「消費者契約法の一部を改正する法律案に関する会長声明」(2018年3月27日)
1 2018年(平成30年)3月2日、「消費者契約法の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」という。)が閣議決定された。本改正案に先立ち、2017年(平成29年)8月8日、内閣府消費者委員会から内閣総理大臣に消費者契約法の規律の在り方についての答申(以下「本答申」という。)が出されている。当会は、2017年(平成29年)6月22日付け消費者契約法の改正を求める意見書、同年8月17日付け消費者契約法専門調査会報告書に関する会長声明により意見を述べてきたところ、本改正案は、意思表示の取消しの対象となる困惑類型や無効となる不当条項を新たに追加する点では、評価できるものである。
2 しかしながら、本改正案では、意思表示の取消しの対象となる困惑類型が追加されることとなったものの、本答申にはなかった消費者の「社会生活上の経験が乏しいことから」という文言が加えられている。このような文言が加えられたことによって、救済の対象が若年者を中心とした消費者に限られてしまうというような誤った解釈がとられ、高齢者の被害に対応できなくなってしまうことが懸念される。
したがって、本改正案の審議において、「社会生活上の経験が乏しいことから」との文言を削除するか、あるいは「又は判断力の不足から」との文言を加え、高齢者も救済可能な規律であるということを明確にすべきである。
3 また、本答申では、消費者契約法9条1号の「平均的な損害の額」について消費者の立証責任の負担を軽減するための推定規定の導入が提言されていたところ、本改正案にはこの推定規定が含まれていない。この推定規定の導入は、「平均的な損害の額」の主張立証責任は消費者側が負うとする最高裁判決がある中で、立証のために必要な資料を事業者側が保有していることが一般であることを踏まえて提案されたもので、9条1号の規律を実効化するためには必要不可欠のものである。この推定規定を立法化しなければ本答申の趣旨を大きく損なう。
したがって、この推定規定の導入は速やかに行われる必要があるものであり、本改正案で導入することができない課題があるのだとすれば、その課題を明らかにし、直ちに必要な検討を開始すべきである。
なお、9条1号に関しては、そのほかにも、事業者による根拠資料の提出を制度的に促す規律や、「解除に伴う」要件の在り方など、論点が多数積み残されており、これらについても速やかな検討を行い、法改正を実現することが求められる。
4 さらに、本答申では、早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題として、高齢者や若年成人、障害者などの判断力の不足を不当に利用して過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合における取消権についての付言がなされていたが、本改正案ではこのような取消権も立法化されなかった。判断力の不足を不当に利用する勧誘は最も典型的な高齢消費者被害であり、救済の必要性がきわめて高い。また、民法の成年年齢の引き下げの法改正がされようとしており、若年者の被害救済への対応の必要性も増しているが、若年者にとっても、判断力の不足を不当に利用した勧誘は典型的な被害であり、やはりその救済の必要性がきわめて高いものである。
したがって、限られた場面ではなく、判断力の不足を不当に利用して過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合を広く救済することができる取消権を、消費者契約法の規律として直ちに導入すべきである。
2018年(平成30年)3月27日