「第5次エネルギー基本計画(案)に対する意見書」(2018年6月14日)


2018年(平成30年)6月14日

経済産業省  資源エネルギー庁  長官官房総務課 パブリックコメント受付担当  殿
経済産業大臣  世  耕  弘  成  殿
外務大臣      河  野  太  郎  殿
環境大臣      中  川  雅  治  殿
総務大臣      野  田  聖  子  殿

京  都  弁  護  士  会

会長  浅  野  則  明
  


第5次エネルギー基本計画(案)に対する意見書



  福島第一原発事故を踏まえ、当会は、2012年2月23日、「福井県内に設置された原子力発電所及び原子力施設に関する意見書」において、2022年までのできるだけ早い時期にすべての原子力発電所を廃炉にすることを求めた。また、本年3月6日、経済産業省資源エネルギー庁(以下「エネ庁」という。)がパブリックコメントに先立って設置した意見箱に「エネルギー基本計画改定にあたっての意見書」を提出し、エネルギー基本計画の改定に向けた検討課題として、①「エネルギー政策を通じて私たちが目指す社会」を明確にすること、②客観的で信頼できる検証可能な情報とデータに基づく原子力の経済性の検証、③パリ協定後の世界の潮流を直視し、エネルギー転換によって国際競争力を向上すること、④原子力と石炭火力を「ベースロード電源」とする考え方から脱却し、再生可能エネルギーの加速的導入を可能にする電力需給システムの構築、⑤送電網(系統)の適正な運用等による再生可能エネルギーの加速的導入の推進、⑥地域経済の発展を支える地域密着型の再生可能エネルギー促進政策の推進、⑦国民主体のエネルギー政策決定プロセスの実現を求めた。
  しかしながら、本年5月19日、エネ庁が公表した第5次エネルギー基本計画(案)は、当会の上記意見を踏まえるものではないので、改められるべきである。
  第一に、脱炭素へのエネルギー転換の動きが世界的に加速していることに触れるものの、原子力と石炭火力を重要なベースロード電源とする現行計画を踏襲するものであるから、2030年のエネルギーミックス(電源構成)の見直しには踏み込むべきである。また、再生可能エネルギー(以下「再エネ」という。)の「主力電源化を目指す」とは述べるものの、「火力に依存しており、それだけで脱炭素化は実現できない。蓄電・水素と組み合わせれば脱炭素化となりうる」といった抑制的な視座に囚われ、再エネのコストを過度に強調し、再エネの大量導入には「経済的に自立」させることを求めている。しかし、このような考え方は再エネの主力電源化に不当な障壁を設けるものであって、化石燃料及び原子力から再エネへの転換を図るとの方向性から乖離しており、時代認識を欠いている。世界に目を向ければ、既に複数の国において再エネ比率が30%を超えている現状に加え、自民党の再生可能エネルギー普及拡大委員会において指摘されているように、2030年のエネルギーミックスにおける原子力の比率(20~22%)には実現可能性がない中で、我が国が再エネの「主力電源化」を目指す以上、2016年11月25日付け第29回近畿弁護士会連合会人権大会第2決議「再生可能エネルギーによる脱原発・持続可能なエネルギー政策を目指す決議」が示すとおり、2030年のエネルギーミックスにおける再エネの比率を30%以上に、2050年には50%以上に引き上げる目標値を示すことこそ、第5次エネルギー基本計画のあるべき姿である。
  なお、高効率石炭火力へのリプレースを国内外で推進するとしているが、高効率であっても天然ガスの1.5倍の二酸化炭素を排出する石炭火力に頼る姿勢を示すことは、2050年までに温室効果ガスを80%削減するとのパリ協定の長期目標と整合せず、国際的な脱炭素化の潮流に反するものであるから、石炭火力に頼る姿勢を示すことには反対である。
  第二に、エネルギー政策は国の経済や国民生活に直結するだけでなく、気候変動対策の前提ともなるものである以上、エネルギー基本計画の改定にあたりエネルギー政策を通じて私たちが目指す社会像が再生エネルギーを軸とした持続可能で世代間公平及び世代内公平が実現される社会であることを明記すべきである。
  最後に、私たちは、再エネを中心に据えた脱炭素社会の構築に向けて世界が加速的に変化し、国際競争が激化する中で、既に後塵を拝している現状を直視しなければならないことを踏まえれば、エネルギー基本計画は、現行計画の踏襲ではなく、多様な国民の声が反映される審議会において、十分な情報開示のもとで議論を尽くし、現行計画の踏襲ではなく、抜本的に見直していくことを要望する。
以  上


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