公判廷での手錠・腰縄使用問題国賠訴訟判決についての会長声明(2018年12月19日)


刑事事件の被告人となった人は、有罪の判決が確定するまでは、無罪として推定される権利が保障されています。また、刑事事件において、被告人は、検察官と対等の訴訟当事者として手続を進める立場にあります。
  法律上、「公判廷においては、被告人の身体を拘束してはならない」との原則が定められていますが(刑事訴訟法287条1項)、実際には、刑事裁判のため勾留されている被告人は、法廷に出入りする際に、手錠・腰縄を施され、その姿を、傍聴人を初めとする法廷内の人々に晒されています。
このような扱いを強いられることは、個人としての尊厳や無罪推定を受ける権利に反するとして、刑事被告人であった原告が国に賠償を求めた事件について、京都地方裁判所は、2018年(平成30年)9月12日、判決を言い渡しました。判決は、法廷への出入りの際、手錠・腰縄をされた姿を晒されないようにする措置を原告が求めたことに対し、裁判長がこれを認めなかったことは裁量の範囲内であり違法ではないとして、原告の請求を退けるものでした。
しかし、手錠・腰縄を施された姿が「犯罪者としての取り扱い」をイメージさせるものであることは明らかです。そのため、現在、裁判員裁判の場合に限っては、裁判員が被告人の手錠・腰縄姿を目にすることによって、そのようなイメージによる「有罪」の予断を抱かないようにするために、手錠・腰縄を取り外してから裁判員が入廷する運用が行われています。上記の判決で問題となった刑事事件は、裁判員裁判対象事件ではなく、職業裁判官のみが審理する事件でしたが、裁判員は予断を抱く可能性があるのに、職業裁判官ならば予断を抱く可能性はないと言える保障はありません。また、被告人の手錠・腰縄姿は、それを「見る」側が予断を抱く問題だけではなく、「見られる」側の被告人の尊厳の問題に直結します。つまり、裁判官や裁判員に見られることだけでなく、公開の法廷で傍聴人などにその姿を晒されること自体が、被告人に耐え難い屈辱感を強いるものであり、被告人の尊厳や、無罪推定を受ける訴訟当事者としての権利に反することになります。
この問題について、近畿弁護士会連合会は、「刑事法廷内における入退廷時に被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める決議」(2017年(平成29年)12月1日)において、現在の運用が被告人の諸権利を侵害していることを明らかにし、裁判所・拘置所等の関係機関に対し、逃走等の具体的なおそれがない限り、入退廷時においても手錠・腰縄を使用しないことを求めるとともに、弁護士・弁護士会としてもこの問題を是正するための弁護活動に務めることを明らかにしたところですが、今回の京都地裁の判決が、この問題の違法性を認めず、原告の請求を棄却したことは、遺憾と言わざるを得ません。
当会は、被告人の尊厳や無罪推定の権利を保障するため、さらに引き続き、弁護活動を通じてこの問題の是正に努める決意ですが、裁判所・拘置所等の関係機関に対しても、被告人の入退廷時に一律に手錠・腰縄を使用することのないよう、改めて強く求めるものです。

2018年(平成30年)12月19日

京  都  弁  護  士  会

会長  浅  野  則  明


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