意見書

消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転に反対する意見書(2015年12月24日)


2015年(平成27年)12月24日


内閣総理大臣  まち・ひと・しごと創生本部本部長  安 倍 晋 三  殿
地方創生担当大臣  石 破   茂  殿
内閣府副大臣  松 本 文 明  殿
消費者担当大臣・行政改革担当大臣  河 野 太 郎  殿
消費者庁長官  板 東 久美子  殿
消費者委員会委員長  河 上 正 二  殿
国民生活センター理事長  松 本 恒 雄  殿
政府関係機関移転に関する有識者会議座長  増 田 寛 也  殿


京  都  弁  護  士  会

会長  白  浜  徹  朗  



消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転に反対する意見書


第1  意見の趣旨
  1  消費者庁が、特命担当大臣の下で政府全体の消費者保護政策を推進する司令塔機能を果たすとともに、消費者被害事故などの緊急事態に対処し、所管する法制度について迅速な企画・立案・実施を行う機能を果たすためには、担当大臣、各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり、これに反するような地方移転には反対である。
  2  国民生活センターが、全国の消費生活相談情報の分析を踏まえて消費者保護関連法制度・政策の改善に向けた問題提起や情報提供を効果的に行うためには、消費者庁及び消費者委員会と密接に連携して分析及び情報交換を行うことが必須であり、また、消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての機能を果たすためにも地方移転には反対である。
  3  消費者委員会が、消費者庁等からの諮問事項を審議するほか、任意のテーマを自ら調査して他省庁への建議等を行うという監視機能を行使するには、諮問された省庁等との連絡を密にして、他省庁や関連事業者、事業者団体からの事情聴取・協議を頻繁に行うことが不可欠であり、これに反するような地方移転には反対である。

