「電子マネーに関する資金決済法改正等を求める意見書」(2016年5月12日)


2016年(平成28年)5月12日

内閣府特命担当大臣(金融)  麻  生  太  郎  殿
消費者庁長官                板  東  久美子  殿
内閣府消費者委員会委員長    河  上  正  二  殿
警察庁長官                  金  髙  雅  仁  殿
国家公安委員会委員長        河  野  太  郎  殿
日本資金決済業協会会長      福  原  紀  彦  殿


京  都  弁  護  士  会

会長  浜  垣  真  也



電子マネーに関する資金決済法改正等を求める意見書



第1  意見の趣旨
当会は、第三者型前払式支払手段におけるサーバー型電子マネー(以下「電子マネー」という。)について、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)の改正等により、以下の措置を講ずべきであるとの意見を述べる。
1  第三者型前払式支払手段発行者(以下「電子マネー発行業者」という。)に対する加盟店管理義務を徹底させるために、資金決済法を改正し、加盟店契約締結時における審査、加盟店契約締結後の随時審査、苦情発生時の調査・対応をすべき義務について明文化すること。
2  電子マネーのID番号等を詐取される被害を防止すべく、資金決済法を改正し、電子マネーの権利(ID番号等)の業としての転売等の禁止等の措置をすべきこと。
  少なくとも、同法ないし古物営業法を改正し、業として電子マネーの買取を行う事業者に対して、登録・許可制度、買取時の本人確認義務及び一定額を超える取引について疑わしい取引として警察官に申告する義務を明文化すること。

第2  意見の理由
1  はじめに
⑴  被害実情
  昨今の消費者トラブルとして、電子マネーを決済手段とした「サクラサイト商法(出会い系サイト商法)」や「情報商材」などの事案において深刻な被害が続いている。当会における、サクラを用いた詐欺的サイト被害を取り扱う弁護団の集計では、2011年(平成23年)から2015年(平成27年)までの被害件数75件のうち、32件で電子マネーが決済方法として用いられていることが報告されている。
この点、クレジット取引については、加盟店管理について割賦販売法に基づく規制の強化に向けて検討が進められている。京都弁護士会は、2015年(平成27年)10月22日付けの「割賦販売法改正についての意見書」において、加盟店契約会社(アクワイアラー)による加盟店調査について、契約締結時の初期審査だけでなく契約締結後の途上審査を行うことを内容とした意見を述べている。
他方で、電子マネーについては、資金決済法による電子マネー発行業者に対する規制は存在するものの、その内容は、主として財産保全措置が中心であって、上記のような被害事例が続出している状況にもかかわらず、未だに加盟店管理等に関しては不十分な状態が続いている。
さらに、電子マネーについては、本来の決済手段のみならず、その匿名性を悪用し、消費者から電子マネー発行業者が発行するID番号等を加盟店ではない業者が詐取し転売する被害も多発している(以下「プリカ詐欺」という。)。
⑵  内閣府消費者委員会における建議
      上記被害実情を踏まえて、内閣府消費者委員会は、2015年(平成27年)8月18日、「電子マネーに関する問題についての建議」において、金融庁に対して、①加盟店管理及び苦情処理体制の整備、②プリカ詐欺への被害防止策、③消費者教育及び情報提供の3点から建議を行った。
⑶  そこで、以下、悪質加盟店を排除し、電子マネー決済の適正化を確保すべく、電子マネー発行業者における加盟店管理の徹底及び苦情処理対応、並びにプリカ詐欺の被害防止に向けた対応策に関し、意見を述べるものである。

