意見書

「公益通報者保護制度の実効性の向上に向けての意見書」(2017年3月24日)


2017年(平成29年)3月23日


消費者庁長官  岡  村  和  美  殿
衆議院議長    大  島  理  森  殿
参議院議長    伊  達  忠  一  殿

京  都  弁  護  士  会

会長  浜  垣  真  也



公益通報者保護制度の実効性の向上に向けての意見書



はじめに
  2016年(平成28年)12月に、消費者庁に設置された公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会による「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会最終報告書」(以下「最終報告書」という。)が公表された。公益通報者保護法(以下「現行法」という。)が施行されて10年が経過するが、様々な偽装事件が長年継続していたことが相次いで発覚するなど、同制度が十分に機能していない現状にある。その背景として、現行法の枠組みの課題が指摘されている。
  よって、当会は、公益通報をしようとする人が安心して通報ができる制度とするための法改正の実現に向けて、次のとおり意見を述べる。

第1  意見の趣旨
消費者庁は、基本的には最終報告書に示された方向性に沿って、法改正に向けた具体的検討を進め、速やかに法改正に着手すべきである。とりわけ、以下の点については、特に重要な項目として検討されるべきである。
1  通報者の範囲及び通報対象事実の範囲を拡大すること
2  通報者に対する不利益取扱いの禁止を明確にし、不利益取扱いを行った事業者に対する行政措置を導入すること
3  事業者及び行政機関への公益通報について、通報者にかかる情報の守秘義務を明確にし、違反に対する行政措置等を導入すること
4  内部通報のための内部資料の持ち出しに対する責任の減免、リニエンシー制度(違法行為に関与したものが自主的に申告した場合に責任を減免する制度)など、公益通報をより容易にするための責任減免制度を新設すること
5  消費者庁が公益通報者保護法の実効性向上に向けて司令塔的役割を果たすために、通報を受けた行政機関が通報に対して適切に対応することを促す制度を導入すること

第2  意見の理由
1  最終報告書が法改正の必要性を確認し、法の目的である通報者の保護を徹底するため、不利益取扱いからの保護・救済や通報にかかる秘密保持の強化を必要としていることは評価できる。しかしながら、最終報告書は多くの箇所で、「更に検討を進める」等としており、法改正の実現に慎重な表現にとどまっている点は問題である。
法施行後も、東芝不正会計事件、東洋ゴム免震ゴム性能偽装事件、三菱自動車燃費偽装事件など事業者等の重大な不祥事が相次いで明らかになっている。しかも、これらは長年にわたって継続されてきたものであって、適切な公益通報制度が構築されていれば防げた可能性も十分にあったと考えられる。今後、こうした不祥事を防止するためにも、通報者が安心して通報できる制度の整備は急務であり、そのために迅速かつ具体的な法改正に着手すべきである。

2  保護されるべき通報者の範囲の拡大
現行法は、保護の対象となる通報者(以下単に「通報者」という。)を労働者に限定しているが、狭きに失する。
この点、最終報告書では、労働者に加えて、退職者、役員、取引先事業者を通報者に含め、通報者の範囲を拡大すべき旨提言しており、当会もその基本的な考え方に賛同する。
退職者については、退職後にはより通報しやすい環境になるものの、損害賠償請求、再就職の妨害、退職金の不支給などの不利益を受けることがある。よって、退職者も保護の対象に加えるべきである。また、退職から通報までの期間は限定すべきでない。
役員も事業者内での違法行為を知りうる立場にある。しかし、役員は、解任等の不利益処分を恐れて公益通報をためらう可能性が高い。よって、かかる事態を回避するため、役員も通報者に含め、法人からの不利益処分を抑制し、保護すべきである。
取引先事業者も不正を直接知りうる立場にあるが、公益通報によって契約の解除や再契約の拒否などを懸念し、通報を躊躇することは想像に難くない。公益のための通報による契約解除等の無効を明記し、公益通報を促すべきである。

3  通報対象事実の範囲の拡大
現行法では、公益通報者保護法による保護の対象を、指定された法律における刑罰で担保されている違法行為に限定している。
しかしながら、会社の不正行為が罰則で担保されているかどうかを通報者において、確認することは容易ではなく、その判断の責任を通報者に負わせることは、通報を委縮させることにつながる。
また、罰則で担保されていない行為であっても、消費者保護や公益の見地から是正されるべき行為は存するのであり、保護対象を罰則のある違法行為に限定するのは狭きに失する。
さらに、現行法は、通報対象事実を消費者保護や環境保全に関する法律に限定しているところ、公益通報者保護の必要性はこれらに限定されるものではなく、広く公益通報を保護する制度についても検討されるべきである。
よって、保護される通報の対象事実は、単に「法律違反行為」として、上記の問題を払拭すべきと考える。

