いわゆる「高度プロフェッショナル制度」が創設されたことに抗議する会長声明(2018年7月19日)


1  2018年(平成30年)6月29日、高度プロフェッショナル制度を含む「働き方改革一括法案」は、国会にて可決・成立したが、当会は、この高度プロフェッショナル制度の創設に対し、以下のとおり抗議する。

2  当会は、2015年(平成27年)6月24日付で「労働時間規制の緩和に反対する会長声明」を、2018年(平成30年)3月27日付で「高度プロフェッショナル制度創設の法案提出に反対する会長声明」をそれぞれ公表した。
    当会は、これらの声明において、①政府は高度プロフェッショナル制度について「成果型労働」と説明しながら、法案には「成果で評価される働き方」を確保するための制度は全く盛り込まれておらず、実際には適用対象労働者が労働時間管理・規制の対象外となる旨しか規定されていないこと、②労働時間規制の適用をすべて除外すれば、長時間労働に歯止めをかけることが著しく困難となり、労働者の健康を害する危険性が高まること、③適用範囲が抽象的で拡大のおそれが高く、またひとたび導入されれば、年収要件が引き下げられ適用対象労働者が拡大していくことが強く懸念されること、④健康・福祉確保措置は長時間労働の歯止めとしてはあまりに緩やかであり、また、労働者が同意を拒否することも現実的には難しいと考えられること等を理由に、高度プロフェッショナル制度創設に反対する意見を述べた。
また、日本弁護士連合会が2015年(平成27年)2月27日に公表した「公労使三者構成の原則に則った労働政策の審議を求める会長声明」で指摘しているように、そもそも高度プロフェッショナル制度は、労働者側委員が一人もいないところで議論された「日本再興戦略2014」で方針決定され、しかも労働政策審議会で労働者側委員の反対意見を反映しないまま建議されているものであるという問題点もある。
    しかし、当会及び日弁連が指摘したこれらの問題点は何ら是正されることなく、高度プロフェッショナル制度は創設されてしまった。

3  さらに、高度プロフェッショナル制度の問題性は、2018年(平成30年)通常国会の審議の中で、ますます明確なものとなった。
    まず、立法事実が認められないことが明らかとなった。制度のニーズについて、政府からは、「12名の労働者からの聞き取り」のみが根拠という説明がなされた。それだけでは、立法事実は到底認められないというべきところであるが、本通常国会審議の中ではその12名からの聞き取り自体が「働き方改革一括法案」の法案要綱が作られた後に行われたものであることが明らかとされた。また、安倍晋三首相自身も、2018年(平成30年)6月26日の参議院厚生労働委員会で、「適用を望む企業や従業員が多いから導入するものではない」との答弁を行っている。つまりは、制度のニーズについて全く根拠がないまま法案が作成されたことが政府の説明からも明らかとなった。
    さらに、政府は、対象業務・対象労働者などの適用要件の重要部分を法文化しないまま「省令に委ねる」「これから議論する」と説明している。この点は、労働条件の最低基準を法律で定めるべきものとする憲法27条2項に違反する疑いがあるというべきである。

4  以上のとおり、高度プロフェッショナル制度は、立法事実が認められないことに加え、このまま施行すると労働者の健康を害する危険性が高まる事態となることや、適用要件の重要部分が法定されていないという制度自身の重大な欠陥がある等、看過できない重大な問題点が多数残されたまま創設された。
    当会は、改めて高度プロフェッショナル制度の問題性を指摘するとともに、同制度創設を含む法改正が行われたことに抗議する。

2018年(平成30年)7月19日

京  都  弁  護  士  会

会長  浅  野  則  明


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