第2  意見の理由
  1  はじめに
政府は、政府関係機関の地方移転に係る道府県の提案を受け、「まち・ひと・しごと創生本部」に「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)を設置し、本年12月に考え方を取りまとめ、来年3月には基本方針を決定することとしている。その中で、徳島県から消費者庁と国民生活センターを同県に移転することが提案され、有識者会議で審議されている。
  しかし、地方移転に伴い当該政府関係機関が果たすべき本来の機能が大きく低下することになっては本末転倒である。有識者会議の考え方として、道府県からの提案のうち、「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」や「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」に係る提案、「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」については、移転をさせない方向性が示されている。
  消費者庁・国民生活センターは、以下に述べるとおり、担当大臣の下で消費者委員会とも連携しながら、多数の省庁に分散している消費者行政を総合的に推進する司令塔として、他の省庁と日常的に連携し、一体となって業務を行っている。また、大規模な食品被害など国民の安心安全を脅かす事態が生じたときには、官邸と一体となり緊急対応を行う政府の危機管理業務を担っている。これらの機能を果たすためには、担当大臣、各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり、これに反するような地方移転には反対である。
2  消費者庁の地方移転について
(1) 消費者行政の司令塔機能の低下
消費者庁は、各省庁と連携し、消費者政策推進の司令塔として機能する機関であり、食品や製品の生産・流通・販売・安全管理、金融、教育、行政規制、刑事規制など多くの領域に関わり、経済産業省・金融庁・農林水産省・厚生労働省・国土交通省・文部科学省・警察庁等をはじめとするほとんどの省庁と関連している。消費者庁は、これら各省庁と連携しつつ、政府全体の消費者行政の司令塔として、消費者保護政策を統括的に推進する役割を果たしている。
このような役割を担う消費者庁は、担当大臣や中央省庁と日常的に一体として業務を行う必要があり、関係省庁と頻繁なアクセスを行うことが不可欠である。しかし、現在地から地方移転した場合には、現状のような頻繁なアクセスは困難となり司令塔機能の維持が極めて困難になる。
(2) 緊急対応機能の低下
消費者庁は、消費者安全に関する重大事故発生時には、官邸と連絡を取りながら、関係大臣等を本部員とする緊急対策本部を速やかに開催し、関係省庁と連携して事態に対応しなければならない。即時に各方面から被害情報の収集をし、マスコミ等にも対応し、消費者の安全のための施策を適切に行う必要がある。
現に、2013年(平成25年)12月、冷凍食品から農薬(マラチオン)が検出され、事業者から自主回収の発表がされた事件では、消費者庁は、食品安全法を踏まえ消費者に対して注意喚起するとともに、食品衛生法を所管する厚生労働省をはじめ、食品安全委員会、農林水産省、警察庁等と連携し、情報共有と被害拡大防止等の対応にあたった。さらに、ホテル・レストランが提供する料理等のメニューの偽装表示問題でも、消費者庁は内閣官房長官の下で「食品表示等問題関係府省庁等会議」を開催し、食品表示の適正化策を早期に策定した。東日本大震災発生時にも、消費者庁長官主宰で物価担当官会議を開催し、関係省庁と連携して震災後の生活物資確保にあたった。また、今後、防災や鳥インフルエンザ対策の、政府の緊急会議がある場合には、消費者庁も直ちに参集する必要があるとされている。
こうした緊急事態においては、インターネットや電話などの遠方からの情報交換や情報発信では到底足りず、数時間以内に対面での会議を開き、官邸や省庁を回って情報収集と共有を行い、記者会見などを行う必要がある。また、場合によっては問題になった製品・食品そのものを関係省庁やマスコミに直接示すなどして、迅速・確実な情報伝達をすることも危機管理上必須である。仮にこうした緊急対応を地方で行おうとすれば、緊急対応機能の低下は避けられず、対応の遅れによっては消費者の安全に係わる深刻な事態を引き起こしかねない。
(3) 企画立案機能(立法機能)の低下
消費者庁は、表示、製品安全、取引の安全、地方消費者行政、消費者教育等幅広い分野にわたる消費者行政の企画立案機能を有している。この機能を果たすためには、国会・政党に頻繁にアクセスするとともに、他省庁との調整や審議会・検討会の開催、消費者団体や事業者団体との意見交換等の関連業務を日常的に行うことが必要である。仮に地方移転ということになれば、これらの業務は大幅に制限されることになり、必然的に企画立案機能は低下すると考えられる。
(4) 執行機能の大幅低下
執行については、消費者庁と地方自治体(都道府県)が担っているが、多くは消費者庁が行っている。行政処分を行うには当然のことながら事業者からの事情聴取や立入調査等の事実調査が必要であるところ、事業者の多くが首都圏に集中しているため、事実調査の多くも消費者庁を含む首都圏で行われることになる。このため、消費者庁が地方に移転されることになると、事実調査に多くの時間とコストがかかることが予想され、迅速な執行が阻害される可能性が極めて高い。このように、消費者庁の地方移転は執行機能の大幅な低下をもたらすものである。
(5) 小括
