意見書

京都府の「原子力安全協定」に関する意見書(2016年2月17日)


2016年(平成28年)2月17日

京都府知事  山  田  啓  二  殿
京都府内    各市町村長  殿
関西電力株式会社  御中
日本原子力発電株式会社  御中
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構  御中

京 都 弁 護 士 会

会長  白  浜  徹  朗



京都府の「原子力安全協定」に関する意見書



意見の趣旨


1  当会は、京都府及び京都府内の市町村に対し、福井県内の全ての原子力発電所及び原子炉施設(以下「原子力発電所等」という。)につき、各事業者との間で、原子力発電所等の新増設・重要な変更や停止後の運転再開について同意を要するとするなど、少なくとも立地自治体と同等の内容の安全協定の締結及び改定に努めるよう求める。
2  当会は、関西電力株式会社、日本原子力発電株式会社及び国立研究開発法人日本原子力研究開発機構に対し、前項記載の協定の締結及び改定に応じるよう求める。

意見の理由


1  2015年(平成27年)2月27日、京都府と関西電力株式会社(以下「関西電力」という)との間で「高浜発電所に係る京都府域の安全確保等に関する協定」が締結された(以下「本協定」という。)。
    本協定では、高浜原子力発電所に関し、関西電力が京都府に対し、①原子炉施設の増設計画や重要な変更に関する事前説明、②異常事態発生時における原因・内容等の説明と京都府の要望に対する適切な対処、③発電所の現地確認の協力、④事故後の運転再開時における事前説明を行う義務を負うとともに、①③④について京都府が意見を述べたときは、措置状況について回答義務を負う。
そして、本協定と同時に、京都府、舞鶴市及び関西電力の間で「高浜発電所に係る舞鶴市域の安全確保等に関する覚書」、京都府と綾部市との間で「高浜発電所に係る綾部市域の安全確保等に関する確認書」、京都府と福知山市、舞鶴市、綾部市、宮津市、南丹市、京丹波町及び伊根町(以下「7市町」という。)との間で「高浜発電所に係る安全確保等に関する確認書」がそれぞれ締結され、これらの覚書及び確認書により、京都府が7市町に情報提供等の義務を負うこととなった。

2  すでに当会は、2012年(平成24年)2月23日付「福井県内に設置された原子力発電所及び原子力施設に関する意見書」において、原子力発電所の新増設に反対し、全ての原子力発電所について今後10年以内のできるだけ早い時期に廃炉にすることを求めた。かかる当会の立場を踏まえると、本協定の役割はあくまでも廃炉に至るまでの時限的措置というべきであり、かつ、これを前提としても、以下の点で、いまだ不十分な内容と言わざるを得ない。
(1)  第1に、本協定は、原子力発電所の立地自治体である福井県と関西電力との間で、1971年(昭和46年)8月3日に締結された「原子力発電周辺環境の安全確保等に関する協定書」(2005年(平成17年)5月16日最終改定。以下「福井県協定」という。)に比べ、関西電力に対する権限が弱く、特に、新増設や運転再開について「同意」が明示されていない点で、実効性が乏しい。
      すなわち、①原子炉施設の新増設・重要な変更に関し、福井県協定では福井県の事前了解が必要であるところ、本協定では関西電力が京都府に対し説明・回答義務を負うにとどまり、②異常事態発生時に関し、福井県協定では関西電力が福井県からの必要な措置請求に応じ、報告する義務を負うところ、本協定では、京都府の要望に対し適切な対処をする義務を負うにとどまり、③原発停止後の再稼働に関し、福井県協定では事前協議が必要とされるところ、本協定では京都府が事前説明を受けることができるにとどまり、④現地確認に関し、福井県協定では住民代表者の同行も可能であるところ、本協定では府の職員のみの同行であるなど、京都府の権限が限定されている。
  (2)  第2に、本協定は、福井県の原子力発電所のうち、高浜発電所のみが対象である。福井県は、福井県内の他の原子力発電所等(大飯発電所、美浜発電所(以上につき関西電力)、敦賀発電所(日本原子力発電株式会社)及び高速増殖原型炉もんじゅ(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構))について安全協定を締結済みであるが、これらにつき京都府とは協定がない。
  (3)  第3に、本協定では、7市町は、関西電力に対し、「同意」や要望を行う主体として想定されておらず、市町の権限が極めて弱い。

3  これらの問題をふまえ、原子力事業者との地方自治体の安全協定に関しては、次のような見直しを検討すべきである。
  (1)  本協定の内容を、原子力発電所等の新増設・運転・再稼働について同意を要するとするなど、少なくとも立地自治体と同等にすべきである。
  原子力発電所等の新増設、運転、異常事態発生時の対応等に関する同意の主体は、従来、実際に原発が所在している立地自治体のみが想定されていた。かかる同意の根拠は、原子力発電所等の運転や異常事態によって直接影響を受ける住民の生命・身体の自由や人格権(憲法13条)を保護するための地方自治の本旨(住民自治。憲法92条)が根底にあると考えられる。そして、ひとたび原子力発電所等の事故が生じた場合は、自治体の行政区画に関係なく、周辺自治体の住民にも甚大な被害が生ずることは2011年(平成23年)3月11日に発生した東京電力福島原子力発電所の事故の例からも明らかである。
また、周辺自治体も、立地自治体と同様に住民の安全確保に責任を負うことは当然であって、現に、地方自治体は、防災基本計画及び原子力災害対策指針に基づく地域防災計画を作成し、原子力災害対策重点区域を設定する自治体の場合は地域防災計画に原子力災害対策編を設けることが義務付けられている(原子力災害対策特別措置法28条1項、災害対策基本法40条・42条)。
この点、高浜発電所から30キロメートル圏内にある主な地方自治体の人口は、福井県内の主な市町村が高浜町約1万人、小浜市約3万人、おおい町約8500人であるのに対し、京都府の主な市町村が舞鶴市約8万4000人、綾部市約3万4000人、宮津市約1万9000人等であり、万一、高浜発電所に事故が発生した場合、およその人口比を見ても、京都府内の住民に及ぼす影響が非常に大きいことが分かる。
  よって、住民の生命・身体の自由や人格権を保護するための住民自治の観点から、高浜発電所に関する安全協定の内容は、原子力発電所等の新増設・運転・再稼働について同意を要するとするなど、少なくとも立地自治体と同等であるべきである。
(2)  福井県内の他の原子力発電所等についても立地自治体と同等の内容の協定を締結すべきである。
京都府と、福井県内の他の原子力発電所等までの距離は、大飯発電所から最短約18キロメートル、美浜発電所から最短約44キロメートル、福井県内で最も離れた敦賀発電所までも最短約51キロメートルである。福島原発事故では、福島第一原子力発電所から計画的避難区域に指定された飯館村までの最長距離は約47キロメートルにも及び、また200キロメートルを超える範囲でも放射性物質による汚染被害が生じたこと等に鑑みれば、福井県内の他の原子力発電所等についても立地自治体と同等の内容の協定を締結すべきである。
(3)  7市町のみならず京都府の他の市町村も個別に立地自治体と同等の協定を締結すべきである。
住民自治の観点から、今後、市町村の権限を強化し、各市町村が原子力事業者と個別に安全協定を締結することが望ましい。

4  よって当会は、頭書の意見の趣旨のとおり、意見を述べる。

以  上


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