「消費者契約法専門調査会報告書に関する会長声明」(2017年8月17日)


  内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会(以下「専門調査会」という。)は、2017年(平成29年)8月4日、「消費者契約法専門調査会報告書」(以下「本報告書」という。)を取りまとめた。今後、本報告書を踏まえて、法改正の立案及び国会の審議が行われることと思われる。
  当会は、本報告書取りまとめに先立ち、同年6月23日付け「消費者契約法改正を求める意見書」(以下「当会意見書」という。)により意見を述べたところであるが、本報告書において、不利益事実の不告知、心理的負担を抱かせる言動等による困惑類型の追加、「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方、不当条項の類型の追加、条項使用者不利の原則及び消費者に対する配慮に努める義務という各論点について、十分とはいえないながらも法改正の方向性が具体的に示されたことは一定程度評価できる。
  これらの論点については、本報告書で示された方向性で確実かつ速やかに法改正が行われるべきであり、今後の課題とされた点については引き続き検討をした上で、できる限り早く法改正が行われるべきである。
  他方、合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型という論点については、いずれも事業者の一定の行為があることを要件としており、当会意見書で提案した判断能力が低下している状態で合理的な判断をすることができない事情につけ込んで契約を締結させる類型については対応がなされておらず、極めて不十分であると言わざるを得ない。この点、専門調査会において、「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者の年齢又は障害による判断力の不足に乗じて、当該消費者の生活に不必要な商品・役務を目的とする契約や当該消費者に過大な不利益をもたらす契約の勧誘を行い、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる」等といった規定を設けることについての当否が議論され、このような規定を設けることに賛成する意見も存在したが、コンセンサスを得るには至らず、重要な課題として、今後も検討を進めて行くことが適当であるとされた。
  しかしながら、専門調査会が設置される契機となった内閣総理大臣からの諮問でも「高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応」の観点からの検討が求められているところ、我が国の高齢化率は上昇を続けており、世界のどの国も経験したことのない超高齢化社会が到来しており、2050年には高齢化率は約4割に達するとの推計もある(国土交通省「国土のグランドデザイン2050」)。また、民法の成年年齢引下げについては、新法務大臣が改正案を今秋の臨時国会にも提出したい旨述べるなど具体的に検討されている。このような状況からすれば、もはや時間的猶予はない課題である。
  したがって、かかる論点については、今後の法改正の立案及び国会の審議において、上記規定のような判断能力が低下している状態で合理的な判断をすることができない事情につけ込んで契約を締結させる類型の取消権を認める規定も設けられることを強く求める。

2017年(平成29年)8月17日

京  都  弁  護  士会

会長  木  内  哲  郎
    

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