「高度プロフェッショナル制度創設の法案提出に反対する会長声明」(2018年3月27日)


  政府は、2018年通常国会に、企画業務型裁量労働制の拡大や特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設を含む「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」の提出を予定していたところ、2018年2月28日、企画業務型裁量労働制の拡大については、2018年通常国会に法案提出しないと発表した。他方、高度プロフェッショナル制度創設については、依然法案提出予定であると述べている。高度プロフェッショナル制度とは、適用対象業務に従事し年収も高いなどの要件を満たした労働者について労働時間規制の適用除外とする制度である。
  企画業務型裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度の創設は、2015年通常国会に提出された労働基準法改正案にも盛り込まれていたものの、実質審議が行われないまま廃案となったものである。政府は、企画業務型裁量労働制の拡大について、2015年通常国会以来、「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く者の労働時間の長さは、平均的な者で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」との説明により正当化してきた。しかし、2018年通常国会においては、政府は、このデータが不正確なものであるとして、答弁を撤回し、企画業務型裁量労働制の拡大について法案から削除するに至っている。
  高度プロフェッショナル制度においても、そのモデルとされているアメリカの「ホワイトカラー・エグゼンプション」では、アメリカ連邦会計検査院(GAO)の連邦議会への1999年報告書によると、エグゼンプト労働者(労働時間規制対象外の労働者)はノン・エグゼンプト労働者よりも長時間労働を行っている者の割合が顕著に高くなっていることが明らかとなっている(GAO “White-Collar Exemption in the modern work place”,1999,figure 4)。政府は、この制度を「時間ではなく成果で評価する働き方」と述べるが、現行法でも成果で評価される賃金体系を契約内容とすることは可能である。企画業務型裁量労働制の拡大と同様、労働時間規制を全面的に排斥する高度プロフェッショナル制度を創設する立法事実、正当化根拠は、極めて疑わしい。
  当会は、2015年6月24日付「労働時間規制の緩和に反対する会長声明」において、2015年に法案提出された労働基準法改正案について、①政府は高度プロフェッショナル制度について「成果型労働」と説明しながら、法案には「成果で評価される働き方」を確保するための制度は全く盛り込まれておらず、実際には適用対象労働者が労働時間管理・規制の対象外となる旨しか規定されていないこと、②労働時間規制の適用をすべて除外すれば、長時間労働に歯止めをかけることが著しく困難となること、③適用範囲が抽象的で拡大のおそれが高く、またひとたび導入されれば、年収要件が引き下げられ適用対象労働者が拡大していくことが強く懸念されること、④健康・福祉確保措置は長時間労働の歯止めとしてはあまりに緩やかであり、また、労働者が同意を拒否することも現実的には難しいと考えられることから、高度プロフェッショナル制度創設に反対する意見を述べている。これらの問題点は、現在提出されようとしている法案においても解消されていない。
  当会は、高度プロフェッショナル制度の危険性を改めて指摘するとともに、政府に対し、同制度を創設する法案を国会に提出しないことを求める。

      2018年(平成30年)3月27日

京  都  弁  護  士  会

会長  木  内  哲  郎
    

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