「テロ等準備罪」(共謀罪)法案の閣議決定・国会上程に抗議し、廃案を求める会長声明(2017年3月23日)


1.政府は、当会を含む弁護士会その他の強い反対にもかかわらず、2017年(平成29年)年3月21日に「テロ等準備罪」(以下「共謀罪」という。)を新設する法案を閣議決定し、国会に上程した。

2.この法案が新設しようとしている共謀罪は、①「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」の団体の活動として、②「2人以上で計画」した場合に、③計画(共謀)した者の内の誰かが「資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為」を行った場合を処罰する、④対象犯罪は長期4年以上の罪676の内277まで絞る、という内容である。
  しかし、この内容については、以下のような問題点がある。

①  「テロリズム集団その他の」というのは例示列挙でしかなく「組織的犯罪集団」を限定するものとはなり得ない。それゆえ、テロとは無関係な市民の集まりが、捜査機関(警察)の評価次第でテロリズムとは関係なく「組織的犯罪集団」として扱われ、捜査される恐れがある。そもそも、「テロリズム集団」とは何かの明確な定義もなく、如何なる団体が「テロリズム集団」と認定されるのかが不明であり、「テロ等準備罪」という名称自体がミスリードである。

②  「2人以上で計画」した場合は、実質的に合意を言い換えたものに過ぎず、犯罪の成立範囲を限定するものとはならない。

③  この「準備行為」は、既存の「予備罪」よりも手前の段階の行為とされており、具体的な結果発生に向けられた行為である必要がないため、捜査機関(警察)の評価次第で日常生活上の単なる預金の引き出しや散歩が「準備行為」と判断され、捜査対象となる恐れがある。

④  政府は、2005年(平成17年)11月には、質問趣意書に対する答弁書において、「国際組織犯罪防止条約第5条は、『長期4年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪』を行うことを合意することの犯罪化を義務づけているので、組織的な犯罪の共謀罪の対象犯罪について更に限定することは、国際組織犯罪防止条約上できないものと考えている。」として、600以上の罪から限定することはできないという閣議決定をしている。最近でも金田法務大臣は「条約との関係で過不足なく担保する方針である」と答弁していた。それにもにもかかわらず、対象犯罪の絞り込みをしたこととの整合性について何ら説明されていない。更に、絞り込み後も、詐欺破産罪等テロ抑止目的との関係が希薄と考えられるものが依然として対象犯罪に含まれており、如何なる基準で絞り込みをしたのかが不明である。
結局、この法案においても、処罰範囲の広範さや不明確さの問題は解消されないままである。

3.現行刑法の体系では、法益侵害があったものを処罰するのが原則であり、少なくとも法益侵害の危険性のある実行行為の段階に至ってはじめて処罰するのが基本である。実行行為に至らない準備行為の段階では法益侵害の危険性が低いため、一部の重大犯罪についてのみ例外的に予備罪として処罰されるにすぎない。そして、共謀は、その予備罪よりも更に前の段階に位置するのであって、法益侵害の危険性はさらに低い(実際に実行行為に至るのかどうかさえ不明な共謀もある。)。それにもかかわらず、この法案では277もの数の共謀罪が一律に新設されることになる。それゆえ、この法案は、現行刑法の体系を根本から覆し、処罰時期を大幅に前倒しして、過去の行為とその結果ではなく、個人の意思や将来の危険性を処罰するに等しいものと言わなければならない。
  また、本法案には共謀を持ちかけて自分は自首すれば処罰を免れることができるという自首減免規定による一種の密告制度が規定されているほか、共謀罪の捜査には、人と人との会話内容を把握することが必須であるため、通信傍受(盗聴)捜査対象犯罪の更なる拡大、捜査訴追協力型司法取引制度の利用の拡大を招き、さらには室内盗聴やおとり捜査等の新たな捜査手法導入の根拠となることも予想されるなど、捜査機関による監視社会、密告奨励社会の出現を促進する危険がある。

4.この間、新聞等においても共謀罪の問題が継続的に取り上げられ、様々な団体から反対の意見が表明され、世論調査においては、当初「法案賛成」が「法案反対」を上回っていたが、これが逆転する変化が起きている。その変化は、共謀罪のもつ問題性、危険性が市民の間に理解され、テロ対策のために必要という政府の説明に疑念が生じてきたことを表しているというべきである。にもかかわらず、「テロ対策として必要」と述べるばかりで、共謀罪がもつ本質的な危険を覆い隠したまま、与党は本法案を承認し、政府は閣議決定のうえ国会に上程した。
  当会は、かような閣議決定・国会上程に強く抗議し、共謀罪の成立に断固反対し、廃案を求める。

2017年(平成29年)3月23日

京  都  弁  護  士  会

会長  浜  垣  真  也

関連情報