「テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)」法案提出に改めて反対する会長声明(2017年2月15日)


1.当会は、今年度だけでも昨年8月、10月と、二度にわたり、最近では「テロ等組織犯罪準備罪」という名称を冠せられた「共謀罪」法案を国会に提出しないよう求めてきた。しかし、今年に入り、通常国会が始まるや否や、検討されるべき法案の中身を具体的に明らかにされることもないまま、政府は「国際(越境)組織犯罪防止条約…(中略)…の国内担保法を整備し、本条約を締結することができなければ、東京オリンピック・パラリンピックを開けないと言っても過言ではありません。」などという理由で、同法案を今国会に提出・成立させることを表明する事態となっている。

2.報道による限り、今国会に提出される見込みの共謀罪法案の内容は、①適用対象を「組織的犯罪集団」とする、②「2人以上の計画=共謀」をした場合に、計画(共謀)した者の内の誰かが「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為」を行った場合に処罰する、③対象犯罪をこれまでの600以上から300にまで絞る等の内容が予想される。
    しかしながら、①「組織的犯罪集団」の定義が不明であり、適法な団体であってもその活動の評価によって組織的犯罪集団とされてしまう可能性があるうえ、その第一次的な評価を捜査機関(警察)が行うことから、適用対象限定の機能を果たさない。②についても、既存の「予備罪」とは異なり、具体的な結果発生に向けられた行為である必要がないため、単なる預金の引き出しであっても準備行為と判断されてしまう恐れがある。よって、①、②によって処罰範囲を限定する効果はなく、同法案の本質的問題点は何ら解消していない。さらに、③に関しては、「国連越境組織犯罪防止条約の批准のためには長期4年以上の罪をすべて対象にしなければならず、600余りもの犯罪類型をその対象とせざるを得ない。」というこれまでの政府答弁を覆すものであるのに、その整合性が何ら説明されていないという問題点がある。
    「実行行為があって、結果がある。」という従前の犯罪類型とは異なり、人と人の会話内容を捜査機関(警察)が吟味・評価して立件することを予定する共謀罪は、憲法が禁じた内心の自由を国家権力が侵害することを正面から許容することになる犯罪類型なのである。
    その他、これまでの会長声明で指摘したとおり、共謀罪の制定が、通信傍受(盗聴)捜査対象犯罪の更なる拡大、捜査訴追協力型司法取引制度の利用の拡大を招き、捜査機関による過度の監視社会、密告奨励社会の出現を促進する危険があるという問題、国連越境組織犯罪防止条約は、そもそも越境性のある経済犯罪(例、マフィア犯罪)を対象とするところ、越境性を犯罪構成要件要素としていない共謀罪法案は、条約の期するところを超えて広汎な処罰をもたらすという問題も解消されていない。

3.このように、非常に多くの問題点を含む法案であるが故に、国会でも連日審議され、多くの市民から法案に対する懸念の声が上がっているところである。その最中である本年2月6日、この法案の提出元となる法務省の責任者である金田勝年法務大臣が、国会審議の在り方について、報道機関向けに「法案提出後に議論を深めるべきだ」とする見解を文書で発表した。本来、本件のような国政の重要問題については、時期を問わず、国会を含めて国民的な議論がなされてしかるべきである。にもかかわらず、法務大臣が、上記のごとく、国会における議論の時期を法案提出後に限定するかのような文書を配布するのは、国権の最高機関であり国の唯一の立法機関である国会の審議に対して、行政府の都合で制限を加えたに等しい。
    法案の制定過程においてこのような異常事態も発生している今、当会は、改めて共謀罪法案の問題点を広く世論に訴えるとともに、政府に対し、共謀罪法案の提出を行わないことを強く求める。

      2017年(平成29年)2月15日

京  都  弁  護  士  会

会長  浜  垣  真  也

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