  2  加盟店管理及び苦情処理対応(意見の趣旨第1項)
⑴  電子マネー発行業者の加盟店管理責任等について、前記建議は、金融庁に対して、「電子マネー発行業者に対し、資金決済に関する法律における義務付けを含む、加盟店の管理及び苦情処理体制の制度整備に向けた措置を講ずること。」としている。
この点、電子マネー発行業者に対する加盟店管理義務は、現行の資金決済法に直接的な規定は存在しないものの、登録制度において、その登録拒否事由に、電子マネー決済によって提供をうける物品や役務につき、「公の秩序又は善良の風俗を害し、又は害するおそれがあるものでないことを確保するために必要な措置を講じていない法人」を掲げ(資金決済法10条1項3号)、電子マネー発行業者は、加盟店が公序良俗に反するおそれのある商品・役務を提供することがないように適切な措置を講じることが行政的に義務付けられ、違反行為については、業務停止命令・登録取消事由(同法25条、27条)の対象ともされている。
このような状況からすれば、既に、電子マネー発行業者に対して、加盟店管理義務を明文化することについての基盤を十分に備えているところである。
⑵  また、割賦販売法により加盟店管理義務が明文化されているクレジット制度と比較しても、決済手段を継続的に提供していくという構造は、電子マネーもクレジット制度と異ならないものである。
そこで、上記被害実情を踏まえ、悪質加盟店を適切に排除するという目的を達成するために、電子マネー発行業者に対しても、クレジット制度と同等以上の加盟店管理義務を課すべきである。
⑶  現在の割賦販売法は、加盟店管理義務として、業務適正化義務の中の苦情の適正処理義務(同法30条の5の2、省令60条)とともに、個別信用購入あっせん業者(個別クレジット)における不適正与信防止義務(同法35条の3の5第1項、同法35条の3の7)を規定している。また、金融庁の資金決済法におけるガイドラインにおいては、登録拒否事由の内容として苦情処理体制の整備等を規定している。
        しかしながら、登録拒否事由の具体的内容をガイドラインで規定する構造では、これまでに被害が改善されていない状況からしても法的義務の実効性が不十分であり、加盟店調査・管理義務を具体的行為規制として規定すべきである。
  また、加盟店管理義務の内容面についても、加盟店契約締結時の初期審査が重要ではあるものの、同時点の審査のみでは、当該加盟店が如何なる実態にあるのかを適切に把握することが困難な場合も存するとともに、その後の事業内容の変更等がなされることも想定される。何より、実際に加盟店と取引をしている消費者等からの苦情等の情報は、加盟店の実態を把握する上において、極めて重要な情報であって、同苦情に対する適切な対応をすることは、当該消費者に対する被害救済のみならず、加盟店を管理する場合においても求められることである。
        そこで、法律上の行為義務として、電子マネー発行業者に対して、加盟店契約締結時における審査のみではなく、契約締結後の定期的な審査、及び苦情が発生した時における対応をすべき義務を定めるべきである。
⑷  以上の観点より、具体的には、以下のような加盟店管理義務について、資金決済法を改正し、明文化すべきである。
        ①  加盟店契約締結時の義務
  電子マネー発行業者は、加盟店との間で、前払式支払手段に係る契約を締結しようとする場合には、その契約の締結に先立って、加盟店に関する名称、住所、電話番号、代表者氏名、特定取引・商品等の種類、苦情処理体制などの事項を調査しなければならない。
        ②  加盟店契約締結後の義務
            電子マネー発行業者は、加盟店契約締結時に確認した事項に関する著しい変化の有無について、一定期間(半年から1年程度)ごとに調査をしなければならない。
        ③  苦情発生時の義務
          Ⅰ  電子マネー発行業者は、利用者(前払式支払手段の保有者)の利益の保護を図るため、その利用者からの苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置を講じなければならない。
Ⅱ  電子マネー発行業者は、利用者からの苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置を講じるときは、次の各号に定めるところによらなければならない。
            ⅰ  利用者からの苦情を受け付けたときは、遅滞なく、当該苦情に係る事項の原因を究明すること。
            ⅱ  原因究明により知った事項からみて、当該苦情の内容に応じ、当該苦情の処理のために必要な事項を調査すること。
            ⅲ  調査の結果に基づき、加盟店に対する業務改善、加盟店契約の解除、決済の停止、利用者への調査結果の情報提供・返金等の対応をすること。

