意見書

「建築基準法6条1項4号所定の建築物に対する法規制の是正を求める意見書」(2018年2月22日)


2018年(平成30年)2月22日

内閣総理大臣  安  倍  晋  三  殿
国土交通大臣  石  井  啓  一  殿
衆議院議長    大  島  理  森  殿
参議院議長    伊  達  忠  一  殿
京  都  弁  護  士  会

会長  木  内  哲  郎



建築基準法6条1項4号所定の建築物に対する法規制の是正を求める意見書



第1  意見の趣旨
  建築基準法6条1項4号所定の建築物(以下「4号建築物」という。)に関する安全性を確保するために、建築基準法令を以下のとおり改正すべきである。
1  建築基準法20条1項4号を改正して同号イに定める方法をなくし、4号建築物についても、それ以外の建築物と同様に、常に構造計算を行うべきことを法的に義務づけるべきである。
2  仮に、同法20条1項4号イに定める方法を残すのであれば、4号建築物に適用される仕様規定(同法施行令36条3項に基づき適用される36条から80条の3までの規定)により定めている技術的基準を全面的に見直し、構造計算を行った場合と同等以上の構造安全性を確保できるように、①要求値の見直し(例えば、垂直剛性を確保するため施行令46条4項による壁量計算の見直し等)、②建築物に応じた仕様を要求する技術的基準への改正(例えば、水平剛性を確保するため施行令46条3項において住宅品質確保促進法の規定に準ずる床倍率計算の導入等)、③欠如している技術的基準の追加(例えば、壁直下率・柱直下率、梁断面性状等に関する規定の新設)を行うべきである。
3  手続面において、建築基準法6条の4第1項3号及び7条の5を改正して、4号建築物についても、建築確認手続及び中間検査・完了検査手続において例外なく構造安全性の審査及び検査を行うものとし、そのために建築確認申請時に構造関係図書の添付を義務づけるべきである。

