司法修習生の給費制維持を求める声明(2003年9月9日)


司法修習生の給費制維持を求める声明

                              
  財務省の財政制度等審議会が、司法修習の給費制の早期廃止を提言し、司法制度改革推進本部の法曹養成検討会でも「貸付制への移行」が検討されることになった。
  しかしながら、当会は、司法修習生に対する給費制の廃止に強く反対し、その堅持を求める。

  第1に、司法修習生に対する給費制の廃止は、法曹となるべき者を経済的理由によって選別することにもなりかねず、決して受け容れられない。
  新しい法曹養成制度において、法曹を志す者の経済的負担は、法科大学院の学費負担だけでも看過し得ない水準に達する。さらに司法修習生の給費制を廃止するならば、経済的理由から、法曹を断念する者が現れることは容易に予想される。
  このような法曹となるべき者の経済的理由による選別が許されるものでないことが明らかであるばかりか、裁判を通じた法形成が裕福者層の法意識のみを反映したものになることも予想され、これは、人権擁護を使命とし、公正であるべき裁判が、特定の層の利益を代弁する手続に堕落することに結びつき、司法作用の本質を犯す危険を持っている。

  第2に、司法修習生は、他の公務員と同様高度の職責と義務を有している。公務員は、その職責と義務を貪財のために汚すことがないように、その収入を保障されるのであって、この理はその職務上秘密を知り得、間接的にではあれ司法作用に影響を及ぼし得る立場にあることからして、準公務員たる身分を有する司法修習生にあっても変わらない。したがって、司法修習生に対しても、俸給が保障されなければならない。

  第3に、司法修習の実を挙げるためには、修習に専念できる環境を整備することが不可欠である。生活が保障されていることは、かかる環境の本質的な要素であって、これを奪うことは質の高い法曹を養成するという新しい法曹養成制度の目的に反する。

  第4に、修習専念義務を課し、他に生計を得る道を奪っておきながら俸給を与えないことは、公平の観念に反する。

  第5に、国は、司法制度改革の実現のために、必要な財政上の措置を講じる義務がある。国の財政事情は、給費制廃止の理由とはならない。

  以上の理由から、司法修習生に対する給費制は堅持されるべきであって、その廃止には強く反対するものである。
  なお、給費制に代えて貸与制を採用すべきとの意見があるが、司法修習生が多額の負債を負って修習に従事することの弊害は、上述したところと変わらない。むしろ、貸与制を採用した上で、任官者等について返還義務を免除するとすれば、法曹三者の公平と平等を害し、司法修習の本質を犯す弊害が加わる。したがって、貸与制の採用は、断じて認められない。                                              

2003年(平成15年)9月9日

京都弁護士会  塚  本  誠  一

関連情報