4  公益通報者保護の要件について
(1)通報者に対する不利益な取扱いの拡大と明確化
不利益取扱いの内容については、損害賠償訴訟の提起を追加し、逐条解説やガイドライン等で具体的に記載する等、内容を明確化すべきである。
さらに、訴訟において、公益通報と通報者に対する不利益取扱いとの因果関係についての通報者の立証負担を緩和するのが適当であり、通報後一定期間内に不利益な取扱いがなされた場合は、推定規定を導入するなど、通報者の立証負担を軽減すべきである。
(2)外部通報の要件の緩和
現行法は、事業者外部への通報のうち、行政機関への通報(いわゆる2号通報)についても、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」を通報者保護の要件としている。
しかし、2号通報は、監督権限を有する行政機関への情報提供であり、行政機関に対し調査を求めるものであるから、事業者の正当な利益が侵害されるおそれは少ない。また、行政機関への通報の役割及びその実効性を高めるためには、1号通報と同じ「思料したとき」とし、又は「思料したことが相当である場合」との要件とすべきである。
事業者内部への通報がより活用されるためには、事業者内部への通報への信頼性が高まることが必要である。外部への通報の保護要件を緩和し、通報しやすくすることによって、制度間競争が図られ、内部通報制度の整備が促される。そのためには、行政以外の外部への通報(3号通報)の保護の要件についても、行政機関に通報後、一定期間を経過しても行政機関が対応しない場合、及び、第3条第3号ホに「財産上の被害」を加えるべきである。

5  事業者の不利益取り扱い等に対する行政措置
公益通報者は、自らの利益のためではなく、社会・公共のために通報を行っているのであるから、公益通報者に対する不利益取り扱いの禁止を確実にするための措置が必要である。そのためには、現行法の民事的救済だけでは十分ではない。
この点、最終報告書が指摘する①あっせん、調停、相談、指導助言の制度及び②勧告・公表の制度化に加え、勧告に従わない事業者に対して是正命令が可能となる制度設計とし、勧告・公表制度の実効性を担保すべきである。

6  不利益取り扱いに対する刑事罰の導入
公益通報による事業者からの報復を恐れ、大多数の労働者が通報に踏み切れないでいる現状を改善する必要がある。
そこで、是正命令等の行政措置に加え、是正命令に従わない場合には刑事罰を科すなどして、通報者に対する不利益取り扱いの禁止の趣旨を明確にし、公益通報に対する事業者の取扱いの適正化を図るべきである。
なお、最終報告書は、不利益取り扱いに対する刑事罰を設けることについて「慎重な検討が必要」というに止めているが、かかる姿勢は通報者の保護という観点から不十分である。

7  通報者に関する情報の保護
通報者が安心して通報できるよう、通報の匿名性を担保する措置は不可欠である。そのためには、通報者情報に関する通報先の守秘義務(通報者の同意がある場合を除く。)を、法律上明記する必要がある。
守秘義務免除のためには通報者の同意を要件とし、同意は書面ないしメール等の書面に準ずるものに限るべきであり、明示の同意が得られない場合には、同意のないものと扱うべきである。
また、守秘義務違反に対して、民事責任だけでは不十分であり、行政措置が導入されるべきである。
この点、最終報告書では、行政機関への通報(現行法第3条第2号の通報)について、公務員法上の守秘義務で足りるとして、行政機関の守秘義務に言及していない。しかし、通報者の情報の秘匿は通報者が安心して通報するために不可欠の要件であり、実際に行政機関から漏出した事例が生じていることからも、現行法において、行政機関への通報先として指定された通報先を含め、その守秘義務を明記して実効性を担保することが必要である。
行政機関以外の第三者への通報(現行法第3条第3号の通報)については、通報先に守秘義務を負わせるのではなく、通報者の通報先の選択に委ねることが相当である。

8  公益通報者の責任の減免制度の導入
公益通報によって事業者や行政機関による調査が開始されるためには、何らかの資料が必要となる。その際、通報者に対し、資料の持ち出しについての責任が問われる危険があることが、公益通報を躊躇させる要因となっている。
そこで、社会に有益な通報を促すために、保護されるべき公益通報のための資料の入手行為に関しては、これを理由とする解雇や懲戒処分等の不利益措置、損害賠償請求を受けないよう、責任の減免制度を導入すべきである。

  9  消費者庁の役割
最終報告書の公益通報者保護制度の実効性を向上させるためには、行政機関が公益通報に対してより適切に対応することが重要であり、消費者庁が司令塔的な機能を発揮してこれを促すことが必要との指摘は適切である。消費者庁に一元窓口を設け、受け付けた情報について直接調査をし、当該行政機関に必要な改善要請を行うことを含めた役割を担っていくことが期待され、そのために必要な体制整備を行うべきである。

以  上


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