金の活用期限が2027年度で全て終了すると、財政力の弱い自治体では、消費生活相談員の確保が困難となり、専門的な相談体制を維持することができなくなるおそれがある。また、推進事業に対する強化交付金は人件費のほか、消費者被害予防啓発・消費者教育等にも充てられてきた。これらについても活用期限の終了により実施困難となる自治体が発生し、国が進める消費者教育の推進にも支障が生じると思われる。人件費にも活用できた推進事業に対する強化交付金の終了等により消費者行政の後退を招くことは明らかである。
したがって、自治体の自主財源が相当程度の比率に達するまでの相当期間、推進事業に対する強化交付金の交付期限を延長すべきであり、さらには、同交付金のように消費生活相談員の人件費にも充てることができる交付金等の財政支援を早急に行うべきである。
5 デジタル化等に対する国の費用負担の必要性(意見の趣旨2について)
消費者庁は、現在、PIO-NETシステムを刷新し、消費者向けウェブサイトや相談支援システム、相談分析、情報提供システム等のシステム基盤の整備を行うというデジタル化計画を進めている。
現行システムのPIO-NETでは専用の端末が国民生活センターから必要台数貸与され、その端末を維持するための通信費等も含めて国が負担していた。消費者庁は、当初、パソコン設備費用は強化交付金の対象とならないとしていたが、その後、PIO-NETについてLGWANから接続できる仕組みを導入し、端末(パソコン)の設備費用についても強化交付金の対象とされる方針に変更した。しかし、経常的な経費負担や、消費生活相談のデジタル化に伴う費用負担に対する不安はなくなっていない。
PIO-NETに登録される情報は、相談現場における助言・あっせんのための情報としての役割以外に、法執行の端緒や立法政策の根拠ともなるものであるため、できるだけ広く・多くの自治体がPIO-NETを活用できる環境を作り、全国的に被害情報収集・集約をすることが国にとって望ましいはずである。
新システム構築の際の経費負担により相談体制が維持できなくなったり、PIO-NET入力事務が円滑に行えなくなることがないよう、全部ないし相当額について国の費用負担が検討されるべきである。
6 消費者行政費用の国による恒常的財政負担の必要性(意見の趣旨3について)
地方財政法第10条は、全国的に影響する事項や地域格差を解消し最低限の水準を確保すべき事項を同条各号に列挙しているものの、消費者行政費用はこれに規定されていない。前述のとおり、消費者被害防止・救済の施策は国を挙げて取り組むべき課題である。PIO-NETに登録される情報は、国の消費者行政の情報源として活用されるものであり、PIO-NETがその目的役割を十分果たせるようにするためには、全国各地の消費者相談情報の収集が適時・適切・安定的に行われることが必要であり、PIO-NETに精度の高い情報が入力蓄積されているのは、自治体が、相談窓口を設置・広報し、専門性の高い消費生活相談員を雇用して聞き取りや整理分析を行っているからである。
全国の消費者被害防止・救済は各自治体の活躍によって維持・発展されることからすれば、消費者行政のうち、国全体の消費者被害の防止の意義を有する事務については、国が恒常的に財政負担する事務として位置づけるべきであり、地方財政法第10条をしかるべく改正すべきである。
7 消費者団体に対する財政支援の必要性(意見の趣旨4について)
消費者団体は、消費者被害防止のための見守りネットワークの担い手としての役割、適格消費者団体の運営の担い手の役割、及び消費者の意見の収集・表明の役割など、消費者政策を円滑に運営するうえで不可欠な幅広い役割(消費者基本法第8条)が期待されている。しかし、現状は、多くの消費者団体が構成員の高齢化、活動の衰退・消滅など、深刻な事態となっている。消費生活相談体制の整備と消費者団体の育成・支援が両輪としてスタートした自治体の消費者行政において、消費者団体の育成・支援に関する施策と財政措置が途絶えて久しい。地域社会における暮らしの安全・安心な生活環境を確保する地方消費者行政が真に機能するためには、自治体と連携して消費者被害防止の主体的な活動を展開する消費者・消費者団体を育成・支援することが不可欠である。
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