京都府の「共生社会づくり」を目的とする条例の制定にあたり、ヘイトスピーチをはじめとするあらゆる差別的行為への対処に関する内容を盛り込むこと等を求める会長声明(2025年2月19日)


京都府の「共生社会づくり」を目的とする条例の制定にあたり、ヘイトスピーチをはじめとするあらゆる差別的行為への対処に関する内容を盛り込むこと等を求める会長声明


  京都府は、昨年12月に「京都府人権尊重の共生社会づくり条例(仮称)」の骨子案を公表し、今年1月5日までパブリックコメントを募集した。そして、同条例案は、2月12日に京都府議会2月定例会に提出された。
  条例案は、その前文において、「不当な差別その他の人権侵害が存在している」「人権尊重の基盤となる社会の秩序が適正に保持されるとともに、全ての府民が自己の権利の行使に伴う責任を自覚し、自己の人権と同様に他人の人権をも尊重すべきであるという意識がより一層府民に浸透させることが必要である」という状況において、「府民一人ひとりの尊厳と人権が共に尊重され、全ての府民が、地域等の社会において「守られている」、「包み込まれている」等といった社会からの温かさを感じることができるようにするとともに、誰もが主体的に社会に参画し、自らの可能性を伸ばすことができる人権尊重の共生社会づくりを推進しなければならない」という認識に立って、この条例を制定する旨述べている。
  差別のない社会の実現に向けて条例を制定すること自体は評価しうるが、条例案は、人権尊重の共生社会づくりに関する施策の策定、推進計画の策定、懇話会の開催を述べるのみで、ヘイトスピーチをはじめとする差別的行為への対処についての具体的な施策については一切言及していない。それどころか不当な差別的行為を明確に禁ずる文言さえなく、実効性に疑問を抱かざるを得ない。
  2016年(平成28年)5月に制定された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」4条2項では、「地方公共団体は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、当該地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとする」と規定されており、ヘイトスピーチに対して地方公共団体が条例によって不当な差別的言動解消のために必要な規制を積極的に行うことが求められている。また、人種差別撤廃条約前文において、「すべての人がいかなる差別をも、特に人種、皮膚の色又は国民的出身による差別を受けることなく同宣言(世界人権宣言)に掲げるすべての権利及び自由を享有することができること」、「すべての人間が法律の前に平等であり、いかなる差別に対しても、また、いかなる差別の煽動に対しても法律による平等の保護を受ける権利を有すること」と規定されていることからすれば、同条約を遵守する義務を負う地方公共団体には、本邦外出身者に対するヘイトスピーチのみならず、あらゆる者に対する不当な差別的行為に対応することが求められる。とりわけ、京都朝鮮第一初級学校に対するヘイトスピーチ事件、ウトロ地区における放火事件、京都国際高校に対するヘイトスピーチ事件が起きた京都府においては、「地域の実情」を踏まえて全国的に模範となるような条例の制定が求められる。
  また、そもそも人権は「保障」されるべきものであって(世界人権宣言前文第1項、憲法11条、12条)、「尊重」を超えた「保障」こそが求められる。
そこで、当会は、京都府が「共生社会づくり」の制定を目指すにあたり、「すべての住民の平等な人権保障」を目的として明示するとともに、不当な差別的行為を明確に禁止すること及びその防止措置や拡散防止措置、不当な差別的行為に対する相談体制の整備など、ヘイトスピーチをはじめとするあらゆる差別的行為への対処に関する内容を盛り込むことを求める(2017年(平成29年)3月23日付「ヘイトスピーチへの対処に関する条例の制定を求める意見書」及び2024年(令和6年)9月27日付「京都国際高校に対するヘイトスピーチを非難するとともに国・京都府・京都市に対しヘイトスピーチ解消への積極的取組みを求める会長声明」参照)。

2025年(令和7年)2月19日

京都弁護士会              

会長    岡  田  一  毅


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