『「テロ等準備罪」(共謀罪)法案の成立に強く抗議し、同法の廃止を求める会長声明』(2017年6月15日)


  本日、衆議院に引き続き、「良識の府」ともいわれる参議院においてまでも、十分な審議が尽くされないまま共謀罪法案が強行可決されたことに対し、当会は以下のとおり強く抗議する。
  共謀罪法案は「テロ等準備罪」という名前を冠してはいるが、その実態は、これまでの当会会長声明で指摘してきたとおり、「共謀罪」に他ならない。
  本年1月からの通常国会における共謀罪法案の審議を通じて、テロ対策とは名ばかりであること、この法案の制定が国連越境組織犯罪防止条約の要請に基づくものとはいえないこと等が明らかとなった。そしてさらには、捜査機関が「組織的犯罪集団」と判断しさえすれば、いかなる市民の集まりであってもそこでなされる会話等が捜査機関の監視の対象となり、逮捕、捜索・差押えという強制捜査が可能となることまで明らかとなった。
  参議院の審議では、「組織的犯罪集団」の周辺者までが捜査・適用対象となるという答弁等がなされ、適用対象の明確性に対する疑念がさらに強められた。また、国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏により、プライバシー保護や刑罰法規の明確性の原則との関係で同法案は問題がある、との警鐘が鳴らされた。
  このように数多の問題があり、かつ、十分な議論がなされていない状況下で、採決を行うことは許されない。「特に必要があるとき」(国会法56条の3第1項)という要件が存しないにもかかわらず「中間報告」を強行し、「議院が特に緊急を要すると認めたとき」(同条第2項)という要件が存しないにもかかわらず本会議での審議に付したという今回の経緯は、異常というほかない。これでは、中間報告があった案件について、委員会での審議に代わって「議院の会議において審議」した(国会法56条の3第2項)とも到底認められない。振り返っても、衆議院法務委員会では30時間しか、参議院法務委員会ではわずか17時間50分しか審議がなされていない。全体として、本国会での採決手続には重大な違法の疑いがあるというべきであり、このような民主主義の根幹を揺るがすやり方に対して、断固として抗議する。
  当会は、共謀罪法案の廃案を求める街頭宣伝活動を継続して行いつつ、本年6月1日には221名の賛同所属会員とともに、京都新聞に同法案に反対する意見広告を掲載するなどして、広く市民の方々に向けて同法案の危険性を訴えてきた。
  当会は、日本国憲法12条前段の「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と規定されていることを重く受け止め、今回の参議院における可決に対し、強く抗議する。そして、同法の廃止を目指して市民とともにあらゆる行動に取り組むこと、万が一、同法の適用事例が発生した場合には当会と所属会員は全力をあげて同法が憲法違反であることを明らかにし、市民の権利を擁護する決意であることを、ここに表明する。

      2017年(平成29年)6月15日

京  都  弁  護  士  会

会長  木  内  哲  郎
    

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