第2  意見の理由
1  はじめに ― 欠陥住宅被害が頻発する現状
  住宅は、最も根本的な生活基盤であり、居住者や訪問者等が生命、身体及び財産を預けるにふさわしい安全性その他の品質・性能を備えていなければならない(最判平成19年7月6日民集61巻5号1769頁参照)。
  そこで、建築基準法令は、建築物に関する「最低の基準」を定め、「国民の生命、健康及び財産の保護を図」ることを目的としている(建築基準法1条)。
  ところが、このような最低限の安全性すら備えていない欠陥住宅が、いまだに社会に多数存在しており、且つ、日々生み出されているという現実がある。
  このような欠陥住宅が生み出される要因には種々のものが考えられるが、その1つとして、建築基準法令による規制自体の不十分さがある。とりわけ、戸建住宅のような小規模な建築物に対する極めて不十分な法規制のあり方が、地震等に脆弱な欠陥住宅を生み出す素地になっている。
  そして、建築基準法(以下「法」という。)が制定された昭和25年当時や新耐震基準が導入された昭和55年改正当時には余裕のある敷地に比較的単純な建物プランニングが為されるのが通常であったのに対し、近年では、意匠・デザインを重視する設計者により、限られた敷地において奇抜で不整形な建物が設計される傾向が強いことに加えて、消費者自身の生活スタイルも大きく変化してきており、明るく広いLDKや大きな吹抜等による大空間が好まれる傾向にある。このような中、柱・壁や床面といった重要な耐力要素をできる限り減少させようとするプランニングが主流となっている。その結果、従前であれば、仕様規定上は直接評価されなくとも耐震性等において余力として機能していた耐力要素(例えば、施行令46条4項の壁量計算では評価されない袖壁、垂れ壁、腰壁等)が排除されてゆき、余力の殆どないギリギリの設計がなされるようになっているのである。
2  4号建築物に対する現行法の特例的取扱
(1) 4号建築物とは、①木造の2階建又は平家建の建築物、②鉄筋コンクリート造又は鉄骨造の平家建の建築物を指し、わが国における小規模な戸建住宅の大多数がこのカテゴリーに含まれることになる。
  この4号建築物は、それ以外の建築物と異なり、現行の建築基準法令上、次のような特例的な取扱がなされている。
(2) 第1に、実体的な特例として、構造計算の免除が認められている。
すなわち、法20条1項は、「建築物は、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして、次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める基準に適合するものでなければならない。」として、建築物の規模ごとに構造安全性を確保するための基準を定めている。
そして、4号建築物以外の建築物は、すべて建築基準法施行令(以下「令」という。)81条以下に規定されている構造計算(以下「構造計算」という。)を行うことが義務づけられている。
これに対し、4号建築物については、法20条1項4号において、構造計算を行うルートも定められているものの(法20条1項4号ロ)、これと並列して選択的に、令36条から80条の3までの規定(以下「仕様規定」という。)に適合すれば構造計算を免除されるルートが認められている(法20条1項4号イ、令36条3項)。
(3) 第2に、手続的な特例として、建築確認・検査手続における構造審査の免除ないし省略が認められている(いわゆる「4号特例」)。
すなわち、4号建築物以外の建築物は、建築確認手続及び中間・完了検査において、建築確認検査機関によって法適合性の審査及び検査が義務づけられている(法6条、6条の2、7条~7条の4)。
これに対し、4号建築物については、①「建築士の設計に係るもの」である場合、建築確認手続において構造安全性の審査が省略され(法6条の4第1項3号)、また、②「建築士である工事監理者によつて設計図書のとおりに実施されたことが確認されたもの」である場合、中間検査及び完了検査手続において構造安全性の検査が省略される(法7条の5)。
その結果、4号建築物については、確認申請書に構造関係の設計図書(軸組図、伏図等)を添付しなくともよい。
3  4号建築物における規制の不十分さと欠陥住宅被害の実態
(1) 以上のような4号建築物に対する建築基準法令の特例的取扱は、戸建住宅における欠陥住宅被害、特に生命、身体及び財産に深刻な被害をもたらす構造欠陥の被害が生み出される温床になっている。
(2) まず、法20条1項4号イによって適用される仕様規定が、構造計算を行った場合に比べて不十分であるため、形式的に仕様規定を充たしただけでは建築基準法令の要求する耐震性能を必ずしも確保できないことが指摘されている。
とりわけ、木造在来軸組工法の建築物に関する仕様規定については、次の各観点から見て、構造安全性に関する技術基準として著しく不十分であり、「最低の基準」として十分条件たり得ていないにもかかわらず、それらを充たせば耐震安全性に問題はないとの誤解を設計者等に与えかねない内容となっている。
ア  規定水準についての不十分さ
例えば、令46条4項は、垂直構面の剛性に関して耐力壁の簡易な計算(壁量計算)を規定しているが、同計算結果は、許容応力度計算によって要求される壁量の約6~7割程度の水準にとどまっている(2017年4月8日の日弁連主催シンポジウム『木造戸建住宅の耐震性は十分か?-熊本地震を契機として4号建築物の耐震基準を考える-』資料集52頁の金箱温春工学院大学建築学部特別専任教授提供資料「許容応力度計算を行うと、46条壁量の1.5倍以上は必要となる」、同資料集66頁の大橋好光東京都市大学工学部建築学科教授提供資料「壁量設計で実現できる耐力は、構造計算で必要な耐力の3/4以下しかない」等参照)。
イ  規定形式についての不十分さ
例えば、令46条3項は、水平構面の剛性に関して火打梁等の設置を求めているが、建築物の規模・形状等に応じた仕様を要求する内容になっていない。
ウ  規定項目についての不十分さ
例えば、①梁の断面に関して、柱や筋かいのような断面寸法に関する規定(令43条、45条)が設けられていない、②平面プランに狭窄部がある場合に、狭窄部で分割して部分ごとに壁量等の構造検討を行うこと(ゾーニング)を要求する規定が設けられていない、③耐力壁や柱の上下階における一致割合(壁直下率・柱直下率)に関する規定が設けられていない、など、構造計算をする際には検討されるべき項目について、仕様規定が不足している。
