「特商法政令等改正案について(意見)」(2017年5月16日)


2017年(平成29年)5月16日

消費者庁取引対策課  意見募集担当  御中

〒604-0971  京都市中京区富小路通丸太町下ル

京都弁護士会

会長  木  内  哲  郎


                                                
特商法政令等改正案について(意見)


第1  意見の趣旨
1  事業者が相手方(消費者)に支払のために金融機関等に対して虚偽の申告を行うように唆すこと、相手方の意に反して貸金業者の営業所、銀行の支店その他これらに類する場所に連行すること、個別クレジット契約若しくは金銭の借入契約又は預貯金引出のため、迷惑を覚えさせるような仕方でこれを勧誘すること、を指示対象とすることに賛成する(特定商取引に関する施行規則(以下「省令」という。)7条6号、23条5号、31条9号、39条5号、46条5号)。
2  アポイントメント・セールスにおける来訪要請手段にSNSを新たに追加することに賛成するものの(省令11条の2)、ホームページ等の電子広告を来訪要請手段から除いていることは不十分であり、ホームページ等の電子広告をアポイントメント・セールスにおける来訪要請手段に追加するべきである。
3  美容医療サービスを特定継続的役務提供の対象に追加したこと自体には賛成するが、役務だけでなく、施術方法による限定が加えられている点に反対する(特定商取引に関する施行令(以下「政令」という。)別表第四、省令31条の4)。
4  立入調査等の対象となる「密接関係者」の範囲を販売業者等の親法人等、子法人等及び親法人の子法人等に拡大することに賛成する(政令17条の2、省令58条)。

第2  意見の理由
1  はじめに
  2016年(平成28年)5月25日に国会にて特定商取引法の改正が可決されたこと受けて、当会は「特定商取引法に関する法律の一部を改正する法律」の成立に関する会長声明を発表した。同声明は、⑴  事業者が消費者に支払のために金融機関等に対して虚偽の申告を行うように唆す行為、消費者の求めがない場合等に消費者を金融機関等に連れて行く行為、事業者が消費者に対し、積極的に金銭借入・預金引き出しを勧める行為を指示対象とすること、⑵  アポイントメント・セールス規制の範囲を当初からの不意打ち性が連続している状態での勧誘にも適用されることを明確にすると共に、来訪要請手段としてSNS・電子広告を用いた場合にも同規制が及ぶようにすること、⑶  美容医療契約を特定継続的役務提供と位置付けること、⑷  立入検査の対象となる「密接関連者」の範囲を広げることを内容とする政省令改正を確実に行うことを求めることを内容としている。
今般、改正特定商取引法の施行等にむけて政省令の改正案について意見募集(パブリックコメント)に付されたので、当会として意見を述べるものである。

2  指示対象行為の拡大(意見の趣旨第1項)
  指示対象行為の拡大については、概ね上記会長声明で指摘した内容となっており賛成する。また、以下の点から見ても、指示対象の拡大は行わなければならない。
事業者が相手方に支払のために金融機関等に対して虚偽の申告を行うように唆す行為は、金融機関等に対する違法行為を教唆することに他ならない。
  また、相手方の意に反して、事業者が相手方を金融機関等に連行することは、相手方の自由で主体的な意思決定を阻害し、不本意な契約によって高額の被害を生じさせるものである。
特定商取引法は、不意打ち型勧誘や利益収受型取引について、「顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行うこと」(適合性の原則)を指示対象行為として規定している(省令7条3号等)。金銭の貸付契約又は預貯金引出のため、迷惑を覚えさせるような仕方でこれを勧誘することといった、相手方の支払能力を配慮しない勧誘は適合性の原則に違反するものであり、相手方の支払能力を超えた深刻な消費者被害を招くものである。

3  アポイントメント・セールスにおける来訪要請手段の追加(意見の趣旨第2項)
  2015年(平成27年)12月に取りまとめられた特定商取引法専門調査会の報告書では、「SNS・電子広告といった来訪要請手段についても規制の対象となる来訪要請手段の外延を明確にしつつ規制が及ぶようにすべきである。」とされていた。ところが、「その受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信を送信する方法」としてSNSによる来訪要請が追加されたものの(省令11条の2第3号)、ホームページ等の電子広告が来訪要請手段に追加されていない。
  この点、2009年度(平成21年度)から2013年度(平成25年度)までの電子広告による来訪要請に関する相談件数は、合計403件であり、SNSの466件と大きな差はない。
実質的に考えても、来訪要請の不意打ち性は、目的を告げないで来訪を要請することによる文面等の記載内容に起因するものであり、不意に送付したか否かの問題ではなく、SNSと電子広告を区別する合理的な理由はない。
また、消費者の過去の行動履歴をもとに表示されるターゲティング広告など、消費者の意思に沿わずに一方的に表示される電子広告が存在することに鑑みても、電子広告をSNSと区別する理由はない。
したがって、特定商取引法専門調査会報告書に取りまとめられたようにSNSだけを新たに来訪要請手段として追加するだけでは不十分であり、ホームページ等の電子広告も来訪要請手段として追加するべきである。

4  特定継続的役務提供の対象への美容医療サービスの追加(意見の趣旨第3項)
⑴  特定継続的役務提供の対象へ美容医療サービスを追加したこと自体には賛成する。想定される代替案には、事業者又は業界団体による自主規制の強化が考えられるが、美容医療に関する業界団体に参加しない医師には効果がない。その上、美容医療に関する業界団体は複数あり、参加率も低く、効果的な自主規制は期待できない。
⑵  政省令改正案では、適用対象となる美容医療サービスについて、役務の内容だけでなく、施術方法を列挙する限定が加えられているが、かかる限定には反対する。
特定商取引法専門調査会の報告書では役務の列挙による限定は指摘されているものの、施術方法による限定については言及されていない。
  また、適用対象が消費者にとって明確とならなければ、消費者による適切な権利行使が期待できない。この点、施術方法による限定を加えた場合、医学的知識を持たない消費者において特定商取引法の適用の有無が判断できない可能性が高い。まして、国民生活センターの報道発表資料などで、インフォームドコンセントが不十分であるということが指摘されていることからすれば、かかる懸念は一層大きいものといえる。
  さらに、施術方法の選択はその性質上、消費者と事業者の知識の差が大きいことから事業者側の裁量が大きく、事業者が規制を潜脱する形で施術を行う可能性も十分に考えられる。
  美容医療サービス美容医療サービスに関する消費者相談の件数は、2014年度(平成26年度)で2,377件となっている。美容医療サービスは、契約者のコンプレックスにより施術を受けるケースが多く、消費者相談に至らない件数は通常よりも多いと予想される。また、美容医療に契約購入金額の平均契約金額は2015年(平成27年)時点で70万8,428円と高額である。
  このような事情に鑑みれば、美容医療の適用対象について施術方法を列挙する限定を加えたことには反対であり、役務の列挙による限定にとどめ、特定商取引法の適用対象とするべきである。

5  「密接関係者」の拡大(意見の趣旨第4項)
  近年、親子法人等を複数設立して業務運営を分散化する事例が増えており、悪質業者の実態解明は困難になっている。「密接関係者」の範囲を販売業者等の親子法人及び親法人の子法人等の関連法人に拡大することで、適切に事実を明らかにし、迅速かつ効果的な行政処分を行うことを可能となる。

以  上


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