心神喪失者等医療観察法案の廃案を求める会長声明(2003年5月15日)


  「心神喪失者等医療観察法案」は去年の通常国会に上程され、十分な審議もなく昨秋の臨時国会の衆議院で若干の修正を経て可決され、現在、参議院で審議中である。当会では、昨年3月7日には「重大な触法行為をした精神障害者に対する新たな処遇制度案についての意見書」、同年10月29日には「心神喪失者等医療観察法案の廃案を求める会長声明」を発表し、この法案は過去に否定された保安処分以上に危険かつ正義に反するものであるとして、繰り返し批判し、強く反対してきた。
  この法案は、再犯防止の目的で、裁判官1人と精神科医1人で構成される合議体が、重大な犯罪にあたる行為をして心神喪失・心神耗弱であるとして不起訴、無罪、執行猶予等により刑務所に服役しないことになった精神障害者に対して、強制入通院を課すというものである。
  法案においては、批判の強かった「再犯のおそれ」という要件を削除したと政府は説明しているが、法案の再犯防止目的も裁判官関与も変わっておらず、「同様の行為を行うことなく」という文言からしても、再犯予測要件が消えたとは言えない。しかし、欧米での研究成果をふまえても再犯予測は不可能であり、必然的に誤って拘禁するという重大な人権侵害を生じることは、当会も繰り返し指摘してきたとおりである。しかも、入院期間には上限はなく、不確かな再犯予測とあいまって一生拘禁されてしまうおそれも変わらない。
  また、法案では、「社会復帰」という言葉が強調されているが、言葉だけで中身がない。むしろ、「らい予防法」と同じく精神障害者のみを特別に強制隔離の対象とすることにより精神障害者に対する誤った社会認識を作出・助長し、かえってその社会復帰を妨げるものとなる点も変わっていない。
  他方、付添人弁護士をつけることはできても、反対尋問権をはじめとする刑事裁判で認められている当事者としての諸権利が保障されておらず、適正手続の保障がされていない点は法案でも何ら変わっていない。
  今、国がなすべきことは、差別・偏見を解消し、精神科は一般科の3分の1の医師数でよいなどとするいわゆる精神科特例を即時撤廃し、自ら安心して利用できる良質な精神科医療と地域福祉を実現することである。同時に、起訴前鑑定、恣意的な起訴・不起訴、受刑段階を含む刑事手続き中の医療保障などについて実態を公表し、その改善に真摯に取り組むべきである。
  当会は、本法案のすみやかな廃案を求める。

                                                    2003年(平成15年)5月15日

京都弁護士会  塚  本  誠  一

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