(3) また、4号建築物については、建築確認・検査手続において構造安全性の審査・検査が免除されているため、確認申請書に構造関係の設計図書(軸組図、伏図等の構造図面)を添付しなくともよい。
その結果、建築士が設計・監理に関与した4号建築物については、構造安全性について公的なチェックを受ける機会もなく、たとえ構造図面を作成していなくとも建築が可能になるため、それが建築構造に習熟していない意匠設計者の場合、平面図・立面図等のみを作成して建築木材製材業者(プレカット業者)にプレカット材を発注し、プレカット業者が作成するプレカット図面(施工図の一種で設計図書ではない)を構造図に代替させているなどといった事態が横行している。
(4) 以上のような不十分な法規制のもと、4号建築物において、法20条1項イによる仕様規定のルートを選択した場合、仕様規定を形式的に充足しただけでは、法令が要求する構造安全性を確保できないことが少なからずある。
特に意匠重視の設計者は、前述のように、大きな開口部や広い居室空間等といった垂直構面の耐力要素を仕様規定の極限まで減少させるプランニングをする傾向が強く、同時に、大きな吹抜やスキップフロア等といった水平構面の耐力要素も減少させるなど、構造安全性に配慮のない設計をするため、構造計算をすればエラー(NG)の結果が出る欠陥住宅が数多く存在している。
その実態は、例えば、以下のような実例からも垣間見ることができる。
ア  まず、平成24年、関東・東海地方をエリアとするプレカット工場で加工された物件から、2階建て木造軸組住宅の4号建築物に限り、無作為に100件を対象として、プレカット工場に渡された図面とプレカット伏図をもとに構造計算(許容応力度計算)を試みた結果、100件すべてにおいてエラー(NG)の結果が出たという調査報告がなされている(「プレカットを用いた木造軸組住宅(四号建築物)に関する研究 その4-許容応力度計算による結果-」日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)2012年9月)。
これは、仕様規定を充たすだけでは最低限の安全性を確保できないということを示す結果である。
イ  次に、岩手県は、10件以上の4号建築物につき壁量不足等の建築基準法違反が発覚したため、設計をした建築士について免許取消処分としたうえ、平成24年3月から平成26年9月までの期間は4号建築物の建築確認検査に際して構造計算書を提出するよう要請する取扱を行っていた(『日経ホームビルダー2016年2月号』14頁)。
これは、上記4号特例によっては必ずしも安全性を十分に確保できないことを示している。
ウ  さらに平成28年、国土交通省国土技術政策総合研究所等による熊本地震における建物被害の調査分析において、新耐震導入以降で倒壊した木造建築物77棟について被害要因分析を行った結果、73棟において現行規定の仕様となっていない接合部が確認できたとの報告がなされている(国土交通省住宅局『「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント』6頁)。
このように現行の仕様規定すら充たしていない要因としては、上記4号特例による構造審査・検査の省略を背景に、施工不良に対する監理懈怠があったものと思われる。構造審査・検査が現に行われていれば、それを前提に適切な監督が行われ、仕様規定すら充たしていないという事態は防止し得たはずである。
また、4号建築物について仕様規定を充たせば構造計算を免除するとしていることも要因であり、構造計算を行っていれば安全性が不十分という事態は防止し得たはずである。
エ  そもそも国土交通省は、平成17年11月の耐震偽装事件等、構造安全性を欠如した危険な欠陥住宅被害の多数発覚を受けた建築規制の見直し論議の中、平成20年4月22日付国住指第256号「四号建築物に係る確認・検査の特例の見直しについて」と題する文書を公表していた。
それによれば、「先般、四号特例が適用された建売住宅において、壁量計算を行っていない等の不適切な設計が行われ、約1800棟の住宅で構造強度不足が明らかになる事態が発生したことを踏まえ、四号特例の見直しを予定しているところですが、見直しの具体的な内容や時期については今後の検討課題であり、また、その実施にあたっては、設計及び審査の現場が混乱しないよう十分に周知等を図ることしています。」としたうえ、「建築関係者の皆様におかれては下記の点にご留意ください。」として「【留意点その1】今後、構造設計一級建築士制度の創設等を内容とする改正建築士法が施行されますが、四号特例の見直しを改正建築士法の施行と同時に実施するものではありません。四号特例の見直しは、設計者等が十分に習熟した後に行うことにしており、その実施時期はまだ決まっておりません。」、「【留意点その2】四号特例の見直しに関連し、本年夏頃より全国各地で、設計者など実務者向けに戸建て木造住宅の構造計画に関する講習会を実施します。」などと記載されている。
つまり、国交省自ら、4号建築物について構造強度が不足するものが多数存在しており、そのため特例の見直しが必要であるという実情を認めていたのである。
(5) 上記のように、生命・健康・財産に重大な危険をもたらす欠陥住宅被害については、司法による事後的救済は個別的なものにすぎず抜本的救済には至らない上、被害者側の立証のハードルが非常に高く、かつ訴訟が長期化する傾向にもあるため、そもそも提訴に至らないか、提訴しても十分な被害救済を得られないことも多い。こうした事情により、危険な欠陥住宅が解消されないまま社会に存続し続けている。そもそも法令による明確な技術基準によって十分な事前規制がなされていないために日々生み出されている欠陥住宅については、裁判所は「欠陥である」と評価すること自体に躊躇を覚える始末である。
社会経済的な観点から見ても、欠陥住宅被害に関する対処としては、事前規制の方が圧倒的に効率がよく、住宅供給業者(工務店、不動産業者、建築士等)及び住宅取得者の双方にとって、不利益の回避に繋がることは自明の理である。
4  結語
  以上を踏まえ、4号建築物に関する安全性を確保するために、意見の趣旨のとおり、建築基準法令を改正するよう求める次第である。
以  上



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