以上のように、消費者庁は、自らの所管する法の執行を担うほか、担当大臣の下で消費者行政の司令塔として、緊急事態には関係省庁と対応の協議を行いながら事態に対応するなどの役割を担っている。こうした司令塔機能等を果たすためには、霞ヶ関の各省庁に近接して消費者庁が所在し、いつでも関係部局の担当者と面談協議や資料提出要請を行うことが不可欠である。したがって、消費者庁を地方移転の対象とするのは不適当である。
3  国民生活センターの地方移転について
(1) 消費者庁・消費者委員会等との連携
国民生活センターは、消費者庁・消費者委員会や他省庁と随時連携をとりつつ業務を遂行している。具体的には、全国の消費生活相談センター、消費生活相談窓口から収集された相談情報であるPIO-NET情報を分析し、各省庁が行う消費者関連法の制定・改正における立法事実を明らかにする資料を作成し情報提供をしている。また、国民生活センターは、情報提供のほか、注意喚起、各省庁への提言を行っているが、その際に関係省庁とのすりあわせを行い、消費者庁との間で情報分析についての定期的な協議会を設けている。これらの業務は、各省庁の担当者の問題意識を国民生活センターの担当職員と直接面談して密に意見交換することが重要である。地方移転によって他省庁との連携が困難となることは避けられない。
(2) 消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割
国民生活センターは、全国各地の消費生活センター、消費生活相談窓口の相談処理の支援機能として、相談支援、情報提供、商品テスト、ADRなどを実施している。例えば、問題のある取引をしている事業者との協議を行ってその情報を各地に発信し、商品テストを実施してその結果に基づき注意喚起・情報提供・事業者指導をするとともに、紛争解決委員会(ADR実施機関)において事業者と消費者の出席を求め、和解の仲介手続を行っている。これらの機能を果たすためには、多数の専門家の確保、協議のための事業者の来訪・訪問などが必要となるが、地方でこのような専門家を確保できるかは疑問であるし、事業者が来訪しないのではないかという懸念も存在する。専門家や事業者に各地から集まってもらうとしても多くの費用がかかることになる。
このように、国民生活センターの地方移転は、国民生活センターの消費生活センター、消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割を阻害するものである。
(3) 人的資源の減少、消費者・事業者等とのコミュニケーション能力の低下
国民生活センターは、現在半数近くが非常勤職員であり、地方移転によって一気に人員が減少する可能性がある。また、ADRや試験委員会等外部の有識者との審議会的組織も複数あるところ、これら外部の担い手の確保も課題となる。
また、国民生活センターが被害予防情報を発信する際は、他省庁とのすりあわせのみならず関係事業者からのヒアリング等を行っているところ、地方移転により、現在行っている消費者団体との意見交換やマスコミとの関係も希薄になることが懸念される。このように、地方移転によって情報発信機能やコミュニケーション能力が低下する可能性がある。
(4) 小括
以上のとおり、消費者庁・国民生活センターの地方移転には、様々な弊害が予想される。国民生活センターが、消費生活センター、消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割を果たすためには、各省庁に近接し、日常的に連携でき、消費者庁、消費者委員会が所在している場所に近いところで、多くの専門家が確保できる場所に存在する必要がある。したがって、国民生活センターを地方移転の対象とするのは不適当である。
4  消費者委員会の地方移転について
  消費者委員会は、現在非常勤の委員10名から構成されており、月に数回程度の本委員会のほか、新開発食品調査部会、消費者契約法専門調査会、特定商取引法専門調査会、ワーキング・グループなどの部会・専門調査会が随時開催されている。本委員会については、その準備のために委員間打ち合わせを複数回行い、事務局と個別の委員との打ち合わせも頻繁に行われている。そのために、必要な専門家の参画もなされている。
  消費者委員会は消費者庁等からの諮問事項を審議するほか、任意のテーマを自ら調査して他省庁への建議等を行うという監視機能を有している。他省庁からの諮問の場合に諮問した省庁等との連絡を密にすることはもちろんであるが、建議等の監視機能の行使においても、他省庁や関連事業者、事業者団体からの事情聴取・協議も頻繁に行うことになる。この場合、消費者委員会の会議の場にこれら関係省庁、事業者等を招へいするほか、委員会側から直接赴いて事情を聴取し、あるいは改善の必要性について説得することも行われている。とりわけ建議の対象となる省庁や関連事業者等を相手とする場合、こうした直接の面談、交渉抜きでは十分に実情を踏まえた建議等の取りまとめは困難であるし、最低限の説得を行わないまま提案を行っても、建議等発出後の実現可能性が大きく低下することになりかねない。
なお、最近では、消費者委員会は18本の建議、12本の提言、50本の意見を他省庁に提出しているが、こうしたねばり強い説得・説明作業の結果、ほとんどの建議について対象省庁となった省庁により何らかの対応が行われているという現状にあり、高い成果を上げている。地方移転でこのような説得・説明が困難になることが懸念される。
  以上のような実情に鑑みても、消費者委員会の地方移転はその大幅な機能低下をもたらすおそれが大きい。
  したがって、消費者委員会を地方移転の対象とすることは不適当である。

以  上



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