「福島第一原発事故避難者への抜本的救済策を求める会長声明」(2017年4月4日)


  本年3月17日、前橋地方裁判所が、東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「福島原発事故」という。)による被害の賠償を求める避難者の集団訴訟の中で、初めての判決を言い渡した(なお、同月22日に更正決定が出ている)。
  本判決は、福島原発事故が、配電盤が被水し機能喪失したことによる冷却機能の喪失に起因するものであると認定した。そして、東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)について、「平成14年7月31日から数か月後の時点において、本件原発の敷地地盤面を優に超え、非常用電源設備等の安全設備を浸水させる規模の津波の到来につき、予見することが可能となり、平成20年5月には、実際に予見していた」として予見可能性を認めるとともに、複数の具体的な結果回避措置を挙げ、東京電力がそれらの措置をとることが可能であったとして、結果回避可能性を認めた。また、国について、「遅くとも平成20年3月頃には、上記認定の規制権限を行使して、被告東電において、本件結果回避措置を講じさせるべきであったのであり、また、同月頃に上記認定の規制権限を行使すれば、本件事故を防ぐことは可能であった」として規制権限不行使の違法を認め、原子力損害賠償法における責任集中の規定によって国が免責されることはないとした。
  本判決は、原子力発電に関わる放射性物質によって汚染されていない環境において生活し、放射線被ばくによる健康影響への恐怖や不安にさらされることなく平穏に生活する利益(放射線被ばくへの恐怖不安にさらされない利益)、人格発達権、居住移転の自由及び職業選択の自由並びに内心の静穏な感情を害されない利益を包摂する権利としての平穏生活権を認め、慰謝料請求の一部を認容したものである点及び東京電力のみならず国の責任をも認めたものである点が画期的である。
  しかしながら、慰謝料の認容額は、被害の実情に即した必要かつ十分なものとは到底言えない。その上、福島県が本年3月末をもって避難指示区域外の避難者に対する住宅の無償提供を一方的に打ち切る判断をしたことの影響も重大である。したがって、避難者に対する救済策は今後もなお一層講じられなければならない。
  当会は、本判決が国の責任を認めたことを踏まえ、東京電力及び国等に対し、速やかに被害者に賠償を行うこと、国に対し、住宅の無償提供を継続する新たな立法措置等を含めた避難者に対する十分な補償と救済を行うことを、改めて強く求める。

      2017年(平成29年)4月4日

京  都  弁  護  士  会

会長  木  内  哲  郎
      

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