民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案についての声明(2004年3月25日)
政府は、平成16年3月2日、民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案(以下「本法案」という)を国会に提出した。本法案は昨年10月以後司法アクセス検討会で十分な議論のないまま取りまとめられた、合意があった場合に敗訴者負担とする案をほぼそのまま法案化したもの(いわゆる「合意による敗訴者負担制」)である。
本法案は訴訟代理人を選任している当事者双方の共同の申立があるときは訴訟代理人報酬を訴訟費用に含めることとし、その金額については別表を設けて掲記している。それによれば、訴額が100万円のときは10万円、1000万円のときは30万円、3000万円のときは36万円が敗訴者負担となる金額であり、これは審級ごとに別個に訴訟費用になる。当会は、昨年12月、合意による敗訴者負担制については反対である旨決議し、市民団体とともに国会上程に反対する運動を展開してきたが、それにもかかわらず、今回の事態を迎えたことは誠に遺憾である。
本法案は、そもそも立法趣旨目的が不明である。もともと敗訴者負担制は、司法制度改革審議会意見書が、勝訴しても弁護士報酬を回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者に訴訟を利用しやすくする見地から導入を検討するとされたものである。しかし、本法案では勝訴確実な側が敗訴者負担を求めても敗訴確実な相手方がこの求めに応じることは考えられないから弁護士報酬を敗訴者負担にすることはできず、上記審議会が求めていた司法アクセス促進にはならない。また敗訴者負担制導入論の根拠となっていた敗訴当事者に勝訴当事者の弁護士報酬を負担させるのが公平だとの見解に応えるものでもない。かえって勝訴の見通しがつきにくいほとんどの訴訟では、あらたに合意による敗訴者負担制を選択するかどうかという困難な選択を当事者に迫るものであって、いたずらに訴訟利用者の判断を攪乱させ、訴訟制度への信頼を損ないかねないものである。
さらに本法案の重大な問題点として、当会が昨年12月に仮に合意による敗訴者負担制の検討をする場合には不可欠とした?消費者と事業者との間で結ばれる約款や労働者・使用者間の就業規則などの私的契約での敗訴者負担の合意を無効とする規定、?不法行為の損害論に対する影響を排除する措置などに対して、何の配慮もなされていないことが挙げられる上、裁判所の事実上の心証形成に影響を与えるとの危惧が解消されているとは到底評価できないのである。
このように本法案は市民の司法アクセスを促進するどころか、かえって消費者、労働者など弱者の司法利用を阻害し、司法制度の信頼を損ないかねない制度であるから、当会はこれに強く反対する。
本法案は、裁判員制度導入法案など他の司法改革法案と一括提案一括審議されようとしているが、本法案の重大な問題点に鑑みこれを分離して審議し、上記の問題点が解消しない限り廃案にすることを当会は強く求める。