「最低賃金の大幅な引き上げ及び最低賃金の決定にかかる審議過程の公開の推進等を求める会長声明」(2018年6月25日)


1  中央最低賃金審議会は、2017年7月27日、厚生労働大臣に対し、2017年度(平成29年度)地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行ったが、京都府の目安はBランクの25円であった。例年、中央最低賃金審議会が示す目安を参考として、各地の地域別最低賃金審議会において、地域別最低賃金が決定されている。京都地方最低賃金審議会においても、2016年度(平成28年度)の京都府最低賃金が1時間あたり831円であったところ、2017年8月7日上記中央最低賃金審議会の目安を反映し、25円引き上げて856円にすることが適当であるとの答申がなされ、同年10月1日から856円に引き上げられて運用されている。
しかしながら、以下に述べるとおり、労働者の生活の安定という観点からは引き上げ後の最低賃金においても、なお十分とは言い難く、最低賃金の更なる大幅な引き上げが必要である。

2  わが国の最低賃金制度は、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、以て労働者の生活の安定等に資することを目的としている(最低賃金法1条)。ここで1か月当たりの労働時間として、厚生労働省の毎月勤労統計調査の結果(平成29年度確報)である168.3時間(調査産業計の一般労働者の総実労働時間)を用い、京都地方最低賃金審議会の答申による金額である1時間当たり856円をもとに試算すると、1か月の賃金額は14万4064円となる。
他方、京都市の家計調査報告(平成29年平均)においては、勤労者世帯1世帯当たり1か月間の実支出は32万6920円(世帯人員3.30人に対し、有業人員1.68人)であるところ、これを有業人員1人当たりに換算すると19万4594円の負担となる。これを1か月間の総実労働時間168.3時間で除すると1156円となる。
最低賃金額は労働者の健康で文化的な生活を維持するためのものであるが、現在の最低賃金額は、フルタイムで働いた場合においても、有業人員1人当たりの負担額とは大きな隔たりがあり、労働者の生活の安定という法の目的を達成するには不十分である。

3  政府は、2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において、2020年までの目標として、「全国最低800円、全国平均1000円」に最低賃金を引き上げることを明記し、2016年6月2日に閣議決定された「日本再興戦略2016」の行程表においても、全国加重平均が1000円となることを目指すとしている。2020年に全国加重平均1000円を達成するためには、現在の京都府の最低賃金は全国平均を上回っていることから、京都府では最終的には1000円を超える水準までの引き上げが必要となる。従って、労働者の生活の安定を図る観点からは、上記目標を早期に達成し得る大幅な最低賃金の引き上げが必要不可欠である。

4  当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士法の理念を踏まえ、2014年12月25日「ワーキングプア解消のための公契約法及び公契約条例の制定を求める会長声明」を発表するなどして、労働者に適正な賃金を保障するとともに地域経済の活性化を図る提言を行ってきた。また、労働問題や生活保護問題のホットラインを開催し、貧困・労働問題に関する市民シンポジウムも継続的に行ってきた。2017年6月22日にも「最低賃金のさらなる引き上げを求める会長声明」を発表した。
かかる経緯を踏まえ、当会は、改めて京都地方最低賃金審議会に対し、京都府の最低賃金の大幅な引き上げを図り、地域経済の健全な発展を促すとともに、労働者の健康で文化的な生活を確保されるよう求める。また、政府、京都府・京都市においては、中小企業の賃金引き上げを誘導するための補助金制度等の構築・充実が検討されるべきである。

5  また、適正な最低賃金の決定過程を透明化し、実質的な議論を担保するために、最低賃金に関する審議過程の公開を推進すべきである。京都地方最低賃金審議会の審議は公開されているが、最低賃金専門部会、特定(産業別)最低賃金専門部会及び全員協議会は非公開であり、かつ議事要旨のみしか閲覧できない。これらの審議も公開されるべきであり、また議事録等は市民の利用が容易なインターネット上で公開されるべきである。
さらに、京都地方最低賃金審議会において、最低賃金の引上げが雇用や経済に与えた影響についてしっかりとした検証作業をすべきである。科学的な検証結果に基づく検討作業の実施によって府民の信頼を得ることができるのである。

      2018年(平成30年)6月25日

京  都  弁  護  士  会

会長  浅  野  則  明
  

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