「テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)」法案提出に反対する会長声明(2016年10月21日)
1.本年8月26日、政府が共謀罪について、適用の対象を絞り、構成要件を加えるなどした「テロ等組織犯罪準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案(以下「共謀罪法案」という。)をまとめ、今秋の臨時国会に提出することを検討しているとの報道がなされた。その後、報道によれば、臨時国会への提出は見送られることになったものの、通常国会への提出がありうるとのことである。
2.報道によれば、今回の共謀罪法案は、①適用対象を「組織的犯罪集団=目的が長期4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」と定義し、②「2人以上の計画=共謀」をした場合に、計画(共謀)した者の内の誰かが「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為」を行われた場合に処罰するものとされている。そして、それによって、「居酒屋で上司を殺しちゃおうかなどと意気投合した場合」や「会社において脱税を計画して裏帳簿を作成した場合」は処罰範囲から除外されるとの説明がなされているようである。
3.①の点についていえば、適法な活動を目的とする団体であってもその活動の評価によっては組織的犯罪集団とされてしまう可能性があり、結局は対象となる団体の範囲が不明確である。また②の点についていえば、かかる準備行為は、具体的な結果発生に向けられた行為である必要がないため、単なる預金の引き出しが準備行為とされてしまう恐れもあり、これも処罰範囲を限定する効果を持ちうるのか疑問である。よって、共謀罪法案は、共謀罪のもつ本質的危険性を何ら解消するものとなっていないことが明らかである。
4.共謀罪の摘発を考えた場合、共謀の存在を把握することが重要となり、盗聴(通信傍受)や司法取引という捜査方法によることが容易である。当会の反対にも拘わらず今年5月に成立した改正刑事訴訟法・通信傍受法においては、憲法21条2項の通信の秘密を侵害する盗聴捜査の対象犯罪が拡大され、えん罪の温床を生む捜査訴追協力型司法取引制度が新たに導入されたが、共謀罪法案の制定は、盗聴捜査対象犯罪の更なる拡大、捜査訴追協力型司法取引制度の利用の拡大を招く危険が高い。ひいては、捜査機関による過度の監視社会、密告奨励社会の出現を促進する危険がある。いくら条文を修正して要件を加えたとしても、共謀それ自体を処罰しようとする以上は、このような危険性は何ら変わらない。
5.なお、政府は「テロ対策に必要」「国連越境組織犯罪防止条約締結のために必要」等と説明する。しかし、共謀罪法案は、罪質も様々でテロ対策とは無縁な犯罪類型をも含めてその対象としていることから、その説明とは整合していない。
また、国連越境組織犯罪防止条約は、そもそも越境性のある経済犯罪(例、マフィア犯罪)を対象とするところ、越境性を犯罪構成要件要素としていない共謀罪法案は、条約の期するところを超えて広汎な処罰をもたらす問題点がある。よって、共謀罪法案は同条約締結のためのものとはいえない。
6.当会は、共謀罪法案の提出を懸念し、本年8月17日に「監視社会を招く共謀罪新設に反対する会長声明」を発したが、そこで指摘した問題点はそのまま今回の共謀罪法案にも妥当する。罪質も様々な600以上もの犯罪類型を対象に、その計画・共謀を広く処罰する共謀罪法案は、刑法の大原則である罪刑法定主義・構成要件明確性の原則に反し、広く思想を処罰することにつながるものである。ここに改めて、政府に対して共謀罪法案を国会に提出しないよう求めるとともに、国会が共謀罪法案を可決・制定することに対して断固として反対することを表明する。
2016年(平成28年)10月21日