「40年を超える原子力発電所の運転期間延長認可の取消を求める会長声明」(2016年12月22日)


1  原子力規制委員会は、関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)から運転開始日から40年を超える運転期間延長認可申請のあった原子力発電所につき、本年6月20日、高浜発電所1号機及び2号機、本年11月16日、美浜発電所3号機の運転期間延長をそれぞれ認可した。
  高浜発電所1号機は1974年(昭和49年)11月、同2号機は1975年(昭和50年)11月、美浜発電所3号機は1976年(昭和51年)12月に運転を開始し、いずれも運転期間が運転開始日から40年を超えることとなる。
  2012年(平成24年)6月、原子炉等規制法は、原子力発電所の運転期間を最初の使用前検査合格日から40年に制限し、原子力規制委員会が1回に限り20年を超えない期間の延長を認可することができる旨改正がなされ、高浜発電所が初めての運転延長の認可となる。

2  しかし、上記の高浜発電所1号機及び2号機並びに美浜発電所3号機の運転延長を認可すべきではない。
  当会は、上記法改正前である2012年(平成24年)2月23日、「福井県内に設置された原子力発電所及び原子力施設に関する意見書」に基づき、「既に建設された原子力発電所等のうち、運転開始後30年を経過したものは直ちに、今後運転開始後30年を経過するものは当該期間の経過時に、順次速やかに廃炉とすること」を提言しており、本声明は、基本的には、上記意見書に基づくものであるが、改めてその理由を敷衍する。
  第1に、原子力発電所は、ひとたび過酷事故が起きれば、放射性物質の外部への放出が、長期間・広範囲にわたる甚大な被害を招くことは、2011年(平成23年)3月11日に生じた福島第一原子力発電所の事故が示すところであり、事故が発生した場合の結果の甚大性が、他の一般産業プラントとは全く異なる。原子力発電所は、万が一にも事故を起こしてはならないものであって、他の一般産業プラントと比較して、要求される安全性の信頼レベルは極めて高いものでなければならない。
  第2に、当初予定されていた年数を超えることにより、原子炉の劣化という深刻な問題がある。一般的に、使用年数の経過による機器・設備の劣化(配管・容器・ノズル等の部位の腐食、疲労等)に伴い、安全上のリスクが増大するほか、原子炉の場合は、特に、圧力容器の中性子の照射による脆化(金属がもろくなり、割れる現象)の問題がある。これは、上記意見書でも詳述したとおりであるが、政府も、原子炉等規制法の改正の際、運転期間制限の根拠として、中性子照射脆化の問題を指摘し、また、認可当初において想定されていたと考えられる使用回数も考慮して、40年を超える運転はしないことが原則であると説明している。
  第3に、原子力発電所は、他の一般産業プラントと異なり、放射線被ばくの問題のため、圧力容器を交換することができず、また、検査の際に、「開放点検」を行ってプラント内部の損傷・劣化の状況を目視にて確認することができない。そして、原子炉の検査時には専ら一部についての非破壊検査(超音波探傷試験等、対象を破壊することなく内部の傷や劣化を調べる試験)を行うしかないが、その精度に限界があることが専門家から指摘されており、京都府及び府内自治体の首長からも、今なお、安全性についての懸念が表明されている。
  第4に、福島原発事故の事故原因の解明もいまだなされていない。福島第一原子力発電所の1号機は、事故当時、運転開始から39年、2号機は36年、3号機は35年が経過しており、高経年化した原子炉における事故原因の解明なくして、万全の安全対策は取り得ないはずである。

3  このように、原子力発電所の事故の危険性・甚大性、原子炉の劣化、検査の限界やそれに対する懸念等の事情を踏まえれば、40年を超える原子力発電所について、現在の審査によって、万が一にも事故を起こさない程度の、万全の安全対策が施されているといえるかどうか大いに疑問がある。

4  よって、40年を超える高浜発電所1号機及び2号機並びに美浜発電所3号機の運転延長は認可すべきでなかった。原子力規制委員会は、運転期間の延長認可を取消し、さらに、延長認可基準の抜本的な見直しを行うべきである。

2016年(平成28年)12月22日

京  都  弁  護  士  会

会長  浜  垣  真  也



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