「死刑事件に関する適正手続の保障と死刑判決の執行停止を求める会長声明」(2017年12月20日)


  政府は、2017年7月13日に大阪拘置所において1人、広島拘置所において1人の合わせて2人、同年12月19日に東京拘置所において2人、相次いで死刑を執行した。

1  大阪拘置所及び東京拘置所における執行
  この執行対象者らは、再審請求中であったにもかかわらず死刑が執行された。再審請求中の死刑確定者に対する死刑執行は、1999年12月の執行以降、17年半もの間、運用上回避され続けてきた。にもかかわらず、今回、再審請求中であった者に対して続けて死刑執行がなされたことは、今後は再審請求中であっても死刑執行をするという国の考え方の現れとも見える。
  当会は、2014年7月24日に国際人権(自由権)規約委員会が、同規約の実施状況に関する第6回日本政府報告書に対する総括所見を発表したことを受けて、2015年3月26日に、死刑に関する情報を広く公開し、死刑制度についての議論を活発化させた上で、国際社会からの勧告に対して責任をもって答えるよう求める会長声明(「死刑に関する情報公開と議論の活発化を求める会長声明」)を発した。その総括所見では、「(d)死刑事例における再審あるいは恩赦の請求に執行停止効果を持たせつつ、義務的かつ実効的な再審査制度を創設すること」と勧告されている。今回、再審請求中であるにもかかわらず続けて死刑を執行したことは、この勧告内容にも正面から反するものである。
  そもそも、刑事訴訟法は、有罪判決を受けた者に対して再審を請求する権利を認めている。しかしながら、ひとたび死刑が執行されてしまえば、死刑確定者自身はもはや再審請求をすることができなくなり、たとえその遺族が再審請求をすることができたとしても、執行によって奪われた生命を取り戻すことができない以上、再審請求による利益は失われてしまうこととなる。
  また、これまで、様々な再審請求事件を通じて、確定した死刑判決が誤りであった事例が明らかとなっており、とりわけ再審請求中の死刑執行には問題が多い。この事例に関する死刑判決についても、絶対に誤りがなかったとは誰にも言えない。

2  広島拘置所における執行
  この執行対象者は、裁判員裁判により死刑判決を受けた死刑確定者としては、2016年11月11日の執行に続く3例目として死刑を執行された。その判断は、従来であれば、いわゆる永山基準に照らして死刑が選択されたかどうか自体に議論の余地がある。しかも、弁護人が行った控訴を本人が取り下げることによって第一審の死刑判決がそのまま確定しており、自由権規約委員会による、義務的かつ実効的な再審査制度を創設することを勧告した上記総括所見に照らして、法的に再検討される機会が失われたまま執行されたという点でも問題がある。
  当会では、2011年12月12日に「裁判員制度が司法制度の基盤としての役割を十全に果たすことができるようにするための提言」を発表し、その中では上訴に関する提言として「⑬死刑判決に対しては必要的に上訴されるものとする」ことを提言している。
  これは、死刑は人の生命という究極の人権を侵害する刑罰であり、誤判の場合には取り返しがつかず、また仮に誤判のおそれがない場合であったとしても、死刑の適用が真にやむをえないものであるのか否かは極めて慎重に判断されなければならないことを踏まえ、死刑判決がなされた場合には、被告人に上訴意思がない場合であったとしても、国の責任において、必ず上訴審の裁判官が下級審における判断に誤りがないかを再度見極めることとするべきであるとしたものである。
  これまで、従来の量刑基準を超えて下された死刑判決の多くが控訴審において量刑不当で破棄され無期懲役に減刑されている。もし、必要的上訴制度が実現していたならば、この事例に関する死刑判決も控訴審ないし上告審で見直された可能性が高い。

3  まとめ
  大阪拘置所及び東京拘置所の事例は再審請求に執行停止効果がない、広島拘置所の事例は死刑判決に対して必要的上訴制度がない、という死刑を刑罰として許容する国の刑事司法制度としては極めて不十分な手続きであるためになされた執行である。
  当会は、政府に対し、
  ①  再審請求に死刑の執行停止の効果を持たせつつ、義務的かつ実効的な再審査制度を創設すること、死刑判決については必要的に上訴されるものとすることによって死刑事件に関する適正手続きの保障を十全なものとすることを求め、
  ②  死刑に関する情報を広く公開し、死刑制度についての議論を活発化させた上で、国際社会からの勧告に対して責任をもって答えるよう、
改めて求めるものである。
  そして、これらの制度改革等を何ら検討することもなく、また、死刑に関する情報を広く公開することもなくなされた今回の4人の死刑執行に対して抗議するとともに、それらが実現するまでの間、死刑の執行を停止することを求める。

      2017年(平成29年)12月20日

京  都  弁  護  士  会

会長  木  内  哲  郎
  

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