司法修習生の給費制の堅持を求める会長声明(2004年6月29日)




  去る6月15日、政府の司法制度改革推進本部が、2006年度(平成18年度)から国が司法修習生に給与を支給する制度(給費制)を廃止して、一定額を貸し付ける貸与制を導入する方針を決定したことを受け、政府は今秋に予定される臨時国会に貸与制を盛り込んだ裁判所法改正案などの関連法案を提出することになった。
  当会は、2003年9月9日に「司法修習生の給費制維持を求める声明」を公表したが、上記の事態を受けてあらためて給費制の堅持を求めるものである。
  我が国においては、司法制度を通じて国民の権利を擁護し、社会正義の実現を使命とする法曹の重要性、公共性に鑑みて、司法試験合格者を直ちに実務に就かせることなく、一定期間の司法修習を課すことによって、高度の専門的能力と職業倫理を兼ね備えた人材を養成する制度がとられている。そして、司法修習生に兼業を禁止して厳しい修習専念義務を課すとともに,その生活保障として給費制が取られてきた。法曹への道が貧富を問わず広く国民一般に開かれたものになっていた淵源はここにある。
  法科大学院を中核とする法曹養成制度の下においては、大学卒業後も法科大学院に2年ないし3年在学することが必要とされ、その間にも多大な経済的負担を負うことになるため、司法修習生の給費制が廃止されれば、一層経済的負担が増大することは必至である。給費制の廃止は、国民のための司法を担う有為な人材に対し経済的事情によって法曹への門を閉ざす結果をもたらすものであり、その弊害は余りにも大である。
  貸与制の導入によっても、上記弊害が是正されるものではなく、それどころか司法修習を終えた新人法曹が社会への第一歩を踏み出すときから多額の債務を負担するという事態を招来する。このようなことは国民の権利を擁護し、社会正義の実現を使命とする法曹の活動を阻害することになる。
  近時、医師養成の分野においても研修医の生活を保障し、研修に専念できる環境を整えるために国費を支出する動きがあるが、司法修習生の給費制はこれと同趣旨のものであり、これを廃止することはこうした社会の動きに逆行するものである。
  給費制を廃止することは、司法修習制度の根幹を揺るがすものであり、国民が求める質の高い法曹を養成するという法曹養成制度の目的に反するものである。
  よって、京都弁護士会は、貸与制の導入に反対し、給費制を堅持することを強く求めるものである。

2004年(平成16年)6月29日


京都弁護士会

  
会  長      彦    惣        弘


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