3  プリカ詐欺の被害防止(意見の趣旨第2項)
⑴  プリカ詐欺被害について、前記建議においては、金融庁は、消費者が電子マネーのIDを詐取されることによる被害を防止するため、消費者に対する注意喚起や関係機関との協力等が指摘されている。
⑵  確かに、消費者に対する注意喚起、関係機関との協力関係等は、被害の未然防止の観点においては、重要なことである。しかし、上記建議は、電子マネーが事実上現金化可能となっており、それがプリカ詐欺被害の拡大に寄与していることへの対応が含まれていない。
この点、電子マネーの現金化については、現在の法制度や事業者の運用において、次のような現状となっている。
①  資金決済法において電子マネー発行業者による払戻が原則禁止されている(同法20条2項)。
②  電子マネー発行業者の多くは、原則として、ID番号等(権利)の第三者への譲渡・転売を禁止している。
③  電子マネーの多くは一度の使用により権利が清算されるものである。
以上からすると、表向きは(本来であれば)現金化できないようにも思われる。しかし、現実には、ID番号等の買い取り・転売をする(Real  Money  Trade)業者(以下「RMT業者」という。)が存在し、これらのRMT業者に権利の譲渡等をすることによって現金を得ることが可能になっている。このことがプリカ詐欺被害の増大の一つの原因となっている。
また、他の決済手段である銀行振込やクレジットカードなどにおいては、口座開設や会員登録において、厳格な本人確認がなされていることに対して、電子マネーにおいては、匿名性を維持したままの発行・譲渡・転売をなしうるものであって、事実上の資金移動を可能とするのみならず、マネーロンダリングの観点でも問題があるものである。
さらに、匿名性を維持したまま譲渡・転売できることから、犯人を特定することも極めて困難となる。結果として、悪質業者等にとっては、被害者から電子マネーのID番号等を詐取することが最も容易に利益を得る手段となっている。
そこで、プリカ詐欺の被害を防止するためには、RMT業者への規制も含めた被害実態全体に対する検討を行うべきである。
⑶  以上の観点より、日本で流通している電子マネーは、権利が転々流通することを想定されていないことからして、現在の匿名性を維持しつつも、少なくとも業としての権利の転売等(売買以外の交換、売買等の委託を受ける、市場経営、インターネット上の競りなども含む)を禁止すべきである。権利の転売等は、元々、各電子マネー発行業者の規約等で禁止されていることから、これは決して行き過ぎた規制ではない。
⑷  仮に、権利の転売等を禁止し得ないということであれば、RMT業者に対して、動産である前払式支払手段(商品券等)に対する古物営業法と同様の規制として、資金決済法ないし古物営業法を改正し、RMT業者の登録・許可制(古物営業法3条等参照)、買取時等における本人確認義務(同法15条1項、21条の2参照)、及び、疑わしい取引の申告義務(同法15条3項、21条の3参照)を課すべきである。
今日のように、電子マネーが普及し、プリカ詐欺及び電子マネーの買取が急増している現状からすれば、電子マネーについても、古物営業法の目的(取引される古物の中に窃盗等の被害品等が混在するおそれがあることから、盗品等の売買の防止、被害品の早期発見により窃盗その他の犯罪を防止し、被害を迅速に回復する)が妥当する。したがって、電子マネーについても、買取を業とする者について、資金決済法又は古物営業法に基づき、登録・許可制、買取時等における本人確認義務及び疑わしい取引の警察官への申告義務を課すべきである。
また、電子マネーは小口で発行されることが多いことから、本人確認義務は取引金額を問わないものとするべきである(古物営業法でいえば、同法15条2項1号括弧書の「特に前項に規定する措置をとる必要があるものとして国家公安委員会規則で定める古物」に含めるべきである。)。
さらに、電子マネーが前記のように原則譲渡・転売禁止であることから、一定額を超える取引については、類型的に疑わしい取引(古物営業法15条3項、21条の3)に当たるとして、警察官への申告義務(電子マネー特定のために当該電子マネーのID番号等の申告も含む。)を負わせるべきである。

以  上


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