「最高裁判所、法務省、国会に対し「谷間世代」の不公平・不平等を速やかに是正すること及び最高裁判所に対し貸与金の返還期限を一律猶予する措置を講ずることを求める会長声明」(2018年5月17日)


1  我が国では、終戦直後の昭和22年から、司法修習生に対し、修習期間中に給与が支払われてきました(以下「給費制」という)。
戦後の新憲法の下においては、裁判官、検察官又は弁護士のいずれを志望するにせよ、最高裁判所により司法修習生として採用され、少なくとも2年間、同じ司法修習を経なければならないものとされました。法の支配と民主国家の実現のためには、三権のひとつである司法権の強化が不可欠であると考え、司法権を支える社会的インフラとしての裁判官、検察官及び弁護士の法曹三者について、統一・公平・平等の理念に基づき、その役割を果たすために必要な高度な能力と高い職業倫理を備えるよう、国の責任で養成することとしたのです。このような司法修習制度の目的を達するために、国は、司法修習生に対し修習専念義務を課すと共に、修習に専念できる環境を整備するべく、給費制を採用したのでした。
しかし、この給費制は、2011年(平成23年)に廃止され、司法修習のために必要な資金を貸与する制度に変更されてしまいました(以下「貸与制」という)。
司法修習生は、修習専念義務を課され、原則として兼職・兼業が禁止されているため、収入を得ることはほとんどできません。そのため、修習費用や修習期間中の生活資金は自己負担となり、その手当として貸与制が作られましたが、約300万円(日本弁護士連合会の第65期から第70期への貸与額アンケート結果の平均値)の債務を負担せざるを得ない状況になりました。

2  そのような状況を受け、日本弁護士連合会やビギナーズ・ネットが給費制の復活に向けた活動を粘り強く続けたところ、多くの国会議員の賛同を得て、2017年(平成29年)4月19日、司法修習生に対して修習給付金を支給する改正裁判所法(以下、「本法」という。)が成立しました。これにより2017年(平成29年)の司法修習生(第71期)から基本給付金として月額13万5000円、さらに必要に応じて住居給付金(上限3万5000円)及び移転給付金が支給されることになりました。この支給額が充分なものであるかは今後の検討を待たねばなりませんが、貸与制の弊害を一部解消させるものであることは間違いありません。
もっとも、2011年度から2016年度に採用された新第65期から第70期までの司法修習終了者、いわゆる「谷間世代」の者たちに対しては、本法の審議過程において与野党を問わず多数の国会議員から救済措置を講じることの必要性が訴えられていたにもかかわらず、何らの救済措置も講じられませんでした。

3  この「谷間世代」の者たちも、修習専念義務を負って司法修習を終え、他の世代の法曹と同様、司法の担い手として、公益的な役割を果たしています。それにもかかわらず、谷間世代の経済的負担だけが残る不公平・不平等な事態が発生しています。
上述したとおり、我が国の司法修習制度は、統一・公平・平等の理念に基づき設置・運用され、これが我が国の法曹の一体感と公共的使命感を醸成し、もって国民の権利擁護と社会正義の実現に資してきました。谷間世代の貸与金の返還という不公平・不平等を是正することは、谷間世代を含む法曹全体の一体感を維持し、ひいては国民の利益にも通じると考えられます。
そして、新第65期司法修習終了者については、本年7月25日に貸与金の返還が開始されることから、「谷間世代」の不公平・不平等の是正は、今すぐ行わなければならない喫緊の課題です。

4  よって、当会は、最高裁判所、法務省、国会に対して、「谷間世代」の法曹(裁判官・検察官・弁護士)の経済的負担が旧第65期以前及び第71期以後の司法修習終了者に比して著しく重くなったままであるという不公平・不平等な事態が発生していることについて、一律給付などの方法によりこれを是正する措置を講ずることを求めます。
また、併せて、新第65期司法修習終了者(裁判官・検察官・弁護士)の貸与金返還が開始する本年7月25日までに上記の措置が講じられない場合は、上記是正措置が講じられるまでの間、貸与金の返還期限を一律猶予する措置を講ずることを求めます。

2018年(平成30年)5月17日

京都弁護士会

会長  浅  野  則  明


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