大崎事件第三次請求即時抗告審決定に関する会長声明(2018年3月12日)


  本日、福岡高等裁判所宮崎支部は、いわゆる大崎事件第三次再審請求審の即時抗告審において、検察官による即時抗告を棄却し、昨年6月28日付再審開始決定を維持する決定(以下「本決定」という。)をした。
  本件は、1979年に請求人が親族と共謀して被害者を殺害し、死体を遺棄したとの嫌疑により起訴された事件であるが、犯行を裏付ける客観的証拠はなく、共犯者とされた親族の供述を主な証拠として、懲役10年の有罪判決が確定した。
  逮捕以来一貫して無罪を主張していた請求人は、1995年に第一次再審請求を行い、鹿児島地方裁判所は2002年3月26日に再審開始を決定した。しかし、検察官の即時抗告により即時抗告審において再審開始決定は取り消され、特別抗告審において取消が確定した。続く第二次再審請求審では、新証拠である供述心理鑑定によって、有罪の根拠となった「共犯者」とされた親族の供述の信用性が減殺されたことが認められたが、再審請求は棄却され、即時抗告審・特別抗告審でも棄却決定が維持された。
  今般の第三次再審請求審では、新たな法医学鑑定と供述心理鑑定によって、確定判決が認定した共謀も殺害行為も死体遺棄もなかった疑いを否定できないとされ、二度目となる再審開始決定がなされた。しかし、またも検察官が即時抗告を行い、今日に至るまで再審公判が開始されるに至っていない。
  利益再審のみを認める現行法の再審手続は、無辜の救済を制度趣旨とすることは明らかである。かかる趣旨を持つ手続において、再審請求権者の筆頭に位置づけられている検察官は、有罪を追求する訴追者ではなく、無辜の救済のための審理に協力する公益の代表者として振る舞うことが期待される。しかし、本事件においては、有罪判決を支えた証拠の証明力に疑いが生じ、二度の再審開始決定を経ているにも関わらず、度重なる検察官の抗告により、最初の再審開始決定から16年が経過した今日も再審公判は開始されず、既に請求人は90歳の高齢に達している。検察官が、本決定に対して特別抗告に及ぶことがあれば、再審公判開始までに、請求人の生命維持すら危ぶまれる状況である。
  本件の他にも、再審開始決定がなされていながら、検察官の抗告により再審公判が開始されないまま請求人が89歳で死亡した名張事件、現在も即時抗告審係属中で請求人が81歳に達している袴田事件など、速やかな再審公判の開始がなされず、人道上も刑事手続上も重大な疑念が生じている事件が存在する。
  検察官は、本件の二度にわたる再審開始決定と本日の棄却決定の意義を重く受け止め、いたずらに再審請求手続を長引かせることなく、公益の代表者として、再審公判における公正な審理を実現することに努めるべきである。
  よって、当会は、適正な刑事手続の保障を希求する立場から、検察官に対し、本決定に対して特別抗告を行わず、再審開始決定を速やかに確定させるよう求めるものである。

2018年(平成30年)3月12日


京都弁護士会                          

  
会長  木  内  哲  郎            


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