「消費者契約法の一部を改正する法律」の成立に関する会長声明(2016年5月25日)


  2016年(平成28年)5月25日、第190回国会において、消費者契約法(以下「本法」という。)の契約締結過程及び契約条項の内容に係る規律の在り方を一部改正する「消費者契約法の一部を改正する法律」が可決され、成立した。

  当会は、かねてより、情報通信技術の発達や高齢化社会の進展等で拡大する消費者被害等の予防・救済を図るため、本法の早期改正を求めてきたところであり、本法の改正が実現したことは評価できる。

  とりわけ、過量契約(事業者から受ける物品、権利、役務等の給付がその日常生活において通常必要とされる分量、回数又は期間を著しく超える契約)という限定的な範囲に止まるとはいえ、加齢や認知症等により合理的な判断をすることが困難な事情を利用して契約を締結させる不当な勧誘類型について新たな消費者の取消権を導入したこと、不実告知を理由とした誤認取消の対象となる重要事項が動機付け部分にまで拡張されたこと、取消権の行使期間を伸長したことは、不当勧誘行為の予防や被害救済の観点から高く評価できる。

  また、事業者が債務不履行をしているにもかかわらず消費者が契約を解除できないとする契約条項を不当条項として無効とする規定や、消費者の不作為をもって契約の申込み又は承諾の意思表示を擬制する契約条項を法10条前段の要件を満たす契約類型として例示するといった不当条項規制の改正が一部実現したことも、情報通信技術の発達に伴い多発する消費者被害等の予防・救済に資するものとして意義がある。

  しかし、本法は制定時より多岐にわたる項目について見直しの必要性が指摘されながら、施行から15年もの長年にわたり内閣府や消費者庁等に設置された検討会等において十分な調査・検討と議論が積み重ねられてきたにもかかわらず、今回法改正が実現したのはわずか6項目にすぎない。

  今後の検討課題と位置づけられた「勧誘」要件の在り方、不利益事実の不告知、困惑類型の追加、平均的な損害の額の立証責任、条項使用者不利の原則、不当条項規制の更なる追加などの諸項目についても、インターネット取引における消費者被害や高齢者の消費者被害などが後を絶たない現状に照らし、対応を先延ばしすることは到底許されない。

  今回の法改正の附帯決議において、今後の検討課題とされた諸項目につき、今回の改正法成立後遅くとも3年以内に必要な措置を講ずることが要求されていることを踏まえ、内閣府消費者委員会においては、直ちに、あるべき法改正の内容の検討が開始されるべきである。そして、その検討の際には、上記国会の参議院審議において、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)が明言したように、個々の委員に拒否権を与えるような委員会(専門調査会等を含む。)運営は許されず、PIO-NET情報に信頼性があることを前提に立法事実を検証し、消費者被害等の予防・救済に資する法制度を積極的に提言すべきである。また、消費者庁及び国民生活センターにおいても、次の法改正に向けた積極的かつ速やかな取組みが行われるべきである。さらに、上記附帯決議においては、消費者庁、消費者委員会及び国民生活センターの地方移転について、消費者庁所管の法令の運用に重大な影響を与えかねないとして、慎重に検討することが要求されている。地方移転が当該各機関の果たす機能の大幅な低下をもたらすことに鑑みれば、同各機関を地方移転の対象から外すべきである。

      2016年(平成28年)5月25日

京  都  弁  護  士  会

会長  浜  垣  真  也



関連情報