決議

裁判員法案・刑事訴訟法改正法案の抜本的修正を求める決議(2004年4月20日)



2004年(平成16年)4月20日
京  都  弁  護  士  会


はじめに
1999年に司法改革審議会が設置されてから5年が経過し,今国会で改革関連の法律案がほぼ出揃ったことから,今回の司法改革も大詰めを迎えている。これまで当会も,法曹一元・司法改革推進本部を立ち上げ,日弁連や他会と力を合わせて,広く国民にも働きかけながら,市民のための司法改革の実現に向けて,様々な取り組みを展開してきた。
  既に法科大学院が誕生し,裁判官制度改革の枠組みができつつあり,弁護士制度も大きな変化を迎えている。司法改革が単なるかけ声だけにとどまらず,種々実現に向かって進んでいることは率直に評価すべきである。とりわけ,国民が刑事裁判に参加する「裁判員制度」の実現をはかろうとすることは,極めて意義深いことと言える。
しかしながら,国民参加の実をあげるためには,この制度が広く国民に周知されると共に,国民が参加しやすく,かつ国民の意見が反映されるよう制度を設計することが求められる。また,この制度の導入と合わせて,刑事手続が改正されようとしているが,これまで被疑者・被告人の権利保障の点で多くの問題を抱えてきた日本の刑事司法が抜本的に改革されることが必要であり,後退を招くようなことがあってはならない。
このような観点からすると,今回提案されている裁判員法案及び刑事訴訟法改正法案は,いずれも基本的なところでなお多くの問題を残しており,抜本的修正が強く望まれる。現在上程されている内容のまま立法化されるようなことになると,今後に禍根を残すことともなりかねず,容認しがたいところである。
当会は,上記2法案にかかわる以下の点について,今国会で十分な審理が尽くされ,抜本的修正がなされるよう強く求めるものである。

裁判員法案の修正すべき事項
1  裁判官は1または2人,裁判員は9ないし11人とすべきである  
    法律案では,裁判官3人,裁判員6人となっているが,現在の「部制度」のもとではそれを構成する3人の一体性が強固であるため,そこに6名の裁判員が参加するというのでは市民の意見反映は困難である。裁判員の数を9人ないし11人に増やすべきである。また,一定数の裁判員が参加することをふまえると,少なくとも裁判官については1名ないし2名とすることが必要であり,かつそれで足りるというべきである。
2  評決は全員一致を原則とし,例外的に特別多数決とすべきである
法律案では,評決は単純多数決とされているが,これでは十分に慎重な議論が尽くされないままの多数決によって結論が決められてしまうおそれがある。また,半数近い者が有罪に異論を有しているときにも,過半数の意見で有罪とできるとすることは,無罪推定の原則から見て問題がある。それゆえ,原則として全員一致によることを法文上明記すべきである。そして一定回数もしくは一定時間評決を繰り返しても全員一致に至らない場合の例外として特別多数決(3/4または2/3以上)によることができるものとし,いかなる場合でも単純過半数は許されないものとすべきである。
3  裁判員の守秘義務条項について抜本的に修正すべきである
法律案では,裁判員は任務中のみならず任務終了後においても職務上知り得たすべての事項について守秘義務を負うとされ,この違反について懲役刑が法定されている。しかし,このような厳しい守秘義務を課することは,裁判員に萎縮効果をもたらし参加意欲を減退させる。また,今後運用の実情に応じて裁判員制度をよりよいものへと改善していくには,裁判員を務めた人たちがその経験を語ることが何より有用であるが,そうしたことをも不可能とする。
それゆえ,任期中は原則的には全部の事項について守秘義務の対象とし(但し,その場合でも評決の手続違背などを指摘する等,正当な理由がある場合は別とするなどの配慮が必要である),任務終了後は自分以外の発言者が特定されるような形での評議内容の公開や,報酬を得る目的での情報提供など一定の範囲に限定して守秘義務を課すようにするなど,守秘義務の内容を限定すべきである。そして,違反した場合の罰則は,罰金にとどめるべきである。
4  保釈取消事由の規定は修正されるべきである
法律案では,裁判員もしくは補充裁判員に,面会,文書の送付その他の方法により接触すると疑うに足りる相当な理由があることが保釈取消事由とされているが,「接触すると疑うに足りる相当な理由がある」という規定の仕方では,解釈運用によっては抽象的疑いだけでいつでも保釈を取り消すことができることになり,極めて不当である。それゆえ,この規定を「接触したとき」に修正すべきである。
  
刑事訴訟法改正法案の修正すべき事項
1  取調べの可視化を実現すべきである
  法律案には,取調べの可視化についての規定がない。裁判員制度は,充実かつ迅速で集中した審理が求められる。この点で最も問題となるのが,自白の任意性を関する証拠調べのあり方である。捜査官が取調べ経過を書面に記録するというような方法では改善がはかられないことは明らかであり,取調べ全過程の録画・録音による可視化の導入以外に解決の方法はない。
2  全面的な証拠開示を認める規定に修正すべきである
  法律案では,証拠開示手続が明文化されたが,当該証拠が開示規定の定める証拠にあたるかどうかは裁判所が裁定することとなっており,運用次第では証拠開示の拡充が不十分なものとなるおそれがある。全面的な証拠開示を認めるか,少なくとも検察官手持ち証拠の標目が事前に全面的に開示されることによって,裁判所の裁定などによる証拠開示が適切かつ十分に機能するようにする必要がある。
3  公判前整理手続は修正が必要である
  法律案では,裁判員制度を円滑に進めるため,公判前整理手続を行うものとされているが,裁判員が審理に加わる前に,裁判官が事実上の心証を得る可能性のあることは避けなければならない。このことは,予断排除の原則からも裁判官と裁判員が当該審理において同じスタートを切る上からも,裁判公開の原則からも,指摘できるところである。
  公判前整理手続は受訴裁判所以外の裁判所が行うこと,自白の任意性についての証拠調べは,公判において裁判員のもとで行われるようにすること,整理手続終了後の立証制限を課さないことなどの修正が必要である。
4  開示証拠の目的外使用禁止規定は厳格に限定すべきである。
法律案は,開示証拠を準備目的以外に使用することについて,全面的な禁止規定をおいている。しかしながら,このような禁止規定は,裁判に対する自由な批判や意見表明を規制し,実質的な裁判の公開原則を否定する危険を持っている。同時に,ただでさえ孤軍奮闘を余儀なくされる被告人をさらに孤立化させ,十分な防御権の行使に大きな支障をきたすこととなる。財産上の利益を得る目的で使用した場合などに禁止行為を限定すると共に,罰則規定については削除すべきである。
5  十分な準備時間の確保と保釈制度の拡充がはかられるべきである
法律案では,これらの点についての規定ないし改正がない。しかしながら,充実かつ迅速な審理として連日的開廷を行うための最低限の条件として,被告人・弁護人に十分な準備の時間を保障すること,被告人の身体拘束を長期化させないと共に十分な防御活動を可能にするため保釈制度を抜本的に拡充することが不可欠である。

以上のとおり決議する。

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